コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第102回
2008年6月3日更新
第102回:大胆に生まれ変わった「LOST」シーズン4
つい先ほど「LOST」シーズン4の最終話「There's No Place Like Home」を見終えたところだ。これで来年1月のシリーズ再開まで「LOST」はお預けとなってしまうけれど、いまは残念な気持ちよりも、充実感のほうがずっと大きい。シーズン4が与えてくれた知的興奮のおかげで、今後の空白期間も楽しく過ごすことができそうだ。
シーズン4で、「LOST」は大きく改善された。ストーリー展開はずっと早くなったし、ストーリーテリング手法もどんどん大胆になって、「LOST」ファンじゃなければ、ついていけないほど刺激的になっている。あるエピソードなんかは、島の「現在」と並行して、フラッシュバック(過去)とフラッシュフォワード(未来)が両方とも使われていたくらいだ。
「LOST」がシーズン4で大胆に生まれ変ることができた背景には、2010年のシリーズ終了決定がある。アメリカのドラマは人気があるかぎり番組を継続させるのが慣例だが、単発エピソードの集まりである刑事物や病院物などとは違い、「LOST」はすべてのエピソードが連結して、ひとつの大きな物語となっている。おまけに、「島はいったいなんなのか?」という謎の解明に向かってストーリーが進んでいるため、無限に続けていけるわけではない。「LOST」に対する最大の批判といえばストーリー展開が遅いことだが、それは製作陣がゴールの見えないなかでドラマ作りを強いられてきたためであり、そのことを考慮すれば、かなり良い仕事をこなしてきたように思う。
昨年、製作側はネットワーク側から「LOST」をシーズン6で終了させる同意を取りつけた。そのおかげで、製作陣はネタを小出しにして時間稼ぎをする必要がなくなったのだ。シーズン3の後半からその効果が出始めており、シーズン4では物語のテンポばかりか、謎に対する答えを開示するペースが飛躍的に速くなった。また、SFやミステリーの要素ばかりではなく、ヒューマンドラマのほうもさらにパワーアップしている。とくに、デズモンドとペネロピのラブストーリーを描く第5話「The Constant」(「不変のもの」という意味)は、「LOST」史上最高のエピソードだったと思う。デッドラインを自ら設けることで、「LOST」は再生を果たしたのである。
シーズン4を見たあとで、「これだけ大風呂敷を広げておいて、ちゃんとしたオチはあるんだろうか?」という疑念を抱く人なんていないと思う。
いまはただ、歴史的なTVドラマをリアルタイムで体験できる喜びを噛みしめたい。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi