コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第12回
2019年5月13日更新
ウディネ映画祭で「カンパイ!」上映、大反響。涙ぐむイタリア女子も
イタリアのウディネ映画祭に来ています。映画祭の用意したシャトルバスで、私たちは宿泊先ホテルから映画祭のメイン会場「テアトロ・ヌオーヴォ」に移動します。この日、2019年5月1日は、13時05分より「カンパイ!日本酒に恋した女たち」の公式上映が行われるのです。そして上映の後には、今田美穂さんが広島から運んできたお酒「富久長」を映画鑑賞者に味わっていただく利き酒イベントもスタンバイ。
12時半頃。会場に着くと、上映を待ちわびる観客たちの長い行列が。嬉しいですねえ。このスクリーンは、キャパ1200名とけっこうな大箱です。
上映に先立って、小西未来監督と今田さんが舞台挨拶を行います。「見終わったら、日本酒が飲みたくなる映画を作りました」と小西監督が語ると、盛大な拍手。「早く見せろ! 早く飲ませろ!」と観客が煽っているかのよう。
そして96分間の上映が終わりました。場内の拍手が鳴り止みません。観客席のふたりは立ち上がって謝意を表明。「この町の観客は、とても温かいんですよ」と噂には聞いていましたが、こんなに拍手が大きいとは!
上映終了後、ロビーに移動して写真撮影と観客とのセッション。驚いたことに、大勢の観客がパンフレットや紙を手に、サインを求めて2人の前に並んでいます。中には涙を流して今田さんに握手とサインを求めるイタリア女子も。
「恐らく、彼女自身の人生とこの映画の内容がシンクロしたんだと思います。この映画は、泣かせるようには作っていませんよ」とは、小西監督の弁。映画は、かつて女人禁制だった日本酒業界で、色んなハンディキャップを乗り越えて奮闘する女性3人が主人公です。
サインを求める観客の列は、小西監督よりも今田さんの方に長く連なっていました。2ショットを求める観客もたくさん。今田さん、大人気です。これには本人もたいへん感激していました。
さらに会場を移動して、利き酒イベントへ。地元イタリアのフードコーディネーターが用意したチーズ2種類と、今田さんが日本から持ち込んだ「富久長」2種類がテイスティングに提供されました。
適度に冷えた富久長は、イタリア人に大人気です。みんな、チーズ片手に何度もおかわりしています。ちなみにヨーロッパにおける日本酒は、フランスやスペインでは比較的入手しやすくなっていますが、イタリアではそれほど流通していないんだそうです。なので、ここに集まったイタリア人にとっては「本物のSAKE」を味わえるまたとない機会。今田さん曰く「チーズと日本酒は相性抜群です。何故なら、両方とも発酵食品だから。同じ理由で、日本酒と生ハムも合うんですよ」。この説明に、イタリアの皆さんは大きくうなずきながら舌鼓を打っていました。
夜は日本食レストランで、和食と日本酒のペアリングコースの食事会。お昼と同じ「富久長」2種類に加え、この映画をきっかけに、今田さんと「GEM by MOTO」の千葉麻里絵さんが共同で作った「草」という日本酒も堪能することができました。
ウディネ・ファーイースト映画祭は、人口10万人のウディネの町で、アジアの映画のみを上映する映画祭です。今年で21回目とのこと。どうしてこんなニッチな映画祭が21年も続くのか、参加してみるまでは理解できませんでした。
今回、初めて参加してみて感じたのは、まずスタッフのホスピタリティーと観客の温かさ。そして、町と映画祭との一体感、スポンサーの存在感といったところ。予算は潤沢に持っているなとお見受けしました。一方で、カンヌ映画祭などに見られる、セレブ大集結・ホテル代暴騰みたいな現象とは無縁な感じで、浮ついたところがない。ヨーロッパの小さな町の上品な映画祭です。一度参加すると「また戻ってきたい」という感想を持つ人が多いというのは十分に頷けます。とにかく、美味しいプロセッコと生ハムとパスタが、ゲストの心を、いや胃袋をわしづかみにしますからね。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi