コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第5回
2008年7月11日更新
第5回:「クライマーズ・ハイ」健闘光る。「花男」はジェット機貸し切りツアー
「花男」が早くも動員200万人を突破した。同作には全日空が協力しており、香港のロケ地を巡るツアーも販売されているのだが、何とこの週末12日・13日は、全日空機を1機チャーターして映画のキャストたちが全国5都市を舞台挨拶に回るんだとか。ハリウッドスターの来日で、プレイベートジェット(というか、スタジオがチャーターするジェット機)利用という話はよく聞くが、日本映画ではもちろん初めての事例。タイアップにせよ、日本もなかなかスケールのデカいキャンペーンをやるようになったものである。
さて、新作では「クライマーズ・ハイ」に大注目。7月5日と6日のオープニング2日間では、動員13万4072名、興収1億7041万3199円となかなか健闘。04年1月の「半落ち」(最終興収19億円)対比で110%の出足なので、横山秀夫原作では過去最高のスタート。監督の原田眞人作品としても、99年の「金融腐蝕列島・呪縛」(興収14億円)を超えて自己ベストを更新しそうな勢いだ。作品の評価の高さからしても、興収15億円以上、できれば20億円まで狙いたいところ。
この「クライマーズ・ハイ」の成功は、TV局が関与しない日本映画がクリーンヒットを放ったという点で極めて意義深い。原作は50万部超のベストセラーだし、過去にTVドラマ化(NHKが制作し、2回に分けて放映)もされている、ある意味最近の日本映画の勝ちパターンを踏襲してはいる。しかし、昨今のTV局主導の製作委員会によるタイアップまみれ、過剰宣伝の産物とはひと味違う、作り手の骨太な意志とキャストたちの熱演によって造り出された、手の込んだ一品である。聞くところによると、宣伝費も2~3億円程度しか使っていないという話なので、実に効率のいいビジネスとなっている。映画の世界にいる様々な人たちを勇気づけるヒットである。
そして、やはり日本でもダメだったのが「スピード・レーサー」。全米での失敗の痛手は、ご当地日本でも癒されることはなかった。とはいえ、あの「マトリックス」を作った天才監督、いや、変態監督兄弟によるめくるめく映像世界をお見逃しないように。そして、くれぐれも小さなお子さんには見せないように。刺激が強すぎる。ラスト30分はさながら「見るドラッグ」の趣である。いずれにせよ、早く映画館に行かないと、上映が終わってしまう可能性が高い。急いで!(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi