コラム:細野真宏の試写室日記 - 第73回
2020年5月18日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第73回 試写室日記 「ライオン・キング」と「アナ雪」。勝ったのはどっち?/【番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第7回
日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。
その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。
昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?
ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!
そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。
そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。
その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。
【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】
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●第3位
「ベスト3位」にランクインした作品は、ディズニー配給の「ライオン・キング」です。
日本の公開日はアメリカより3週間遅く、「3週間の準備期間」があったので、その間に「アメリカでは公開10日間で、すでに『アラジン』を超えた!」など、海外での絶好調ぶりが報じられていました。
しかも、日本でディズニー配給作品は、認知度の高い「アラジン」や「トイ・ストーリー4」が興行収入100億円を突破したので、「ライオン・キング」の宣伝展開は、普段は見かけないレベルの“電車をまるごとジャックし、床の通路も含めた全面ラッピング広告”や、テレビなどでよく映りこむ渋谷駅での特大看板など、異例な規模で行なわれていました。
これは、認知度の高い本作「ライオン・キング」も興行収入100億円突破を強く意識していた雰囲気がありました。
ところが、いざ日本で公開されると、なぜか他の国ほど勢いがつかずに、最終的な興行収入は66.7億円という(世界的な視点からは)少し残念な結果に終わってしまいました。
本作は“フルCG”(ディズニーは「超実写版」と表現)のため、「アニメーション映画」として紹介されることも少なくないのです。
とは言え、実は本作「ライオン・キング」には“リアルな実写映像”もあったのです!
それは、ジョン・ファヴロー監督の遊び心で、あるシーンでリアルな実写の風景を使ったのだそうですが、さすがにそんな“難易度の高すぎるクイズ”に正解できる人はいないでしょう。
つまり、映画の世界では、そのくらいの領域までCGの技術が進化したことを本作が教えてくれたわけですね。
本作「ライオン・キング」は世界興行収入で歴代7位となっていて、「アニメーション映画」とすると、「世界興行収入歴代1位のアニメーション映画」ということになります。
では、日本で興行収入255億円を記録して、日本の映画市場で「すべての映画の中で歴代3位」、また「ハリウッドのアニメーション映画で歴代1位」である「アナと雪の女王」と比べると、どっちが勝っているのでしょうか?
ここからは世界的にどうだったのかを見ていきましょう。
「ライオン・キング」と「アナと雪の女王」は、一体どっちが勝ったのか?
まず、「ライオン・キング」の制作費は、最新鋭の技術が結集されているので2億6000万ドル(260億円規模)という破格な金額になっています。
対する「アナと雪の女王」の制作費は、1億5000万ドル(150億円規模)となっています。
実は「アナと雪の女王」は、「トイ・ストーリー4」(制作費2億ドル)などのピクサー作品と比べると、意外と堅実に抑えられているのです。
次に、「ライオン・キング」の世界興行収入は16億5694万ドル(1657億円規模)と、世界では稼ぎまくっているのです!
対する「アナと雪の女王」の世界興行収入は12億8080万ドル(1280億円規模)と、日本では絶好調であっても世界的には「ライオン・キング」に負けてしまっているのです。
最終的に「ライオン・キング」は5億5000万ドル(550億円規模)も利益を出していて、「アナと雪の女王」は残念ながら世界興行収入が響いて負けてしまっています。
日本では、未だに昔ながらの2Dアニメーション映画の人気が高く、日常的に見慣れた慣習があるので、日本においてはフルCGによる“実写にしか見えないアニメーション映画”(「超実写版」)は、しばらくは(他国に比べると)厳しい面があるのかもしれませんね。
良くも悪くも、これが「日本のカルチャー」なのでしょう。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono