コラム:細野真宏の試写室日記 - 第71回
2020年5月12日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第71回 試写室日記 「キャプテン・マーベル」と「ワンダーウーマン」。勝ったのはどっち?/【番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第5回
日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。
その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。
昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?
ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!
そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。
そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。
その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。
【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】
≫第1回(第21位~第25位)はこちら
≫第2回(第16位~第20位)はこちら
≫第3回(第11位~第15位)はこちら
≫第4回(第6位~第10位)はこちら
●第5位
「ベスト5位」にランクインした作品は、「アベンジャーズ」シリーズ(マーベル・シネマティック・ユニバース)のディズニー配給の「キャプテン・マーベル」です。
日本では、「アベンジャーズ」シリーズは単体の作品の興行収入は苦戦することが多いので、この結果は意外に見えるのかもしれません。
そもそも「シリーズもの」であるために登場人物が増えてしまい、世界的にも「一見さん」が入りにくくなっていることに加えて、「女性層」が入り込みにくい面もありました。
そこで、これらの問題を解決するために以下のような手法がとられたのでした。
まず、本作「キャプテン・マーベル」については、10年間にも及ぶシリーズ作品でありながら、“アベンジャーズのそもそもの原点”である1990年台半ばを舞台に描いています。
つまり、「一見さん」でも見られることを可能にしたのです。
さらには、「アベンジャーズ」という存在の原点には「キャプテン・マーベル」と呼ばれるようになった“女性”がいて、すべての始まりを知る意味でも非常に重要な作品、という仕掛けも「女性層の開拓」という意味で有効でした。
そして、これらの仕掛けが功を奏して、「公開初週の段階で、すでに採算ラインを突破する」という驚くべき快挙を果たしたのでした!
ちなみに、日本でも興行収入は15億円程度が現実視されていましたが、期待通り20億円を突破し20.4億円を記録しました。
このように「キャプテン・マーベル」は、「女性が主役のアクション映画」として大成功したのですが、「ヒロインアクション映画」としては忘れてはいけないライバルがいます。
「キャプテン・マーベル」と「ワンダーウーマン」は、一体どっちが勝ったのか?
実は、このマーベル作品の「キャプテン・マーベル」の前に、DCコミックスの「ワンダーウーマン」が2017年に「女性監督作品」および「女性が主役のアクション映画」として世界興行収入歴代1位を記録していたのです。
果たして、このマーベル作品とDCコミックスの「ヒロインアクション映画」対決は、一体どっちが勝ったのでしょうか?
まず、「キャプテン・マーベル」の制作費は1億7500万ドル(175億円規模)となっています。
これは、最初の「アイアンマン」の制作費が1億4000万ドル(140億円規模)であったことを考えると、単体映画の初登場作品で“この金額”は「期待度の高さ」と言えるでしょう。
一方の「ワンダーウーマン」は、制作費は1億4900万ドル(149億円規模)となっていて「キャプテン・マーベル」よりは安く済んでいます。
そして、世界興行収入は8億2184万ドル(821億円規模)も稼ぎ、これは未だに「女性監督作品で世界興行収入歴代1位」を誇っています!
この「ワンダーウーマン」の最終的な利益は2億5290万ドル(253億円規模)に達しているのです。
では、「キャプテン・マーベル」の世界興行収入はどうだったのか、というと11億2827万ドル(1128億円規模)と、「ワンダーウーマン」の世界興行収入8億2184万ドル(821億円規模) を大きく上回りました。
そして、「キャプテン・マーベル」の最終的な利益は4億1400万ドル(414億円規模)と4億ドルを突破しているのです!
つまり、制作費では「ワンダーウーマン」の方が有利でしたが、世界興行収入の差が3億ドル(300億円規模)も差がついてしまうと、最終的な利益も大きく差が出てしまうのです。
この勝負によって、「女性が主役のアクション映画」で世界興行収入歴代1位の記録は「キャプテン・マーベル」になりました!
とは言え、「キャプテン・マーベル」の場合は、女性と男性の2人の監督で作ったので、「女性監督作品で世界興行収入歴代1位」は「ワンダーウーマン」のままなのです。
さて、そんな「ワンダーウーマン」の続編が“新型コロナウイルスから映画業界が立ち上がるための起爆剤”として注目されています。
第一次世界大戦中の活躍を描いた前作「ワンダーウーマン」の評価は非常に高かったので、続編となる(1984年を舞台とした)「ワンダーウーマン 1984」は、「ワンダーウーマン」の記録を(通常であれば)超えるだろうと予想されますが、新型コロナウイルスの影響がどこまで出てしまうのか。
全米の公開日が2020年8月14日となっていますが、果たして無事に世界で公開されるのでしょうか?
そして、パティ・ジェンキンス監督によって再び「女性監督作品で世界興行収入歴代1位」の記録は更新されるのでしょうか?
新型コロナウイルスの推移を見守ると共に、そろそろ私たちも「ワンダーウーマン」の予習をしておく時期なのかもしれません。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono