コラム:細野真宏の試写室日記 - 第298回
2025年12月10日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第298回 「ズートピア2」は洋画不振を払拭し興行収入100億円突破できるか?

(C)2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
先週末12月5日から期待作「ズートピア2」が公開されました。
本国アメリカを始め1週前から公開が始まっていて日米同日公開ではないため、本作では不思議に思うことがありました。
それは日米同日公開ではなく既に作品が完成しているにも関わらず、マスコミ試写が開催されずに、最速で見られるのが公開日前日の夜に行われた「ズートピア2」前夜祭でした。

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ここで一足先に公開していたアメリカを中心とする評価に目を向けてみます。厳しい批評で有名な「Rotten Tomatoes」では、批評家は92%、一般層は96%と、どちらからも好評でした(2025年12月4日時点。以下同)。
なぜ事前にマスコミ試写が行われなかったのか――今回に限っては、その戦略が読めてはいないのですが、何はともあれ“最速”で見てきたのでレビューと興行収入の考察をしてみます。
まず、前作の「ズートピア」は2016年4月23日にゴールデンウィーク映画として公開されています。
「ユートピア」と「ズー」を掛け合わせた「動物だけの楽園」を舞台として、動物しか登場しない社会というディズニーらしさに溢れた設定。そして、それぞれの動物の特徴を活かした面白いシーンも多く、満足度の高い作品で私はとても気に入っていました。

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ちなみに、前作は「Rotten Tomatoes」では、批評家は98%、一般層は92%と、未だに高評価を維持しています。
日本での興行収入も76.3億円と大健闘しました。
ここまでの好成績だと、続編となる本作では興行収入100億円突破という期待が高まりますが、その可能性はどのくらいあるのでしょうか?
アメリカでは、消費が盛り上がるとされる「感謝祭」(11月の第4木曜日)に合わせて11月26日(水)から公開し、週末までの5日間で1億5880万ドルを稼いでいます。

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これは、前作と公開時期が異なり比較がしにくいため、同じ「感謝祭」における2024年公開の「モアナと伝説の海2」との比較で考えてみます。
「モアナと伝説の海2」の5日間での興行収入は2億2544万ドルという「感謝祭」期間での歴代最高を記録しています。
そして、アメリカでの「モアナと伝説の海2」の最終興行収入は4億6040万ドルとなっていて、前作「モアナと伝説の海」の最終興行収入2億4875万ドルから約85%もの大幅アップをしました。
このディズニー作品の同時期の「モアナと伝説の海2」の結果を当てはめると、本作のアメリカでの最終興行収入は3億2400万ドルが見込めます。
これは、前作「ズートピア」のアメリカでの最終興行収入が3億4126万ドルだったので、ほぼ同水準になる可能性があります。

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ただ、日本における「モアナと伝説の海2」の興行収入は、アメリカのように倍増近い伸びをしたのかというと、日本での「モアナと伝説の海」と「モアナと伝説の海2」の興行収入はそれぞれ51.6億円と同水準になっているのです。
これは、作品の世界観がどこまで浸透しているのかによる違いだと考えられます。
このアメリカでの試算も参考にしながら本作の日本のケースについて考えてみます。
まずは、私が本作を見た感想は、大きく3つありました。
1つ目は、前作から 9 年経っているので、アニメーション技術や映像が進化している点で、可愛らしさも増していて良かったです。
2つ目は、キャラクターが増える一方でテンポを重視しているためか、前作と比べると、深みが薄れてライトな作品のように感じました。ただ、「ファミリー映画」としては十分なエンタメ作品と言えると思います。
3つ目は、これまでのディズニー作品の吹替版の大きな特徴に「カスタマイズ化」がありましたが、本作では意外と英語のままになっているシーンが、やや多かった印象です。

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もちろん、要所要所で英語の表記を分かりやすく日本語に直しているシーンもあるのですが、これまでの他のディズニー作品の場合より「カスタマイズ化」が少ない印象でした。
さて、アメリカでの初週のデータから考察すると、「ズートピア」についてはアメリカと日本ではキャラクターの相性は同程度に受け入れられていると思えるので、結果もアメリカと似たものになると考えることもできます。
その場合は、アメリカも日本も前作と同程度と考えられるので、本作の興行収入は前作の76.3億円にどこまで迫れるのかが最初の大きな関門になりそうです。

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つまり、興行収入76.3億円に到達できれば十分な成功と言えると思います。
ただ、今回の作品についての宣伝の力の入れようには、ただならぬ本気度を感じられるのです。具体的には「日本全国ズートピア化計画」といった、かなり大掛かりな規模で全国的に創意工夫のある展開を繰り広げているのです。
それの一環なのかは分かりませんが、例えば公開初日にもTOHOシネマズに行った際に、スタッフらがキャラクターに関連した耳が付いているヘアバンドをして扮装していました。
このように、映画館なども巻き込んで「ズートピア化」をしていたりと、全方位的な力の入れようなのです。
その甲斐もあってか、日本における初速の週末3日間の興行収入は18億9106万7680円と大ヒットスタートを記録しました。
これは、「アナと雪の女王2」の興行収入19億3974万6600円には及ばなかったものの、前作の興行収入が「アナと雪の女王」「ズートピア」がそれぞれ254.7億円、76.3億円であることを踏まえると、日本における「ズートピア」という作品の人気度が、この9年間で驚異的に跳ね上がっていることが分かる結果でした。
このところ洋画不振が大きな課題になっていますが、ディズニーアニメーションは吹替版のクオリティーが高いこともあり、洋画の週末3日間では「アナと雪の女王2」に次ぐ歴代2位を記録していて、日本のアニメーション映画ブームにうまく乗れています。

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入場者特典も洋画としては珍しく、すでに第2弾も発表されているなど、入場者特典によるテコ入れも抜け目ない状況です。
さらには、映画館サイドとしては、この時期は、もう一つの日本のアニメーション映画が大きく興行収入を稼ぐことが期待されていたのですが、その思惑が外れてしまったので、その座席の機会損失を補う役割を本作が担うことになったのも追い風となっています。
このように「冬休み映画のファミリー層向けの本命作品」は本作に絞られたので、興行収入100億円という本来は非常に難しい目標を達成する可能性が高くなっているため、「ディズニー映画の大型人気コンテンツ」が新たに生まれる瞬間に立ち会えるのか大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono





