コラム:細野真宏の試写室日記 - 第27回
2019年4月26日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第27回 「名探偵ピカチュウ」。令和で「ポケモン」が再び勢いを取り戻せるのか?
2019年4月19日(字幕版)、25日(吹替版)@東宝試写室
連休中は更新作業も止まるようなので、少し早めに「10連休」後半戦の注目作である「名探偵ピカチュウ」の考察を簡単にしておきます。
まず、日本のコンテンツがハリウッドで映画化されることで世界に広がっていくのは、基本的には日本経済にプラスに作用します。
ただ、もちろん例外もあり「ドラゴンボール」の実写ハリウッド版のように、似て非なるものにされてしまうと目も当てられなくなります…。
その点、今回の「名探偵ピカチュウ」は、日本での配給元の東宝が出資もして、製作にも大きく関わっているため、クオリティーコントロールはしっかりできているのです。
そもそもアメリカでの「ポケットモンスター」の認知度は、どれほどなのでしょう?
実は「邦画のアメリカでの歴代興行収入」のトップは、日本でのポケモン映画の第1作目だった1998年の「 劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」で、興行収入8574万ドルを稼ぎ出しています。ちなみに、日本でも興行収入は72.4億円も稼いでいます!
ただ、実はこれが日米ともにピークで、アメリカでは邦画の歴代2位が2作目の「劇場版ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕」で、興行収入は4376万ドルにまで半減してしまいました。
ちなみにアメリカでは邦画の歴代3位は、昨年に公開された「ドラゴンボール超 ブロリー」となっています。
このように、ポケモンのアメリカでの人気も映画では落ちているようですが、認知度はゲームなどで残っていると思われます。
しかも、ランキングを見れば分かるように、「日本では圧倒的な歴代興行収入上位作品」である「ジブリ作品」がアメリカであまりヒットできていないことからも分かりますが、日本の2D型アニメーション映画というのは、3D型アニメーションを見慣れているアメリカでは、少し厳しい面もあるのです。
そこで、今回の「実写化プロジェクト」には期待がかかっているわけです。
まず、私は字幕版で見ましたが、いま思うとこれが少し失敗だったのかな、と分析しています。
本作の斬新なところは「なぜかピカチュウがオッサン声」で、しかも「その声をライアン・レイノルズが担当」という前情報で、私の頭は、
【ピカチュウの声がライアン・レイノルズという、良い意味でふざけた設定なら「デッドプール」並みのライアン・レイノルズの毒舌が見られるんだよね? しかも、ピカチュウでやるなら、場合によっては同じ感じのクマのぬいぐるみの「テッド」のようなラインまで行く可能性もあるってことだよね?】と、勝手に先入観を持ってしまっていたのです。
そもそも子供もメインであるわけで、そこまで「ポケモン」の世界観を壊すことが起こるはずもなく、私の勝手な思い込みから「あれ、そこまで大した作品ではない?」と感じてしまっていたのです。
そこで、頭をリセットするために吹替版で見てみましたが、なるほど、確かにこれは「いつものポケモン」だと思ってハードルを上げずに見ると、出来は良いですね!
これまでピカチュウをかわいいと思っていた人は、実写化のピカチュウでは、さらにその思いは強くなると思います。
この実写化は、本当にアリでした。
ちなみに、そもそも日本のコンテンツなので、絶対に吹替版のほうが作品の良さが伝わって良いと思いました。
私は字幕版の時は笑えませんでしたが、吹替版のほうは、さすが本家の東宝がよりセンスのある言葉選びを行っているので、作品のディテールもようやく理解できましたし、試写室でも字幕版より吹替版のほうが笑いも多く起こり、反応も良かったです。
渡辺謙にしても、わざわざ英語で話されるよりは、本人が吹替えをしていたほうがよっぽど自然に入り込めますよね。
さて、現時点で「日本版のピカチュウの声は誰が吹替えをしているのか」はシークレットになっていますが、これは公開日の5月3日に劇場で分かるようになっています。
私は見ていて気付きましたが、かなり適任だと思いましたし、エンドロールが終わった後に、日本版の吹替えキャストの名前が出てきますが、その時に「お~」とか「へ~」という前向きなサプライズがあったので、確かに知らないで見ておいたほうが良さそうですね。そのくらい全く心配の要らないキャスティングでした。
ちなみに「インターナショナルバージョンでも日本版でも、エンドロールは歌も含めて、全く同じもの」でした。
実は、私はこれまで「ポケモン」の映画を面白いと思ったことはほとんどなかったのですが、ようやくこの「名探偵ピカチュウ」で、人気の秘密が分かってきた気がします。
とは言え、日本で毎年恒例の夏休みの“一進一退”が続いている「ポケットモンスター」の興行収入がどのようになっていくのかはまだ現時点では未知数な面も多いので、しばらく「令和」での「ポケモン」には注視したいと思います。
何はともあれ、日本の「ポケットモンスター」というコンテンツは、この「名探偵ピカチュウ」で再び世界で注目され、それなりの成功を収めるような気がします。そして、その恩恵は通常版にもあると思います。
「10連休」の後半戦には、本作の公開もあって、本当に興味深いイベントが始まりそうです。
2019年は「過去最高だった2016年の興行収入2355億円」を超える年になれるのか?
案外、こういう興味深いバトルが増えれば増えるほど、実現に向かえるのかもしれませんね。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono