コラム:細野真宏の試写室日記 - 第190回
2022年10月20日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第190回 「劇場版ソードアート・オンライン」最新作が「ONE PIECE FILM RED」の連続V12を阻止する?
今週末10月22日(土)から「劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォ」が公開されます。
この作品は、当初は9月10日(土)に公開予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で制作体制に遅れが生じて、急きょ延期となっていました。
これが文字通り「急きょ」であったのは、「遅いな」と思っていたマスコミ試写が8月23日からようやく行われる予定になったのに、その前日、22日の夜に延期の連絡が来た状況からも裏付けられます。
ただ、私の感覚としては、「このような事例が意外と少ない」というイメージです。
というのも、アニメーション制作には本当に多くのスタジオが関わっています。そのため、どこかのスタジオで新型コロナの陽性者が出た場合、多くの人々が濃厚接触者となることで、スタジオ自体が機能しなくなるケースもあり得るからです。
アニメーション映画は手間がかかる上に、関わるスタジオの多さから様々なトラブルが考えられます。特に、国の基準が緩められるまでの新型コロナの問題は、火薬庫のようなものでした。
そう考えると、完成がギリギリのケースが多くあっても、公開延期がほとんどないというのは、ある意味で凄いことなのかもしれません。
さて、そもそも「ソードアート・オンライン」とは、物語の上では「2022年11月6日」に正式サービスが開始されるオンラインゲームの話です。
ただし、ログインしたら最後、ゲームを終わりまでクリアできないとログアウトできない、という設定です。そのため、「ゲーム内での死は、そのままリアルな死と直結する」のです…!
このような背景のもと、主人公・キリトの活躍を描いた物語が展開しており、2012年に第1期のTVアニメが放送スタート。今年は「アニメーション版の10周年記念」となっています。
ただ、物語自体が壮大なため、ヒロイン・アスナの視点で描かれるリブート版として、「劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ」シリーズがスタートしました。
第1弾の「劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア」が2021年10月30日(土)に公開され、本作は、その続編となります。
「劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア」は、配給元のアニプレックスが得意とする入場者特典を10週にわたって用意し、興行収入は14.3億円を記録しています!
今回、注目すべきは、初週の動員と興行収入でしょう。
2021年10月30日~31日の2日間で、動員22万5221人、興行収入3億4934万0215円となっています。
一方、「ONE PIECE FILM RED」(ワンピース フィルム レッド)の先週末(10月15日~16日)は、動員16万8064人、興行収入2億3314万1120円となっています。
そのため、もし「劇場版ソードアート・オンライン」最新作が、前作のように好調であれば、週末動員ランキング1位となれるわけです!
では、「劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォ」は、前作のようになれるのかを考えてみましょう。
まず、作品の出来ですが、冒頭で触れたような影響があるのかどうかは分かりませんが、キャラクターの作画がシーンによってバラけている印象を持ち、やや統一性に欠けていたと思います。
これは、他の人気映画でも散見される現象ですが、本来であれば総作画監督を中心に細かくチェックし統一性を持たせるものでしょう。
ただ、様々な制約があり、そこまで手が回り切らないのが現実なのだと思われます。
一方、アクションシーンは、総じて妥協なく描かれていて、緩急がしっかりしていました。
個人的には、キャラクターデザインの統一性の問題もそれほど気にはならなかったので、私は「イントロ的な前作」よりも面白かったです。
とは言え、まさに、この「続編要因」があり、前作を見ていないで本作から見る人はそれほどいないと考えられるのです。
それもあってか入場者特典には力が入っていて、初速は前作から大きくは落とさないのかもしれません。
そして、目下、週末動員ランキング「V11」を記録している「ONE PIECE FILM RED」ですが、さすがに12週目ともなると動員も落ちるのが自然です。
そのため、おそらく今週末の週末動員ランキングの軍配は「劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォ」に上がるでしょう。
ただ、その次の10月29日~30日の週には、再び「ONE PIECE FILM RED」が週末動員ランキング1位に返り咲くと思います。
それは、日本の「歴代興行収入ランキング10位」になったという大きなニュースや、入場者特典があるためです。
このように、「一強」が続くのではなく、切磋琢磨するライバルがどんどん現れないと映画業界が全体的に盛り上がらないので、抜きつ抜かれつといった状況はとても好ましいと考えます。
肝心の「劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 冥き夕闇のスケルツォ」の最終的な興行収入は、「続編」であることを考えると、10億円が目途であると想定されます。
ちょうど「アニメーション版の10周年記念」なので、キリの良い興行収入10億円を達成できるかに注目したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono