コラム:細野真宏の試写室日記 - 第1回
2018年3月9日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第1回 「坂道のアポロン」VS「ちはやふる 結び」(前編)
まずは、映画の興行収入についての解説から。
大まかに全国公開の日本映画の場合は、制作費2.5億円~3億円が相場で、それに加えてP&A費という宣伝費などで3億円が相場で、総原価は5.5億円~6億円が相場です。(すべて税抜き)
そのため、劇場公開時に興行収入10億円(税込み)を達成さえできれば、二次利用(DVDレンタル・セル、TV放送、配信、海外セールス)によって、製作委員会はリクープ(投資回収)できる、というのが、基本的なモデルです。
もう少し詳しく解説すると、制作費(2億円~5億円)+ P&A(2.5億円~4億円)= 総原価(4.5億円~9億円)に対して170%~190%の興行収入(税込み)を稼ぐことができれば製作委員会はトントンの状態になります。
また、年間に10本くらいの制作費5億円以上の大作については、制作費などの総原価が高くなるぶん、総原価の200%の興行収入(税込み)でトントン、と少しだけハードルは上がります。
さて、今回は、3月10日公開の「坂道のアポロン」から。
チラシでキャストを見た際に、正直、少し嫌な予感がしました。メインの1人が中川大志。今のところ彼の主演作はだいたいコケてしまっていて(ただ、作品自体はそんなに出来が酷いわけでもない)、またその再来もあるのか? と恐る恐る見てみましたが、いや、ホント驚きました。「初めて中川大志が作品にはまっていました」ね。ついでにディーン・フジオカという名前を見た時も嫌な予感がしたのですが、やっぱり見事に「自然」なんですよね。原作の漫画は読んだことはないですが、恐らく、かなりキャスティングが合っていると思われます。
この映画で感慨深いのは、三木孝浩監督のデビュー作で、本作でも脚本を担当した高橋泉との最初のコラボだった「ソラニン」(10)からもう8年も月日が流れたんですよね。「ソラニン」も音楽映画でしたが、この時は正直、私の中ではパッとせず、な感じでした。ただ、三木監督はその後に、「僕等がいた」2部作(12)、「ホットロード」(14)などで大ヒットを記録できる監督に成長し、まさに本作はデビュー作のコンビで「満を持して」という作品なのです。
私が映画を見る際には、実はあまり感情移入をするタイプではなく、冷静に、「うん、ここはいいけど、ここは破綻しているね」とかハッキリ言ってしまうタイプではあるのですが、この「坂道のアポロン」に関しては、ほぼ(愛ある)苦言がなく、ホントよく出来ていますし、映画としてもかなり楽しめると思います。
まず、ジャズという音楽が重要な要素になっているので、出だしの短めのオープニングから音楽と画像を巧みにコラボさせ、かなり洒落ていてクリエイティブなカッコイイ出来栄えです。
そして、何といっても、音楽映画でカギとなるセッションについては、見れば見るほど満足度が上がっていくと思われます。
「音楽映画の楽しさは、2回目でしみる」という自分の説がありますが、まさにそれの手本のような作品です。
実は、これって昨年の「ラ・ラ・ランド」や、まさに今大ヒットを記録している「グレイテスト・ショーマン」の事象が象徴的ですが、「音楽映画の楽しさは、2回目でしみる」というのを多くの人たちが体感しているのではないでしょうか。
実際にこの仮説を検証するために本作は2回見ましたが、やっぱりセッションがどんどん進化していく過程は魅了されますし、クライマックスの学園祭のシーンは、小松菜奈が2人のセッションを見て涙ぐむという感じで、正直、私自身も自分で自分のことに驚きましたが、2回目では小松菜奈と一緒に不覚にも軽くウルっと来てしまいました。
確かに見れば見るほど入り込み方が深くなる味わい深い作品でした。
恐らく本作は、リピーターも増えたりして、問題なく採算分岐点だと想定される興行収入10億円を超えてくるでしょうし、そうでなければおかしいと思います。
まぁここまで手放しで素直に褒めたので最後にちょっと異論を(笑)
エンディングが私は個人的にちょっと納得がいっていません。
あの「フリ」があるのであれば、「え~聴かせてくれないの?」というのが強いて言うとプチ不満だったりしましたが、みなさんはどう思われるのでしょうか?
是非、劇場で見たみなさんの声を聞いてみたい気がします。
さて、この「坂道のアポロン」の最大のライバルになりそう(もっと言うと客層が被る気がするので奪い合いが起こりそう)なのが翌週の3月17日公開の「ちはやふる 結び」。
第2回は「ちはやふる」について書くことにします。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono