コラム:やっぱり、映画館で見たい! - 第1回

やっぱり、映画館で見たい!

第1回:TOHOシネマズ新宿・太田幸康支配人

新型コロナウイルスの猛威の影響から、政府による緊急事態宣言を受けて日本全国ほぼ全ての映画館が休業を余儀なくされた。東京都では、休業要請を緩和するロードマップが「ステップ2」に移行した6月1日から多くの劇場が営業を再開したが、全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)が定めるガイドラインに基づき、座席数の50%しかチケットが販売できない状況が当面は続きそうだ。そんななかでも各映画館、働くスタッフたちは、細心の注意を払って来場者を迎えている。

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今までの日常が、どれほどかけがえのないものであったかを多くの人がかみ締めているなかで、「これまで通り映画館へ行くことに不安がある」と感じている人がいることも事実。では、映画館は現在本当に安全なのか? 映画館は本当に“3密”なのか? 映画.comでは劇場の運営に携わるうえで最前線を取り仕切る支配人に話を聞き、どのような対策を練っているのか、どのような思いで来場者を迎え入れているのか、現場で働く人々の声を届けていく。第1回は、TOHOシネマズ新宿の太田幸康支配人、同社マーケティング部の平松義斗氏に話を聞いた(取材日は7月15日)。

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■来場者からの感謝の声が支え

TOHOシネマズは、6月5日から東京をはじめ関東近県で営業を再開。そんななかでも、いわゆる“夜の街”でクラスターが発生している新宿・歌舞伎町のど真ん中で営業し、劇場を切り盛りする太田支配人は連日、緊張を強いられているが、スタッフから来場者の声が届いたと明かす瞬間、嬉しそうに表情を綻ばせる。

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「営業再開後、お客様から『しっかり感染予防してくれているね。安心して映画が見られました。また来ます』と、帰り際にスタッフへ直接伝えてくださることが多々あり、本当に嬉しいですよね。また私の目から見て、スタッフ同士がまた一緒に劇場で働けるというモチベーションみたいなものを、再開してからは感じるようになりました」。

一方で、現場から持ち上がってきた問題点、改善点は、この1カ月半のあいだに出てきたのだろうか。

「問題点ではないのですが、少しずつお客様の数が増えてきているなかで、1日に入るスタッフの数も当然ながら増えています。そうすると必然的に従業員内での感染リスクも高まることになるので、従業員が業務連絡をする際に“密”にならないよう、そして休憩時にソーシャルディスタンスが取れているかを注視しています。これは今後も継続していくつもりです。お客様に関しては、TOHOシネマズがコロナ対策をきちんとしていると認識されたうえで来館くださる方が多いと感じています。ただ、『入場時にはマスクをしていても、上映中にマスクを外している方がいた』というお話をいただくことが、ごくまれにあります。この点は、『紙兎ロペ』を使った感染予防対策に関する『お客様へのお願い』のポスターなどを通じて、啓蒙活動を続けていくつもりです」。

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■来場者の「感染しない、させない」意識も必須

劇場側がどれほど注意を払っても、来場者側の意識が「感染しない、感染させない」ことを徹底したものに向かない限り、感染リスクは否応なしに付きまとう。ましてや、同館は歌舞伎町のど真ん中に位置している。「歌舞伎町には、いろいろな方面からお客様がお越しになられています。当館にもコロナ以前には、夜の街の方が同伴でオールナイト上映にお越しいただくことがありました」と太田支配人は明かすが、今後ポピュラーになっていくであろう「新しい映画鑑賞マナー」が守られず、クラスターが発生する恐怖は当然抱いているはずだ。

同社が運営する全劇場では、入場時に実施するAI検温システム「SenseThunder(センス・サンダー)」が配備されている。AI顔認証技術と赤外線カメラにより、従業員や来場者の体温を0.5秒でスピーディーに測定することが可能。対象者と1.2メートル離れていても所要時間0.5秒で検温を行い、体温をプラスマイナス0.4度の精度で測定することができる。マスクやメガネを着用したままでも測定ができるという。

平熱が35度台と低い筆者も同システムを複数回体験してみたが、36.3度、36.5度、36.2度といずれも少し高めの体温が検知された。これは劇場に来るまでの過程で体を動かしているため、発汗などにより平熱よりも高い数値が出る傾向があるようだ。

平松氏「このシステムのマニュアルでは、37度以上と検知されても1分経過してから検温し直すと比較的正確な数値が測れるようなんです。システム導入時、メーカーからそういう事があるとはうかがっています」

太田支配人「当館でも1人か2人くらいですかね。いずれの方も、数分後に検温し直していただいたところ体温も落ち着かれたようでしたので、そのまま鑑賞していただきました」

■専門業者による館内の消毒作業を全国で実施

今後の対策としては、専門業者による館内の消毒作業を実施するという。

平松氏「いわゆる抗菌というものではなく、専門業者の方々に、シートなどを含めて館内を消毒してもらうことになっています。噴霧するような形でシート、床、スクリーン内部などを重点的に行います。全国一斉にとはいきませんが、もう既に始まっていて、全国のTOHOシネマズで順次やっていきます。ここ新宿でも、7月末に実施予定です」

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また同社の強みとして、公式サイトなどを通じてアンケート調査を実施しており、そのノウハウは蓄積されつつある。平松氏は、「お客様のご意見を頂きながら、ひとつひとつ検討、対応している状態。このアンケートに答えてくださる方って、真摯な映画ファンが多いんです。その貴重なご意見を参考にしながら、やめようとしていた一部対策がやはり必要だと、考えを改めるきっかけとなるなど、指標になっています」と感謝する。

■この夏は「安全対策が全て」

例年ならば、この時期は夏休み興行に突入しており、繁忙期だったはず。「今日から俺は!!劇場版」と「コンフィデンスマンJP プリンセス編」が大ヒットスタートを見せているが、この後に国民的アニメの長編映画40作目となる「映画ドラえもん のび太の新恐竜」の公開が、8月7日に控えている。夏休みに備えた取り組みはあるのだろうか。

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平松氏「この夏は、特別な取り組みというのはないんです。安全対策が全て。映画業界だけでなく、他の業態の方々がどういうことをやっているか常に安全対策上、調べていますが、我々は現時点で最大限のことをやっているつもりです。この段階から更に何かを増やすということは、よほど新しい技術が生まれてこない限りはないんじゃないでしょうか。ご指摘の通り『ドラえもん』で子どもたちを連れてくる親御さんが、いかに安心して劇場に来ていただくかというのが最も大事。安全対策をトッププライオリティにして、映画館がお客様を受け入れられる態勢を整える。この夏に関しては、それしかありません」

■絶対的な体験価値が映画館にあると信じている

この熱い思いは、コロナ禍にあっても劇場に足を運んでくれる映画ファンへの感謝の念とともに、現場で働くスタッフへも向けられている。

平松氏「安心してお越しいただきたいという思いがある一方で、従業員たちはお客様を感染させてはいけないというリスクを抱えながら仕事をさせてもらっています。テレワークが推奨される世の中で、劇場で働く人間は毎日現場に出なくてはいけません。正直出たくないスタッフだっているはずなんですよ。リスクを負いながら、それでもみんな映画が好きで、大画面で見てもらいたいという一心でやっています。家では体験できない、絶対的な体験価値が映画館にはあると、我々は信じています。配信系が伸びてきているのも理解できますが、それに替えられない価値があると信じて、頑張るしかないんですよね」

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そして最後に、太田支配人が言葉を引き継ぐ。これから映画館に足を運んでくれるであろう人々に対し、「換気など対策はしっかり行っておりますし、安心安全をお届けすることに注力し、徹底しています。映画館は危険な場所ではありません。これから公開を控えている新作映画を、非日常空間で楽しんで見ていただきたい。それだけが私の思いです」と訴えている。

筆者紹介

大塚史貴(おおつか・ふみたか)。映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。

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