コラム:映画館では見られない傑作・配信中! - 第10回

映画館では見られない傑作・配信中!

女性の悲劇を衝撃的に描いた必見の2作「一人っ子の国」&「グレイス 消えゆく幸せ」

一人っ子政策の実態に迫るドキュメンタリー「一人っ子の国」
一人っ子政策の実態に迫るドキュメンタリー「一人っ子の国」

Amazon Prime VideoとNetflixで、一見地味ながら、女性の悲劇を衝撃的に描いた2本の必見作が配信中だ。

アマゾン・スタジオが製作し、Amazon Prime Videoで独占配信されている「一人っ子の国」は、中国政府が1979年から2015年まで行っていた“一人っ子政策”によってもたらされた様々な悲劇を描いたドキュメンタリー。昨年のサンダンス映画祭ではドキュメンタリー部門のグランプリ(審査員大賞)を受賞した作品だ。監督はアメリカ在住の中国人女性映像作家のナンフー・ワンジアリン・チャン

中国政府は激増する人口を抑制する国策として、徹底的なプロパガンダと厳しい罰則とともに“一人っ子政策”を実行したが、その結果、多くの妊婦が強制的な堕胎を強いられ、また家系を守るためにほとんどの家族が男児を求めたため、誕生した女児の多くが秘密裏にゴミのように捨てられて死亡、また施設に収容されて命は助かった子どもたちの多くが里子として海外に売られていった。

目を背け、耳をふさぎたくなるような映像と証言の連続で暴きだす、近代国家がつい最近まで本当に実施していたとは信じ難い政策の一端は、極めて衝撃的。だが、監督たちの手の届く範囲だけを描いたこの映画に登場するのは、そのほんの一部だ。SARSやコロナ・ウィルス問題を例にあげるまでもなく、表沙汰にならない事実は、間違いなく想像を絶するレベルであり、おそらく中国全土で行われた真の実態は、この数百倍の悲惨さだろう。

「一人っ子の国」より
「一人っ子の国」より

今の中国に入って、ここまでの作品を撮ることはとても勇気のいる行為ではあり、悲劇の一端だけでも世界に知らしめるという点では充分に製作意義のある作品とは思う。しかし、あくまでも中国に生まれた女性の悲劇としてこの問題を捉えるナンフー・ワンジアリン・チャンは、とてつもなく巨大な暴挙の全貌解明には興味が薄く、責任追及の矛先も鈍い。また後半は、里子に出された子どもたちの実の親を探す運動を描くことに時間が割かれるため、焦点が曖昧になってしまうのも残念だ。

悲劇の本質は、“一人っ子政策”だけにあるのではなく、その愚かな政策にさらに愚かで短絡的な“男尊女卑”が加わって起きたものだ。“一人っ子政策”が“二人っ子政策”になった今も、その根本的な人権感覚や女性蔑視が変わらない限り、悲劇は繰り返されるだろう。

映画では描かれないが、日本人も大好きな中国映画界の巨匠をはじめ、裕福な人々は巨額の罰金を科せられても複数の子どもを育ててきたし、この政策のために中国では成人男子ばかりが多くなり、結婚相手がいないために結婚できない男性が、今度は海外から女性を妻として買うという問題まで発生している。また、“小皇帝”や“熊孩子”と呼ばれる、甘やかされ、我がままに育った一人っ子世代ばかりの大国の未来も末恐ろしく、巨大な隣人の愚策の闇は深く、大きい。この映画から見える衝撃に驚くだけではなく、実は現在も進行形の、その先の脅威こそ考えながら見て欲しい。

もう1本、Netflixで今月配信開始された衝撃作が「グレイス 消えゆく幸せ」。「タイラー・ペリー マデアの家族葬」(2019)など、自ら演じるマデアおばさんシリーズはじめ、アメリカの黒人社会をテーマにバラエティに富んだ作品を製作、監督し、俳優としても人気のタイラー・ペリーの監督&脚本最新作だ。

ロマンス詐欺から突然のホラー展開に驚愕「グレイス 消えゆく幸せ」
ロマンス詐欺から突然のホラー展開に驚愕「グレイス 消えゆく幸せ」

内容は、中年女性を相手にした“ロマンス詐欺”を題材にしたミステリー・サスペンス。Netflixのアートワークも予告篇も地味で、あまり目を引かないのだが、これがなかなかの衝撃的問題作だった。

若い女のもとに走った夫と離婚し、新しい生活を始めた中年女性グレイス(クリスタ・フォックス)は、息子ほども年の離れた画家シャノンと知り合い付き合い始める。やがて2人は結婚するが、それまで紳士的だったシャノンは、結婚後人が変わり、グレイスのすべてを奪っていく。シャノンの非道な裏切りにグレイスは我を忘れ、彼をバットで殴ってしまう。グレイスは夫の殺害容疑で逮捕され、裁判が始まるが、シャノンの死体は見つからなかった……。国選弁護人としてグレイスの弁護を担当した新人弁護士ジャスミンは、上司からは被告に罪を認めさせ、裁判を行わずに検察との司法取引で刑期を決めるように命じられていたが、グレイスから事件の詳細を聞くうち、彼女の無実を信じるようになっていく。

死体なき殺人をめぐる裁判劇から、物語は意外な方向へ急展開を見せ、やがて映画は想像を絶する驚愕のホラー・サスペンスへと変貌を遂げる。決して切れ味するどい演出ではないのだが、あえて法廷サスペンス部分を緩くして見る者を油断させておき、「パラサイト 半地下の家族」風味の変化球による恐怖も加えた予測不可能な驚きへと持って行く展開が、なかなか面白く興味深い。この手の“ロマンス詐欺”は日本でもすでに起きており、今後も大きな社会問題となっていくはず。一見の価値ある1本だ。

筆者紹介

江戸木純のコラム

江戸木純(えどき・じゅん)。1962年東京生まれ。映画評論家、プロデューサー。執筆の傍ら「ムトゥ 踊るマハラジャ」「ロッタちゃん はじめてのおつかい」「処刑人」など既存の配給会社が扱わない知られざる映画を配給。「王様の漢方」「丹下左膳・百万両の壺」では製作、脚本を手掛けた。著書に「龍教聖典・世界ブルース・リー宣言」などがある。「週刊現代」「VOGUE JAPAN」に連載中。twitter.com/EdokiJun