コラム:Celeb☆Graphy セレブ☆グラフィー - 第49回
2016年7月6日更新
【vol.49】“セレブシェフ”だってセレブのうち。世界が認めたブラジルのカリスマ料理人に迫る!
リオ五輪の開幕が1カ月後に迫ったブラジル。ブラジルといえば、やっぱりサッカーやカーニバル。でも実は、“食”の宝庫でもあるんです。そこで今回は、セレブはセレブでも、“セレブシェフ”のお話。ブラジル文化に精通した麻生雅人氏(「Mega Brasil」編集長)に、世界が認めるカリスマ料理人アレックス・アタラについてじっくり語っていただきます!
日本でもよく知られているブラジル料理といえば、肉のグリル料理シュハスコ(シュラスコ)か、豆や肉などの煮込み料理フェイジョアーダだろうか。だけど、日本の料理がスキヤキとテンプラだけではないのと同じく、ブラジルには他にもおいしい料理がたくさんある。なにしろブラジルは日本の約23倍という広大な国土を持つ大国。北部のアマゾン地域には熱帯雨林が生い茂るが、南部では冬には雪が降るところもある。気候や環境が大きく異なる各地で、さまざまな作物や食材がとれるので、料理の種類の豊富さもハンパない。
5月末からNetflixの「CHEF'S TABLE シェフのテーブル」シーズン2に登場しているアレックス・アタラは、ブラジルを代表するスーパー・カリスマ・シェフ。アレックスがオーナー・シェフを務める「D.O.M.(ドン)」(サンパウロ市)は、英レストランマガジンが毎年選ぶ「世界のベストレストラン」でベスト10入りの常連(2016年は9位)だ。
そんなアレックスが世界中のグルメをうならせる理由は、創造性あふれるガストロノミアを提案する料理人としての腕だけではない。自身の料理を通して、ブラジルの多彩な食文化と、それを生み出す自然の豊かさを積極的に紹介。グルメとサスティナビリティを両立させる、いわば“社会企業家シェフ”としての活動もまた評価の対象となっているのだ。
アレックスは、それまでグルメ界ではほとんど見向きもされなかった、ブラジルの各地方に伝わる田舎の料理や食材、先住民族に伝わる伝統食などをガストロノミアの世界に取り入れた料理人の先駆者のひとりだ。これによってアレックスは、他のどんな国にもまねのできない<ブラジルならではの味>の可能性を開拓し続けてきた。
海へも川へも熱帯雨林へも自ら足を踏み入れ、自身の目と耳と口と手で、自然と対話する。そんなアレックスの料理には、彼が感じた自然への敬意や驚きもそのまま表現されている。
アマゾン地方で先住民の料理人が作ったひと皿を口に、この地方にはないはずのハーブ……レモングラスとショウガの味と香りがしたことから不思議に思ったアレックスがハーブの正体を訪ねると、それは地元の人々が食用にしている蟻だった。この蟻は、今では「D.O.M.(ドン)」の名物メニューのひとつとなっている。
13年、アレックスは「アター研究所」を設立。自然の調査や研究、料理や食品の販売を通じて自然や、自然とともに暮らす人々を守るサイクル作りに本格的に取り組み始めた。
アター研究所は今年3月、サンパウロ市ピニェイロス市営市場に生産者による直販ブースをオープンさせた。ここではアマゾン地域、大西洋岸森林地域、草原地域、サバンナ地域、半乾燥地域の各バイオームに属する地域の産物が販売されている。各地方に存在する多種多彩な味を再評価することで、ブラジルが比類なき“たからもの”を持つ国であることを多くの人に知ってもらうのが狙いだ。
そしてその尊さに一人でも多くの人が気づけば、自然や生産者への敬意も高まり、ブラジルという国が持つ無限の可能性を秘めた国であることも皆が自覚するようになるかもしれない。
それは、道徳的なエコロジーの押し売りではない。少々パンクな(若いころは実際にパンクスだった)、茶目っ気のある自己流のやり方で、経済と自然保護を両立させたサークルを作り上げ、ガストロノミアと環境保全を両立させるべく奮闘するアレックス・アタラ。ひと皿の料理で世界中を驚かせながら、同時にブラジルの魅力を世界に発信し続けている。
アマゾンのジャングルに足を踏み入れる姿はまるで冒険家。ブラジルグルメ界のパイオニアが腕を振るう絶品グルメ、いつか食べてみたいですね。ブラジルのいまをもっと知りたいと思った方は、Mega Brasilをチェック!