コラム:若林ゆり 舞台.com - 第99回
2021年8月5日更新
この“大パルコ人”シリーズは、宮藤にとって「演劇という名を借りて、公然とバンド活動ができる場」でもあるという。いまはコロナ禍という状況下で、バンドをやるということに「負い目がある」(そのため彼のバンド『グループ魂』は現在絶賛休止中)から、なおさら「ご褒美」となる。しかし、演劇と音楽が一体となるこのシリーズは、他のどの作品より台本を書くのが辛いのだとか。
「なぜだか今回理由がハッキリわかったんですけど、歌詞を書きながら台本を書いているから。10数曲の歌詞を書いているんですけど、アルバムを作るために歌詞を書くとき、普通ならもっと時間をかけてもいいはずじゃないですか。なのに、物語に沿って、いいタイミングで曲が入ってきて、その曲が全部バラエティに富んだ感じにするという作業を同時にやるのが難しいんですよ。物語の必然性があって、歌の歌詞もまあまあ面白くなきゃいけない。書きながら、歌詞を後回しにしようと思ったり、逆に歌詞から書いてみようかな、とも思ったんですけど、それだと絶対にうまくいかない。ちゃんと流れに沿っていかないと書けないんです」
基本的な物語は、普遍的な「ボーイ・ミーツ・ガール」。今年51歳を迎え、もはや若者とは言えない宮藤だが、「若い人たちに媚びたくない」という気持ちと「若者に芝居を見に来てほしい」という気持ちを併せ持ちながら作劇に臨んだ。
「自分の若い頃を思い出して『こうだったな』と思いながら書くこともあるんですけど、若者に媚びちゃったら失敗したときに残念なものになってしまう。わかった振りして『いまこれ流行ってるから』って取り入れるのは抵抗があります。でも虹郎くんとのんちゃんのキャラクター以外は、若くないんですよ、全員。自分も老人役ですし、だからいいかなって(笑)。だって、いまの若者のことなんてわかるはずないですもん。自分も若いとき『大人にわかるはずない』って思ってたんだから。それでもやっぱり普遍的なものってあると思うんですよね。いま流行っているものじゃないものでも、いいものはいいじゃないですか。(北野武監督の)『キッズ・リターン』とか。たぶんいまの若者が見てもいいと思うんですよ。まあ、若者と何かを共有しようとはあまり思わなくなりましたけど。でも、若い人に演劇を見に来てほしいんですよね。自分が若いときに下北沢で見た演劇はもっと安かったと思うんですけど、人生狂わされてますから。そういうパワーはこの作品にもあるような気がするんです」
もちろんコロナ禍といういまの状況だからこそ、「老若男女を問わずこの世の中に生きている人たちに届けたいメッセージ」が、ここにはある。
「コロナで世の中が不穏な空気になっていることがあるので、明るい、前向きな話にしたいなと思いました。戦争でたくさんの人が亡くなって瓦礫の街になったんだけど、そこから前向きな若者たちががんばる話がいいな、と。それから、みんなが持っているコンプレックスもテーマにしたかった。でも一番言いたいのは、『生きてるってことで、もういいじゃん!』ってことなんですよ。生きてることが、もう特別。物語の中では東京の人口が100分の1になっちゃって、生き残っている人は全員ホームレスなんです。で、生きていくだけで精一杯で、予知能力があるのに屁が出ちゃうから封印してるとか、ものすごく悲しい人たちの話なんですよね。だけど最終的には、生きていることだけで、もう素晴らしいじゃないかと、それしかないんです(笑)。それくらい、生きていることを肯定する話なんですよ。いま、世の中すごく世知辛いじゃないですか。オリンピックやっても聖火リレーやっても『やるのかよ』って言われるし。何やっても人に何か言われる、それをリツイートするやつがいたらみんなに広がる、みたいな。みんながみんなを監視してる、みたいな風潮がすごくある。でも、『生きられるだけでいいじゃないかよ』という、そういう境地ですね。『わけわかんない芝居だったけど、みんな生きてたじゃん』みたいな(笑)。それでいいじゃんって、書いてるうちにどんどんそんな気持ちになっていきました。楽しいものがやりたいという思いと、お客さんをいっぱい笑わせたいというのとがあって。最終的に『生きててよかった』というのを実感しに来てくれればいいな、と思います」
“大パルコ人”第4弾マジロックオペラ「愛が世界を救います(ただし屁が出ます)」は、8月9日〜31日、渋谷のPARCO劇場で上演される。9月4日〜12日に大阪公演、9月15日〜17日には宮城・仙台公演もあり。詳しい情報は公式サイト(https://stage.parco.jp/program/majirock)で確認できる。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka