コラム:若林ゆり 舞台.com - 第86回

2020年2月12日更新

若林ゆり 舞台.com

第86回:俳優として充実期を迎える三浦春馬が「汚れなき瞳」で挑むミュージカル!

撮影:若林ゆり
撮影:若林ゆり

「オペラ座の怪人」や「キャッツ」の楽曲を生み出したミュージカル界の天才、アンドリュー・ロイド=ウェバーによる「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド ~汚れなき瞳~」は、ディープサウスと言われるアメリカ南部が舞台。しかし、実はイギリスの作品を原作としている。イギリス人の劇作家メアリー・ヘイリー・ベルが書いた小説と、この原作をリチャード・アッテンボロー製作、ブライアン・フォーブス監督で1961年に映画化した「汚れなき瞳」(原題は同じ)を翻案したものなのだ。

イングランド北西部のランカシャーを舞台とした映画でヒロインを務めたのは、原作者の娘で、当時「追いつめられて…」や「ポリアンナ」で人気を集めていた子役のヘイリー・ミルズ。脱獄した殺人犯の男(アラン・ベイツ)が農家の納屋に潜んでいたところを、ミルズ扮する10代の少女キャシーと、その姉弟が発見。キャシーに「あなた誰なの?」と問われた男が「ジーザス・クライスト(なんてこった)!」と口にしたことから、子どもたちは彼をイエス・キリストの生まれ変わりだと思い込んでしまう。

ミュージカル化にあたり、なぜ物語の舞台がアメリカ南部のルイジアナに移されたのか。定かではないが、おそらくロイド=ウェバーがアメリカの源流的な音楽を使いたかったからではないか。ウエストエンド版のポスターにいる、銃を十字架のように担いだ男の姿が、「ジャイアンツ」のジェームズ・ディーンを意識していることは明らか。55年に事故死したディーンは、アメリカのカウンター・カルチャーを象徴する存在となっていた。

同ミュージカルが3月、いよいよ日本人キャストによって初上演される。ザ・マンを演じるのは、「キンキーブーツ」のローラ役でミュージカル俳優として成功を収めた三浦春馬だ。

「アンドリュー・ロイド=ウェバーの楽曲が、すごく壮大なテーマ、メッセージを感じさせてくれる作品。僕にとっては新たな挑戦になると思います」と、静かに闘志を燃やす三浦。特にチャレンジと感じているのは歌の部分、歌を通しての表現だという。

「『キンキーブーツ』とはまた毛色の違った、本当に内向的な表現を歌でどうできるか。この作品では歌中で、セリフとしてしゃべるように歌わなきゃいけない部分が出てくるんですね。僕はこれまでにも『キンキーブーツ』やほかの音楽劇で歌う機会はありましたけど、感情的な歌い方をする経験が本当になかったんです。だから今回は、リアルな感情の流れを届けるというのが課題だし、ファルセットを使って歌ったことがないので、それも課題だし、クラシックに歌い上げなければいけないナンバーもありますから」

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劇中歌「No Matter What」はイギリスのグループ「BOYZONE」がカバーし、世界的なヒットとなった名曲。そのほかにも、難しそうなナンバーがいくつもある。

「1959年、アメリカ南部の田舎町には『もっと現状を打破したい』とか『もっと冒険心を持って違う世界に飛び出したい』と思っている人がいる一方で、変わることを恐れている閉鎖的な人々がいる。そういうキャラクターたちが日々生きている中での喜びや悲しみを、楽曲の数々が劇的に表現しているのがこの作品です。どのナンバーを聞いても、似通ったものがあまりなくて。ゴスペル調のものやカントリー・ミュージックをベースにした曲、クラシックに歌い上げる、天に捧げるような曲などが混在している。歌うことにプレッシャーは、ないです(笑)。一生懸命まっすぐに向き合えば、いいものが生まれるという自信をもってやっていきたいから。僕が演じるザ・マンは、人生に失望し続けてきた人間。その果てに罪を犯して命からがら逃げ延びてきたところで、ひとりの純真な少女と出会います。それは、彼の混沌とした半生を、ほんの少しの時間で浄化するだけの出会いなんですね。この役どころを演じるにあたって楽しみなのが、それを芝居で丁寧に、お客様の想像をかき立てるようなものにしていくことなんです」

きらきらと瞳を輝かせる三浦の中に燃えているのは、プレッシャーをはねのけるくらい稽古に打ち込む覚悟と、自分の可能性を広げようとする意気込みだ。

「限られた時間の中で、ザ・マンというキャラクターがそれまで抱えてきたものをどう見せるか。それを自分がどう表現できるか、というところに期待したいですね。もちろんひとりではできませんので、演出の白井晃さんや共演の生田絵梨花さんたちと、作品のことをよく話し合いたいと思います。『ザ・マンのこれまでの人生はこうだったかもしれない』と、いろいろ自分の考えてきたことをシェアできたらいいですよね。平坦な土地で起こるストーリーだからこそ、ひとりひとりのキャラクターを、それぞれがちゃんと考えられる稽古期間になればいいな、と思います」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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