コラム:若林ゆり 舞台.com - 第83回

2019年10月29日更新

若林ゆり 舞台.com

12人のキャストで演じる新演出については、どのような思いがあるのだろうか。

川平「藤井(隆)くんと前回とは違った距離感が生まれたり、(鈴木)蘭々がめっちゃ踊ってたり、ROLLYに『そこで出てくるのか!』と思ったり、お客さんにしてみたら嬉しい驚きがいっぱいだと思います! その分キャストは前回より断然ハードワークになっているのに、皆いいものにしようと必死。改めて『素晴らしいチームだなあ』と。そのおかげで、よりストーリー性が増しているんです。例えば最後のシーンで歌に入る前、皆を見渡した後、今回初めてウィルと目で会話してるの。だから歌いながら『俺がお前に残したかった物語はこれだ!』って、ものすごく心が動くんです。最後の『How It Ends』は、1番最初に稽古場で歌ったときに感極まって歌えなくなっちゃったんだけど、今でもヤバい。あそこは劇場が大聖堂になったような、生きていることへの賛美を感じるね」

今回の稽古場で歌う川平慈英(撮影:若林ゆり)
今回の稽古場で歌う川平慈英(撮影:若林ゆり)

霧矢「そこは皆、涙をこらえるのに必死ですよ。誰しもが、家族のことを考えちゃったりもしますしね」

川平「僕は去年の1月に母を亡くして。だから今回、ちょっと(思いが)違うんです。母が授けてくれたものやサポートを感じながら、愛に包まれて終わることができるような気がしている。僕の家では、おふくろがエドワードっぽかったんですよ。僕は葬式では、一滴も涙が出なかったの。絶大なる愛を持っていて感謝もしているんだけど、それはおふくろが『私はベタープレイスに行くのよ。神様の愛に包まれて昇天するんだから、Don’t Worry(心配しないで)』って言っていたから」

霧矢「私たちも、エドワードを笑顔で送ってあげたいなという思いがあって。でもやっぱり寂しさもあって、幸せの涙なのか寂しさの涙なのか、よく分からないものが出そうになるんです。でも最後に次の命が生まれて、継承が見えるというのがまた素敵なんですよね」

初演の千秋楽後、川平は「『無事に終えられた、やりきれた』という感謝しかなかった」というが、霧矢は激しい「ビッグ・フィッシュ」ロスに襲われたとか。

霧矢「私、いつもは作品が終わったら割とスパッと切り替えてきたんです。でもやっぱりこの作品では、皆と家族のようにやっていたものが終わって、急に1人になったみたいな感じがして。『溢れる母性と包容力の行き場をどうしたらいいの? 何に使ったらいいの?』って(笑)。 で、寂しさに耐えられず、2代目の犬を飼いました(笑)」

川平「なるほど(笑)!」

稽古場で、キャストと演出家が全員集合
稽古場で、キャストと演出家が全員集合

では改めて、演じる側にも見る側にも「特別な作品」となったこのミュージカルの魅力を語っていただこう。

川平「自分の中にある、忘れかけていた、人を思う気持ち。それが相当、揺さぶられるような。力強いストーリーと圧倒的な音楽の力で心をわしづかみにするミュージカルです。忘れかけていたあの感情を思い出してください。『あのとき、ああすればよかった、ああ言えばよかった』という後悔は誰しもが持っていると思うんですが、そこを刺激されて、むしろ心地いいほど浄化されるよ。『言いたかったことを全部言ってくれた』というような、そんな気持ちになると思うんです」

霧矢「だから涙も、いい涙なんですよね。見終わった後、清々しい気持ちになれる涙というか」

川平「そう、身を清められるような。明るく終わってね。これむしろ、日本人向きじゃない? どストライクだと思う。アメリカの田舎の話だけど、日本人の話みたいだよね」

霧矢「本当に。再演なので、前回見てくださった方が『初演の時はこうだったな』と違いを楽しんでいただけますし、初めて見る方たちも置いて行かれないように。皆がちゃんとその役に徹してやらないとな、と思っています」

川平「今回は僕ときりやんの間も温まって。もっと居心地がいいというか、兄妹みたいな、夫婦みたいな(笑)。よく見せようとする必要もないし、思ったことは言えるし。僕はね」

霧矢「そうですね、私も。似た者夫婦みたいな(笑)。エドワードはエネルギーがとにかく必要な役だから、お元気でいていただきたいな。でも休み時間でもタップしちゃったりね。じっとしてないんですよ」

川平「僕にじっとしてろと言うのは、死ねってことですから(笑)」

霧矢「やっぱりエドワードっぽい(笑)」

ミュージカル「ビッグ・フィッシュ」は11月1日~28日に東京・日比谷のシアタークリエで上演される。12月には愛知、兵庫でも公演が行われる予定で、詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/bigfish/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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