コラム:若林ゆり 舞台.com - 第7回
2014年5月20日更新
第7回:「天使にラブ・ソングを…」のミュージカル版で、エモーショナルな森公美子が憧れのウーピーを超える!
デロリスは小学校の授業でイエスの十二使徒を書けといわれ、「リンゴ」だの「エルヴィス」だのと書いてしまったほどの音楽バカ。森公美子ももちろん「歌うのが大好き」な少女だったが、「小学校の頃は同時通訳になるのが夢だった」というから人生は何が起きるかわからない。
「音楽をやるぞってすごい決意をしたわけではなくて、オペラを勉強するチャンスをもらえたのでイタリアへ行ったんですね。でも、「マイ・フェア・レディ」を見て衝撃を受けて、人生が変わりました。『ええー!? ミュージカルってこんなに楽しいんだー』って驚いて。だって出演している人たちがみんな楽しそうに笑ってるでしょう。オペラなんてしかめっ面ばっかりですからね(笑)。そりゃ不自然ですよね、突然歌うんですから。でも身構えて歌うんじゃなく、せりふの延長線上で歌うことによって感情が乗って、せりふの何倍も伝わる感情がある。そこがミュージカルの素敵なところだと思うんです」
「シスター・アクト」では、場末のクラブで歌っていたシンガーのデロリスが、ギャングの殺人現場を目撃してしまったことから隠れ場所として潜り込むのが修道院。水と油だったシスターたちとデロリスが、歌の力によって変わっていく。
「映画と同じように、あの修道女たちが真っ白で、無垢で、純粋で、何も知らなくて。デロリスは最初は面食らうわけですよ。まったくなじみのない世界ですし、聖歌隊だって最初はほんとに下手くそなんだもん。そんな修道女たちが、歌うことが楽しくなってきて、歌を通して抑制されてきた心が解き放たれるというか、そこでうわーっと、ひとつになるでしょう。価値観のまったく違う人たちの心がつながって、お互いを思いやる心が生まれて……。歌の力っていうのを、これほどわからせてくれる作品はないですよ。修道女たちやデロリスが変わっていく姿は、見ていて気持ちがいい! デロリスとしては、みんながうまくなっていくことに喜びを感じるわけなんですけど、実は孤独を感じる部分もあるんじゃないかと思っていて。そのへんもうまく表現してみたいなぁって思っているんです」
ストーリーの素晴らしさを力説するうちに、彼女の目からはみるみる涙があふれだす。エネルギッシュで感性豊かな個性はテレビで見るそのまんま。だが、繊細で真面目、努力の人でもある。今回は稽古場で、いままでになく苦戦中だと打ち明けてくれた。このミュージカルは「リトル・マーメイド」や「アラジン」などディズニー作品でおなじみの天才、アラン・メンケンによる楽曲の素晴らしさも大きな魅力。耳なじみのいい曲ばかりだが、歌う側にとってはかなりたいへんな曲もあるのだ。
「正直、難しいです。あのソウルフルな黒人独特の、地声でドワーっとわき上がるようなものがありまして、キーも高い音がありますのでね、日本人の繊細な声帯には負担も大きいなと思っているんです。でもそれだけに、歌えれば伝えられるものも大きいわけですから、そこはがんばらないとね。やはりプロとしてお金をいただいてお見せするわけですから、努力しかないんです。私なんかそれほど努力していないように見られるかもしれませんけど、見えていないところでの努力が90パーセント以上を占めているんですよ。努力からしか何も生まれないし、努力した分だけしか成長しないと思っているので。努力あるのみ、です!」
「シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~」は6月1日~7月8日、帝国劇場にて上演。その後、全国にて巡演される。詳しい情報は下記で。
http://www.tohostage.com/sister_act/index.html
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka