コラム:若林ゆり 舞台.com - 第69回

2018年7月12日更新

若林ゆり 舞台.com

第69回:世界的スター、ラミン・カリムルーがミュージカル「エビータ」で日本へ愛を捧げる!

いま、渋谷の東急シアターオーブがすごいことになっている。アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲、ティム・ライス作詞のミュージカル「エビータ」が、ハロルド・プリンスによるオリジナル演出で上演されているのだ。しかも、インターナショナル・ツアーといえども最高級のキャストが集結。エビータ役のエマ・キングストンは美声でハマリ役だし、なんといってもこの日本公演だけ、チェ役を演じているのがラミン・カリムルーなのだ!

撮影:若林ゆり
撮影:若林ゆり

カリムルーは、言わずと知れたミュージカル界のトップスターだ。1978年にイランで生まれてすぐ、カナダに移住。ホッケーに夢中だった12歳の少年は、学校の課外授業としてミュージカル「オペラ座の怪人」を見て「運命が変わった」。コルム・ウィルキンソンの歌い演じるファントム(怪人)に心を動かされ、俳優を志すことになったのだ。イギリスに渡って独学で鍛錬を積んだカリムルーは2007年、ウエストエンド史上最年少の28歳でファントム役に抜擢される。さらに2011年にウエストエンドで、2014年にはブロードウェイで「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンを演じるなど、その実力で観客を魅了してきた逸材なのである。

そんな彼にとって、1940年~50年代のアルゼンチンで政権を執ったペロン大統領の夫人、エバ・ペロンの生涯を綴った「エビータ」は、特別な作品だという。マドンナ主演の映画化でも知られるこの作品は、そもそもコンセプト・アルバムから始まった企画。そのアルバムでチェを演じているのが、彼の運命を変えたコルム・ウィルキンソンなのだ。

「コルム・ウィルキンソンの演技が素晴らしくて、このアルバムを聴きながら歌うのが好きだった。アンドリュー・ロイド=ウェバーが70年代ロックのフィーリングで作り上げた音楽の構成も素晴らしいしね。コルムの来日コンサートに行った人ならわかると思うけど、あんな風に歌えるシンガーはほかにいない。本当に特別な何かをもった人だ。僕はコルムがやっているようにやりたいと一生懸命努力しているんだけど、彼はこともなげにやってのけてしまう。本当にすごいよ!」

チェというキャラクターは、この作品で特異な存在感を放っている。彼はこの物語の登場人物であり、そうでないともいえるストーリーテラーだ。

「これはチェが語る物語だ。チェというのはチェ・ゲバラだという解釈もあるけど、アルゼンチンでは『仲間よ』とか『友よ』という意味だから、彼は誰でもある、すべての人を表す存在。観客にとってのストーリーテラーであり、みんなが物語の中へどっぷり入り込むのを助ける役目も担っているんだ。チェが誰なのか、探るのは難しかったね。物語の中に入ったり、外に出て傍観したり。登場人物の目に映るチェもいれば見えないチェもいるから、混乱してしまって。彼が何者なのかを掴むのは容易じゃなかったよ」

(C)渡部孝弘
(C)渡部孝弘

カリムルーの圧倒的なパワーに満ちたチェを見て、感じたことがある。エビータに終始、皮肉と怒りをはらんだ冷ややかな視線を投げかけているチェだが、エビータに対してある種の愛情をも抱いているのではないだろうか?

「それは確かにあると思うよ。でもそれは、失望を通してのものなんだ。彼は、『君はこれをうまく成し遂げるだけの道具を全部持っていたはずじゃないか、それなのになぜ!?』という思いを抱いている。身勝手さや野心、名誉欲や損得勘定が勝ってしまって、そういうものに溺れていたんじゃないか。エビータは慈善事業など素晴らしいこともしてきた人だけど、聖人であるかどうかは、はなはだ疑わしい。チェの目から見ると、エビータがこういうことになってしまったことに、心底ガッカリしているんだよ。観客のみなさんは、もしかしたら違う見方ができるかもしれない。実際に、多くの人々が彼女を聖人だと崇めているわけだからね」

こうした難しい役作りのプロセスに、カリムルーがいつも欠かさないアイテムがある。1冊のノートだ。

「役に対してアプローチするとき、僕はいつもノートを使うんだ。まず、ノートの片側に歌詞を書く。そしてもう片側のページは白紙の状態で始め、演出家が言ってくれた言葉とか自分の想像力で思いついたこと、アイディアを書き込んでいく。それを元に、シーンを分析するわけさ。するとどこかで、役の人物と自分の考えがカチッとはまるときが来るんだよ」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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