コラム:若林ゆり 舞台.com - 第68回
2018年5月24日更新
第68回:名作「モーツァルト!」のタイトルロールに挑む美形俳優、古川雄大は気負わない!
ヴォルフガング=モーツァルトは映画「アマデウス」でも描かれていたように、かなりハチャメチャな人物でもある。
「僕は“音楽の天才”というイメージしかなかったんですが、実際に知っていくと『こんなにむちゃくちゃな人なんだ』とか『予測不可能な、子どもみたいな人だ』と思いますし、『ちょっと天然っぽいところもあるのかな?』と思うところもあるんですけど(笑)。破天荒かと思いきや、すごく愛にあふれる人だと思えたりもするし。振り幅が広く、いろんな面を見せていく。この人の本当の顔ってどれなんだろうと思いながら演じています。すごく人間的で、不思議な人だと思います」
この破天荒でエネルギッシュな人物の喜怒哀楽を、古川がどう見せてくれるのかも楽しみ。古川のイメージといえば“クール”であり、“悲劇の貴公子”こそが真骨頂と言われているからだ。
「僕はこれまで『エリザベート』では悲劇の皇太子と言われたルドルフでしたし、『ロミオ&ジュリエット』ではピュアでやさしいがゆえに周りに巻き込まれて死んでしまうロミオを演じてきましたので、悲劇的なイメージはあるかもしれません。でも、ヴォルフガングは悩み多いけれど基本は陽性の人。小池(修一郎)先生からは、全体的に明るさをもっとわかりやすく声で表現してほしいとか、明るい部分をちゃんと構築してくれというようなことはご指示いただいています」
魂から絞り出すように激情を込める曲も多く、山崎育三郎によれば「すべてをさらけ出さないとできない」と感じるほどの難役でもある。
「精神的にも体力的にも、声にもすごく負担が大きいですね。初めての本読みのとき、1幕が終わった時点でものすごく消耗してしまって、育三郎さんに『これ、たいへんですね』と言いました(笑)。まだ動きもついていなかったのに、それほどたいへんでした。稽古場でも、つねに本番と同じスイッチを入れて臨まないといけない。アドリブで何かをやる必要があるシーンで、たとえば『無邪気にはしゃいでくれ』と言われたりするんですね。そういうとき、本番のテンションでやらないと成立しないんです。どの役もそうなんですけど、とくにこの役はそれが強いなと感じました。育三郎さんは経験があるので、役の解釈の部分だとか、間の埋め方だとかは見ていて上手だなぁと思いますし、やさしい方なのでつねに学ばせていただいています」
淡々と語る古川は、たぶん非常に正直な人。話を盛るようなことはしないし、冷静に自分を見つめているような、それでいて覚悟を感じさせるような雰囲気だ。そんな古川も、実は幼いころは「ヴォルフガングのようなキャラ」だったのだとか。
「意外と活発で、やんちゃな子どもでしたね。イタズラっ子でしたし、幼稚園のボス的な存在になってまして(笑)。揉めごとがあると呼ばれて、間に入って解決する、みたいなポジション。それくらい、仕切るし、やんちゃだったんです」
中学2年のときにダンスに憧れてレッスンをスタート。先輩の出演していたミュージカル「テニスの王子様」を見て刺激を受け、オーディションに合格してデビューを飾った。以来、“王子様”だとか“宝塚の男役のようなイケメン”と言われ、人気を集めてきた。今回の大役は正念場だ。だが本人は「プレッシャーは感じますけど、あまり気負わず思い切りぶち当たっていきたい」と、あくまでも気負わない姿勢だ。
「いまは、あえて『俺ならこうだ』ということを考えずに、シンプルに作っていきたいな、と思っています。その結果、4人目として認めてもらえるヴォルフガングになれるようがんばります。もちろん、歴代3人の方々はみなさん素晴らしくて尊敬しているので、その3人に劣らないものを作りたいという思いはあります。僕は『エリザベート』で初めてトリプルキャストを経験したとき、自分の個性を出そうとして、ほかのお2人とは違う方向に行こう行こうとしていたんですね。そのときに小池先生から『同じことをしたって違う人間で違う個性があるから、まったく違うものになるんだよ。だから思うままにやっていいんだ』ということを教えていただいたんです。なので、どんなことをやるにせよ、その出てきたもので個性を表せたら、と思っています」
「モーツァルト!」は5月26日~6月28日 東京・帝国劇場、7月5~18日 大阪・梅田芸術劇場、8月1~19日 名古屋・御園座で上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
http://www.tohostage.com/mozart/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka