コラム:若林ゆり 舞台.com - 第65回
2018年3月2日更新
第65回:「メリー・ポピンズ」で超厳格な稽古に支え合い立ち向かう、濱田&平原の奮闘!
稽古が始まってから2人がビックリしたのは、イギリスチームの厳格なこだわり、決まりごとの多さだったという。
濱田「指定や段取りがとにかく多く、声の出し方、ビブラートの付け方まで厳格に指示されます。音程はさることながら、伸ばしの長さとか。動きも小節ごとにきっちり決まっていて、すごく細かい。それを少しでもおろそかにすると、その後の段取りが全部崩れるから、絶対にやらなきゃならないんです」
平原「余白が1ミリもない! 立ち姿も何もかも『こうあるべき』というのが決まっていて。それだけだったらまだ頑張れるんですけど、その時代のメリーをちゃんと描きたいからと、靴も全部編み上げのブーツ。サイドジッパーじゃないから、時間のない中でいちいち紐を外して、結ばきゃいけない。あと、手袋が網なんです。だからいろんなところに引っかかる。そんなところにまでリアリティを求めるなんて、すごいと思いました」
濱田「本当にね。諸々大変なことはありますよね」
そんな苦労を共有している2人は、お互いのメリーを見て、自分との違いや素敵なところはどう感じている?
平原「メグさんのメリーはすごくしっかりしたメリーだと思う。メグさんそのもの。責任感がちゃんとあって、いつもスッとしていて。『ああ、私にはない部分だなぁ』と思います」
濱田「私はまだそこまで感じられる余裕がない。綾香ちゃんを見ていて思うのは、この役を演じることを楽しんでほしいな、ということ」
マシュー・ボーン(「マシュー・ボーンの『白鳥の湖』3D」)がオリジナル振付を手がけたダンスナンバーも、ダイナミックな見せ場になっている。
平原「バレエでもないし、普通のダンスとも違う。私はバレエを習っていましたけど、バレエだったらこういう作法で、こうなったら右足が出る、というのがけっこう決まっているのに、敢えて左足を出させる。全然違うからすごく時間がかかりました。私は『マシュー・ボーンっておいしいの?』っていうくらい存じていなかったので、踊ってみて初めて、他人とは全然違った感覚を持った人なんだなって、すごさがわかりました」
濱田「メリーとバート(柿澤勇人と大貫勇輔のWキャスト)がまったく同じ振りをもらっても、ニュアンスが微妙に変わって面白いです。この動きが、メリーとバートの関係性を表していると思います」
平原「恋愛には行かないけど、ちょっと年上のメリーが年下のバートをからかっているみたいな……ちょっとアブナイ関係かも!?(笑)」
お姉さん気質でやわらかい雰囲気の濱田と、ユニークな宇宙人感覚を持つ平原。2人から伝わってくるのは、お互いに対するリスペクトと信頼だ。厳しい稽古もきっと2人だから乗り越えられるはず。では最後に、2人が思う「メリー・ポピンズ」の魅力を総括してもらおう。
平原「私は台本を読み終わったとき、大号泣しちゃったんです。そんなに泣くような作品だと思っていなかったので『あ、こんなにいいお話だったんだ』と、すごく思いました。魔法が使えて宙も飛べる家庭教師、メリーが見せる摩訶不思議な世界で、バラバラだった家族がひとつになって、『さよなら、みなさん』みたいな感じだと思っていたら、もっとずっと深い! メリーは宇宙人だから共感できないんですけど(笑)、メリー以外の人たちにはいろんな共感ポイントがありますし、そこは楽しみにしてほしいですね。魔法や宙を飛ぶだけじゃない。でも子どもたちにはメリーの真似をして、傘を持って飛ぶ練習をしてほしいですね(笑)」
濱田「耳も目も楽しいですし、魔法がかかったこの世界の中に浸れるというのは、かけがえのない体験になると思うんです。それに綾香ちゃんが言ったように、深い。メリーって、『アッ!』と思うようなことをフッと言うんですよ。それがずーっと刺さっていて、ふとした拍子に『あのときメリーはああ言ったな』というのを自分でもよく考えたりします。たとえば『自分を邪魔するものは自分自身だ』とか、『どんなことだって起こる。その気になれば』とか。普通の『ああ、楽しかった』じゃ終われない。人それぞれ受け取れるものが違うと思います」
平原「3回は見た方がいいと思う。いろいろ楽しめるところがいっぱいあるんですよ。うん、6回かな? 最低4回は見てほしいです!(笑)」
「メリー・ポピンズ」は3月18日~5月7日 東急シアターオーブ、5月19日~6月5日 梅田芸術劇場メインホールで上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka