コラム:若林ゆり 舞台.com - 第58回
2017年7月27日更新
第58回:「ファインディング ネバーランド」で自分自身を見つけたブロードウェイの新星!
映画のミュージカル化作品が次々と生みだされているブロードウェイで、子どもも大人も夢中になれる感動作として観客から熱狂的な支持を集めたのが、ジョニー・デップ主演の「ネバーランド」を原作とする「ファインディング ネバーランド」(映画も原題は同じ)。劇作家のジェームズ・マシュー・バリが、当時としては型破りだった「ピーターパン」の物語を生みだしたのは、父親を失った幼い4人兄弟とその母親である未亡人との交流にインスパイアされたから。この実話を丁寧に紡ぎ、無邪気な童心が発揮する遊びのパワーと自由、想像力が生む創造力、喪失を乗り越えさせる愛と思いやり、そして「大人になること」の意味とせつなさを深く感じさせてくれる、魅力いっぱいの作品なのだ。
「ピピン」でトニー賞を受賞したダイアン・パウルス演出、テイク・ザットのゲイリー・バーロウ作詞・作曲によるこのミュージカルが、本場の才能あふれるキャスト・スタッフを揃えて日本上陸! 筆者がブロードウェイで観劇した2015年、主役のバリを演じていたのは「glee」のシュースター先生役で人気のマシュー・モリソンだったのだが、そのモリソンに「負けない」と評判をとったのが、アメリカのツアー版で主演を務めたビリー・タイだ。ツアー公演の合間を縫って、日本公演の前に来日したビリーにインタビュー。
まず観客にとって喜ばしいのは、ビリーがとってもハンサムだということ! しかもそのキャラクターがまた、絵に描いたような好青年。記者会見でのコメントや歌声披露を見れば、実力が申し分ないことはすぐにわかる。この1作で日本のミュージカルファンの心をわしづかみにすることは間違いない(キッパリ)。そんなビリーにとって、「ファインディング ネバーランド」との出会いは?
「ブロードウェイで『ピピン』に主演したとき、演出家のダイアンからこの作品のオーディションがあると、僕がこの役に合うかもしれないと言われたんだ。その時点ではまだこのショーを見ていなかったんだけど、見たらノックアウトされたよ。いちばん印象的だったのは、主人公のバリと子どもたちとのつながり。初めて子どもたちが子供部屋で飛ぶシーンの美しさを見たときは、悲しいわけではないのにどうしようもなく涙があふれてきた。子どもならではのシンプルさ、純粋さが表されていて、この作品の美しさを象徴しているシーンだよね!」
そう、この作品が映画と違うのは、「想像すること(イマジネーション)」の素晴らしさというテーマを、観客たちが実際にイマジネーションを使いながら楽しめるということなのだ。「ピーター パン」といえばワイヤーでの宙吊りが当たり前という世界で、あえてアナログな見せ方をして観客の想像力を喚起するシーンもある。
「イマジネーションを使うことこそが舞台の醍醐味だから、ダイアンのとった方法はすごく理に適っていると思う。それに、観客みんなが想像力を使っていることで劇場に生まれる一体感が、より観劇を楽しいものにしてくれるんじゃないかな」
バリを演じながら、ビリー自身も子役たちとの交流を楽しみ、毎回ものすごくインスピレーションをもらっているという。
「だからこそインスパイアされてばかりではなく、僕自身を子どもたちに対してインスパイアしやすい存在にしておく、ということが大事なんだ。ビリーとしても、バリとしても。そうすることで、舞台の上で感じたり楽しんだりという子どもたちならではの自由奔放さをより自然に引き出すことができるからね」
子どもたちの純真さがバリの迷いに満ちた心を解き放ち、遊び心と勇気を与える。バリの家のディナーで、バリと招かれた子どもたちが退屈から逃れ、イマジネーションの中で一緒に遊ぶシーンも見どころの1つだ。
「そこは、だいたいの段取りは決まっているんだけど、ときどきその通りに行かないことがある。投げたモノが男の子の顔に当たっちゃったりさ(笑)。そういうときはとくに、純粋にビリーと男の子として遊べている感じがするし、子役の少年たちと一緒にステージを作っている感じがするんだよ。演劇の仕事をやる上で気に入っているのは、責任やキャリアについて考えなければならないこの年齢になってなお、子どものころのようにシンプルに“楽しむ”ことに集中できるってことさ。人生において幸せや成功を手にするために最も重要なスキルは、子どものころのように純粋に楽しむ能力。ここは、その能力が発揮できるからすごく楽しいんだ」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka