コラム:若林ゆり 舞台.com - 第50回

2016年12月2日更新

若林ゆり 舞台.com

第50回:ミュージカル版「プリシラ」でドラァグクイーンに扮した山崎育三郎が、歌で心に触れる!

年上のバーナデットと若いアダム、この2人との丁々発止のやりとり、化学反応、支え合う友情も見どころだ。

「基本的にはティックは受け身で、コントで言ったらツッコミみたいな立場。バーナデットとアダムのキャラがすごく濃いので(笑)。2人は似ている部分があるんです。バーナデットにしてみたらアダムは若いころの自分を見ているような。だから反発するところもあるんだけど、そこをティックが繋げている。この2人はティックにとってドラァグクイーン仲間のなかでも、自分が自分のままでいられるという関係性なので大好きなんです。お稽古をしていていい関係ができてきたなぁと思うし、ここの会話が見せ場にもなってくると思いますが、絶対楽しくなると確信しています」

Photo by Leslie Kee
Photo by Leslie Kee

この作品を引っ張っていくのには「相当なエネルギーが必要」という山崎だが、演出家の宮本も人を巻き込むようなエネルギーの持ち主。稽古場も熱く燃えている。

「お稽古をやっていて重要なのが、カンパニーのみんなが『これ面白いね!』と思えるかどうか。それをみんなが実感しているって、これだけ思えるのはめずらしいほどです。昨日はバーナデットが旅の途中で恋をするシーンをやっていたんですが、みんな泣いていた。なんとも言えない泣けるポイントがたくさんあるんです。この台本の冒頭には『これはまだLGBTが世間に認められていなかった時代のお話しです』って書いてある。みんな明るく振る舞っているんだけど、それぞれが抱えているものがふっと見える瞬間があって。ほとんどの場面が愉快だしワーってショーアップされて盛り上がっているんですが。笑いあり、涙あり、歌ありダンスありでストーリーもキャラもしっかりしているから、すごく面白い。それを演じている人たちも実感している空気って、本当にいいんです」

幼いころにミュージカルに魅了されて以来、ひたすらミュージカルに力を注いできた山崎だが、昨年から約1年間、舞台をお休み。ドラマの仕事に専念して、お茶の間に強い印象を残した。

「ミュージカル以外の世界を自分が知ることで、ミュージカルを知らなかった人に見てもらう機会が生まれればいいなという思いもありました。映像の場合はその場に見てくださるお客様もいなくて、少ない人数でしゃべっていることにどれだけ集中できるか。こういう芝居のやりとりというのを、阿部寛さん(TBS系『下町ロケット』)や渡部篤郎さん(フジテレビ系『お義父さんと呼ばせて』)など、錚々たる役者さんたちとできたのはすごい経験でした。役者としての勉強になりましたし、ミュージカルに活かせるところもたくさんあると思います」

撮影:若林ゆり
撮影:若林ゆり

1年ぶりのミュージカル復帰は「エリザベート」で、無精髭の男臭い暗殺者、ルキーニ役。その直後に正反対のドラァグクイーン役ができることも喜びでした、と笑う。では、山崎にとってそれほど愛してやまないミュージカルの魅力とは?

「僕はまず歌が好きで。音楽から入ったことが大きいと思うんです。映画でも、音楽の力ってすごく大きいですよね。感動的なシーンではほぼ間違いなくバックに音楽が流れだすじゃないですか。ミュージカルの中でも音楽が使われるのは、より感情が動くところ。大きく思いがあふれたり、涙が出るとか、喜怒哀楽が動くところが歌になって、より明確にお客様の心へと届く、その力がミュージカルにはあると思うんです。僕の知り合いでミュージカルを見ないという人が『レ・ミゼラブル』の映画を見たときの感想が『あ、そういえば歌ってた』だったんですが、それがまさに僕の目指すところです。歌を歌としてじゃなくしゃべるように歌い、感情として聞いてもらうこと。日本は劇場が大きいから、歌への導入を自然に聞いてもらうのが難しいんですが、日生劇場ならそれもできると思うんです。ミュージカルに対して苦手意識のある方が見るには絶対ピッタリの作品なので、そういうところにも注目して見てもらいたいです。この作品から入っていただけたら『あ、ミュージカル面白いじゃん!』と言ってもらえる自信がありますから」

ミュージカル「プリシラ」は12月8~29日、日生劇場で上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
 http://www.tohostage.com/priscilla/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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