コラム:若林ゆり 舞台.com - 第4回
2014年4月1日更新
第4回:「アダムス・ファミリー」で毒気と色気たっぷりの母を演じる真琴つばさを直撃!
アメリカでは、日本におけるサザエさん一家に匹敵するほど愛されているおばけ一家「アダムス・ファミリー」。1コマ漫画として生まれ、ドラマやアニメ、映画でもヒットを飛ばしたこの作品のブロードウェイ・ミュージカル版が、日本オリジナルの演出とキャストでいよいよ上演される。筆者も3年前にブロードウェイで見たが、ゴメス役にネイサン・レイン、モーティシア役にビビ・ニューワースという最強のオリジナル・キャストで大いに盛り上がっていた。しかし日本版も「そう来たか!」と思わず膝を打ちたくなるほど絶妙なキャスティング。負けてはいない。なかでも楽しみなのが、モーティシア役の真琴つばさ。映画版ではアンジェリカ・ヒューストンが演じた青白い魔女に、宝塚出身の個性派がどう挑むのか。興味津々で、稽古真っ最中の真琴にインタビューを敢行した。
「人間の記憶ってあてになりませんね」と、真琴つばさは笑う。映画公開時に見たときの印象と、今回、出演が決まってから見直したときの記憶がまったく違ったことに驚いたのだとか。「お母さんのモーティシアはずーっと、『プラダを着た悪魔』の女編集長みたいなコワいイメージがあったんですよ。でも改めて見たら超静かで(笑)、ほとんどしゃべっていない。ただ存在感の強さだけでそういうイメージになっちゃってたんだな、と思って。だってこれってめちゃめちゃ家族愛の話ですよね。これを普通の格好をした人たちがやってたら普通の話になっていたかもしれないのに、格好を変えて設定を変えただけでこれだけみんなの共感を呼んで愛されるというのがすごい。改めて、外見って大切だなって思いました(笑)」
アダムス一家はゴスなファッションに身を包み、忌まわしいものや死の匂いが大好き。誰もが普通とはかなり違った、ちょっと不気味なキャラクターたちだ。
「でも、本人たちには自分が変わっているという自覚はないんですよね。あったとしても、そこを誇りに思っているんです」
では真琴つばさ本人が、人とは変わっているけれど誇りに思っているところとは?
「まったくこれが逆なんですよ。人と違うことがコンプレックスで、宝塚の初舞台のときから『なんで自分だけ人と違うんだろう』と落ち込んできましたから。真ん中に立つようになったら、人と違ってもいいんだという安心感はありましたけど。でも今回に限っては人と違う、同じにならない面白さがあるので、すごく自信をもってできるような気がします。この低音をこのまま活かせるというのもありますしね」
ストーリーは、お年頃を迎えた長女のウェンズデーが、初めて恋した普通の少年とその両親を家に迎えたことから起こるひと騒動を描くもの。モーティシアは一家を仕切り、家族のために心を砕く「強いお母さん」だ。
「見た目はイケるかなと思っても、内面が伴わないといけませんから模索中です。演出の白井(晃)さんが、私の中の毒気の部分をどんどんどんどん出してくれようとしているので、そこにうまく乗れたらなと。そこで感じるのは、ブロードウェイのモーティシアよりもっとアグレッシブ感がある。で、映画のモーティシアよりもっと毒気がある。ちょっと『プラダを着た悪魔』の編集長のほうに近寄ってるかな。家族に対しても愛情たっぷりではあるんですけど、間違ったことをしたらダメなんです。愛してるけど、間違っていたらビシッと正す。家族にもただラブ、ラブではなくて。お前は神様かってくらい、『私はみんなを愛してる~』って、大きな愛で包んでいる気分になってるの(笑)。この一家には、普通って何かなーって考えさせられる。普通じゃなくても自信をもっていいんだなーというところがいっぱいあるんです」
旦那さま役の橋本さとしは関西仕込みのユーモアたっぷりだが、「そこは乗らないように必死で抑えてます(笑)」と自粛中。「だって沖縄の人と北海道の人くらいの温度差がないと、この二人は成立しないんですよ」。ご先祖さまたちと歌い踊ったり、タンゴを踊ったりと、ショー的な見せ場もたっぷりだ。
「モーティシアの大きなナンバーはふたつあるんですけど、ひとつが『死は近くにある』っていう歌なんですね。『誰にでも死は忍び寄ってくる、安全圏にいると思っても何が起こるかわからない』っていうような歌詞なんですけど、これが、どうしても生命保険の歌に聞こえちゃってしょうがないの(笑)。もうひとつはタンゴって聞いてビビってたんですけど、普通のタンゴではなくて。タンゴかと思ってるとスパニッシュになって闘牛になって、という風に変化していくんです。普通の数式ではあり得ない答えが出てくるのが『アダムス・ファミリー』だなと思うので、そこは恐れないでいこうと思っています」
「アダムス・ファミリー」は4月7日~20日、青山劇場にて上演。以後、名古屋、神奈川、大阪にて巡演。詳しくは公式サイト
http://www.parco-play.com/web/program/addams/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka