コラム:若林ゆり 舞台.com - 第28回
2015年6月30日更新
第28回:イーストウッドも脱帽の舞台版「ジャージー・ボーイズ」に拍手喝采!
「ジャージー・ボーイズ」はミュージカルだろうか? もちろんブロードウェイで'05年に開幕し、トニー賞ミュージカル部門最優秀作品賞ほか数々の賞に輝いているのだから疑う余地はないのかもしれない。既存の曲を使った“ジュークボックス・ミュージカル”の1作ということになるのだろう。しかし、たとえばABBAのヒット曲を使った「マンマ・ミーア!」などは曲が歌う人物の心やセリフを表すミュージカル・ナンバーとして機能しているのに対し、「ジャージー・ボーイズ」のナンバーはあくまでもフランキー・ヴァリ&ザ・フォーシーズンズがライブやレコーディングで歌う曲として歌われる。心情を歌いあげるわけではないから、厳密に言えばミュージカルというより“ライブシーンがふんだんにあるストレートプレイ”なのではないか。
それでも、ブロードウェイ版「ジャージー・ボーイズ」はミュージカル・ファンの間にも熱狂的な支持を呼んだ。いきなり歌わないから、ミュージカル・ファン以外にも受けまくった。だって面白いんだもん。この際、ミュージカルかどうかなんて問題じゃない。この名作が、開幕から10年の歳月を経て、ついに来日。クリント・イーストウッド監督の映画版を見た人も見ていない人も、オリジナルの舞台がどんなに素晴らしいか、確かめないテはない!
この作品が描くのは、ニュー・ジャージーの掃きだめから出発し、60年代アメリカの音楽シーンで絶大な人気を誇った4人組のポップス・グループ、フランキー・バリ&ザ・フォーシーズンズがたどった真実の物語。これがマジかい、よく描けたなあとシビレるほどヤバく、おいしいキャラとエピソードがてんこ盛りである。しかも脚本・舞台構成・演出・パフォーマンス、すべてがビックリするほどうまくできている。
まず、物語をグループ名そのままの春夏秋冬(4章)に分け、4人が1シーズンずつナレーターを務めるという“羅生門スタイル”。4人いれば、真実は4つだ。これが効いている。栄光と挫折、友情とすれ違い、愛と憎しみ。人生の光と影がスリリングなドラマにクッキリと浮かび上がって心を揺さぶる。セットはニュージャージーの工場地帯を思わせるシンプルな鉄骨のブリッジと階段のみだが、この上段部分にTV映像やコミックアートを映す趣向もスタイリッシュ。
しかし、このショー最大の魅力は、なんといってもライブシーンだ。「シェリー(Sherry)」、「あの素晴らしき夜(Oh, What a Night!)」、「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」などといった綺羅星のごときヒットナンバーが33曲も聴ける。まさに物語の中に入り、ライブを見ている感覚。セリフ代わりのナンバーはないとはいえ、心情とリンクするような曲の配置は見事としか言いようがないし、時の経過やグループの変遷もよくわかる構成になっている。そして何より美しい高音のファルセットが特徴的なフランキー役者の声。そこに被さるハーモニーの心地よさは格別だし、おまけにキレッキレのキャッチーな振りがカッコいいのだ!
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka