コラム:若林ゆり 舞台.com - 第126回
2024年8月26日更新
山本耕史が26年ぶりのマーク役で、ブロードウェイスターたちと英語で演じきった「RENT」に感無量!!
伝説のミュージカル「RENT」に、またひとつ、語り継がれるであろうトピックが加わった。ここ日本で。スタッフ、キャストをアメリカより招いて稽古を行った初の日米合同キャスト版で、主役のひとりであるマークをなんと日本語版初演以来26年ぶりに、山本耕史が全編英語(日本語字幕付き)で熱演! 観客を熱狂で沸かせたのだ。ゲネプロと囲み取材、そして東京公演の初日を観劇したのでレポートをお届けしたい。
※本記事には、舞台のネタバレとなりうる箇所があります。未見の方は、十分にご注意ください。
その前に、基本情報をおさらいしよう。2005年にクリス・コロンバス監督によって映画化されて(06年日本公開、邦題は「レント」)、映画ファンにもおなじみの「RENT」。この作品はなぜ、伝説のミュージカルなのか。
初演が幕を開けたのは1996年の2月、オフ・ブロードウェイの小さな劇場でのことだった。作詞・作曲・脚本・演出を手がけたのはジョナサン・ラーソン。プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」を現代ニューヨークのイーストヴィレッジに移し替え、アーティストを目指す貧しい若者たちの青春を描いたロック・ミュージカルはまたたく間に大評判に。そして同年4月、ブロードウェイのネダーランダー劇場に移ってさらなる熱狂を呼び、数々の賞に輝いて、12年以上にわたってロングラン上演されることになる(いまに至るまで全米ツアー版や世界での翻訳上演は行われている)。
友情や夢、愛、アイデンティティといった青春物語に止まらず、人種問題や格差社会、セクシャルマイノリティに薬物中毒、HIV感染(AIDS)など、ラーソンの実体験をふまえて、当時のニューヨークの若者たちが抱える問題をヴィヴィッドに描き、ロック・ミュージックを中心としたエモーショナルなミュージカルナンバーで観客の心を掴んだのだ。そしてこの作品にはもうひとつ、特別な事情があった。7年近い歳月をかけ、身を削って作品をつくりあげたラーソンが、プレビュー公演が開幕するというその日に、35歳の若さで急病死したのである。
それでもラーソンが作品に込めたメッセージは見る人の心を突き動かし揺さぶり、いまも色あせない。言葉の壁も超え、世界中をひとつにつなぐ。それを改めて実感させた、28年後の日米合作版だった。
今回の来日カンパニーは、初演にも引けを取らないのでは、と思わせるくらい、ベストキャストが集結。そのなかに、日本側からは山本と、マークの元恋人・モーリーン役でクリスタル・ケイが参戦している。ケイは日本生まれだが英語ネイティブ。しかし山本は、本人曰く「英語が得意とは言えない」。それでもチャレンジを決意したのは、26年前の98年、21歳のときにマーク役を演じた日本版初演の「RENT」が「役者としての自分の原点になっているから」だという。
「そりゃ最初は『できない』と思ったこともありましたよ、だって言語が違うから」と、囲み取材で山本は語った。「26年前には日本語でやりましたけれども、今回は英語ネイティブの方々のなか、僕が英語に合わせるという『RENT』なので、すごくチャレンジングではありました。1年ほど前から英語の強化をずっとやっていたんですけど、『こんなにしゃべれないかな』と思うくらい。みなさんはすごくしゃべれるネイティブ・スピーカーばかりですのでね」
「稽古場でも英語がわからないことが時々あって、そんなときは『Oh, right』みたいな感じでわかったフリをして(笑)。後でケイちゃんに『あれなんて言ってたの? こう聞こえたんだけど合ってる?』と聞いたりしていました。でも、みんな僕のつたない英語を聞こうとしてくれますし、後半は言葉をはっきりキャッチできなくても、もう言わんとしてることがよくわかって。なんだか不思議ですよね。接している時間が長ければ長いほど、『言わずもがな』で、わかっていくんだなと思いました」
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka