コラム:若林ゆり 舞台.com - 第112回

2023年3月7日更新

若林ゆり 舞台.com

映像版では歌うナンバーもなく、ちょっと影の薄かったミスター・ワームウッドだが、この舞台版ではそれはもう、存在感バツグン。2幕の頭では観客とやりとりしつつ歌う大ナンバーもある。ダブルキャストの斎藤とは、どんな風に切磋琢磨をしているのだろう。

「斎藤さんとは直接言葉で役について話し合うということはそんなにないんですけど、お互いにいいところがあったらどんどん取り入れています。個性がまったく異なるので、仕上がりはきっとまるで違ったものになると思います。もちろん段取りなんかは確認し合って協力していますし、同じように演出を受けて最高の作品を目指すというところは同じですから、タッグを組んでいるという感覚はありますね。この役は単純な人物なのでメロディも単純なんですけど、パワーがみなぎっている人だから、舞台ならではのエネルギーは絶対に必要な役だと思うんです。だから、いままで大きな劇場に立たせていただいた経験で培った、大劇場でのパワーというのは武器になるかなと思います」

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この公演では海外のクリエイティブチームが全面的に作品づくりを率いている。その稽古の現場は「日本ではないみたいに、いつもとは違う風がビュンビュン吹いている」という。

「僕がいままで出演してきた、いわゆるグランドミュージカル(生演奏、大劇場で上演される作品)の5倍もの稽古場を使っているんですよ! そこで、いまはそれぞれのパーツを別々に組み立てているようなイメージ。非常に綿密につくられているんですけど、役者のもてる自由度は意外なほど高いんです。『ここがよかった、あれがよかった』と、それぞれの役づくりに余白をもたせながら、絶対に外してはいけないレールは示し、押さえるべきポイントはしっかり伝えてくださるので、その余白をどう育んでいくかは本当に役者次第なんだな、と思いました。いまはチームごとに稽古場を分けてやっているんです。僕たちはほぼワームウッド一家の絡みしかないので、別のチームが何をやっているのかわからない。秘密主義なんですよ。(取材時点では)ミス・トランチブル(校長)の稽古は一度も見たことがないんです。この後、『じゃあ、そろそろ一緒に』となったときには、お互いにビックリするんじゃないかな。『こんなことになってたんだ!』みたいにね」

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目指すのはやはり、ミュージカルならではの醍醐味だ。

「わかりやすい例で言うと、初めてミュージカルに挑戦する方は、『どうして音楽や楽譜に芝居を合わせるの?』とおっしゃることがよくあるんです。『このセリフはこう言いたいのに、何でメロディがついてるんだろう』とか、『このテンポで言わなきゃいけないの?』とか、『オーケストラの3小節目の4拍目でこれをやってください、って決まっているところに合わせるなんて……』って。でも実は逆で、僕たち演じる側から生まれたタイミングがたまたまそうなるように、僕らがまずつくっていくことなんです。そうすると、音楽の力には言葉やお芝居を超越したものがあるので、その音楽を味方につけられればもう最強なんですよ! 伝わるものがすごい。だから音楽に合わせるんじゃなくて、自分たちの力で生み出したものが結果、その音楽になっているだけ、という風になるのがいちばんの理想です。そう考えると決まり事は多いし、それを覚えるまでは大変なんですけど、体に入ってしまえば、まさに奇跡が起こる。そうなれば『このタイミングで、この音でしかセリフを言いたくない』『ここでこの動きしかしたくない』という風にピタッとはまるところが出てくるんです。そうなったときが、まさにミュージカルですよね」

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いまはミュージカル「メリー・ポピンズ」や舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」など、魔法がかかったような魅力をもつ舞台が増えてきているが、本作も間違いなくそのひとつとなるだろう。

「昔はピーターパンみたいに『空飛べたらなぁ』とか本当に思ってたのに、現実世界で疲れていたりすると、なかなか思わなくなるじゃないですか。大人になってしまうと。でもやっぱりどこかで魔法を信じたいんです。大人もみんなディズニーランドが好きなのも、そうですよね。音楽もそうですけど、舞台は魔法そのものだと思うので、しっかりと、本物の魔法をみなさんにかけたい。劇場に来なければ体験できない魔法を、観客のみなさんにぜひ堪能してほしいと思っています」

ミュージカル「マチルダ」は、3月22日~3月24日のプレビュー公演を経て、3月25日~5月6日、東京・東急シアターオーブで上演される。大阪公演もあり。詳しい情報は公式HP(https://matilda2023.jp)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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