コラム:若林ゆり 舞台.com - 第110回

2022年11月22日更新

若林ゆり 舞台.com
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この稽古に入る前には約半年の間、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に専心。三谷幸喜が描く新しい源実朝を演じた経験は、どんなものだったのか。

「あの環境は、僕がこの十数年『自分はこういうことがしたい』とか、『こういう人と出会いたい、こういう人たちのところで勝負したい』と言い続けてきたことが、やっと叶った現場でした。僕にとって理想の形そのものだったんです。とにかく共演者がみなさん、芝居のことしか考えてない、熱い人たちばかりで。みんながみんな、作品に対する愛がすごくあって、どんな役でも愛情をもって『やりきった』という表情でクランクアップされていく。すごく刺激を受けました。すべての作品が、こういう現場であるべきだと心の底から思いますね」

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柿澤の演じる実朝は、三谷をして「思い描いていた実朝がそこにいた」と言わしめた。

「実朝は下を向いて悩んでる時間が長かったんですけど、役者としてはすごく幸せな半年間でした。実朝について調べれば調べるほど、彼の悲しい人生を世間に知ってもらわないとかわいそうすぎる、という思いが強くなったので。僕は舞台が中心でしたから、おそらく視聴者のほとんどが僕のことを知らなかったと思います。ただ、演劇のファンの方たちは僕がダークな闇の部分とかを得意とするって認識されているようで。『泣き叫んでほしい』とか『暴れてほしい』とか、いろいろ言われていたらしいんですよ。けど、実朝はそういうことにはならないし(笑)。だから『裏切りたいな』と思ったんです、僕のそういうイメージを。それは三谷さんも多分思っていることで。『柿澤さん、こういう役は初めてでしょう』と。それを踏まえた上であの役を書いてくださったので、『人のことをしっかり見ているんだろうな』と思いましたね」

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そしてこの後、23年の3月からは名作ミュージカル「ジキル&ハイド」で主役のヘンリー・ジキルとハイドを演じることも決定。

「いろんな方から『すごく楽しみ』とか『いつかカッキーやると思ってた』などと言っていただいていて、驚いているんです。とにかく曲が好きで、鹿賀丈史さんが演じられていた頃からよく見ていましたけど、自分がやるとは考えていませんでした。役者としては、やっぱりひとりで二重の役を舞台でやるというのは単純にハードルが高いわけだから。映像だったら扮装を変えたり、編集や加工で別人に見せたりすることは、舞台より簡単な気がするんですけど、舞台は生なので、目の前でそれを見せなきゃいけない。大変だろうけど、やりがいがあるだろうなと思っています」

「鎌倉殿の13人」で得た経験値は、柿澤を大きく成長させた。それが舞台にどう反映されるかも楽しみなところ。

「すごい先輩方の芝居を見ながら『自分の信じてきたことは間違っていなかったんだ』と思いました。作品とシーンを成立させるために、ものすごい熱量を持って『死ぬ気で』『命がけで』やる人ばかりでしたから。芝居って正解がないので、どうしても『この程度でいいや』とか、『これで今日はもう終わりにしよう』という風になっちゃうんですけど、実際はやってもやってもたどり着かない。それでもやっぱり求めていかなきゃいけない、満足したら終わりだって僕はずっと言い続けているんです。『鎌倉殿』はいろんなジャンルから来た方たちがいらっしゃったので、ぬるま湯でやってたらダメだって感じましたし、そういう現場でした。すごい共演者のみなさんのように、僕もこの経験値を無駄にしないよう『続けていかなければ』というのがいまの気持ちです」

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いま現在は、「東京ラブストーリー」に「命がけで」挑戦中。

「死ぬ気でやらないと、とても追いつきません。でも深刻な作品ではないので、楽しんでもらうことがいちばんですね。ミュージカルって外国で生まれたものなので、日本でミュージカルを作るということ自体、想像つかない人が多いと思います。ましてや『東京ラブストーリー』がミュージカルになるというと、ちょっとネガティブな意見をもつ方もいらっしゃるかもしれません。でも、それを裏切ることができるような作品にしていきたい。『日本で作るミュージカルって面白いじゃん』とか、『意外と頑張ったな』と思ってもらえたら最高ですね」

ミュージカル「東京ラブストーリー」は11月27日~12月18日、東京建物 Brillia HALLで上演される(キャストは【空】【海】の2チーム制で、柿澤は【空】キャストとして出演)。以後、大阪、愛知、広島公演あり。詳しい情報は公式サイト(https://horipro-stage.jp/stage/love2022/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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