コラム:若林ゆり 舞台.com - 第102回

2021年11月30日更新

若林ゆり 舞台.com

第102回:ミュージカル版「雨に唄えば」のアダム・クーパーが、劇場に戻れた幸福感を日本の観客と分かち合う!

アダム・クーパーのミュージカル版「雨に唄えば」が帰ってくる!
アダム・クーパーのミュージカル版「雨に唄えば」が帰ってくる!

やっと、待ちに待ったこのミュージカルが日本に帰ってくる! ミュージカル史に残る大傑作「SINGIN’ IN THE RAIN~雨に唄えば~」だ。筆者がこの舞台を初めて見たのは2012年、ロンドンでのこと。そのときの感激は、本コラム第18回(https://eiga.com/extra/butai/18/)に書いたが、それに加えて過去2回の来日公演を観劇できたことは、人生でも最高の体験だったと思っている。そして本当なら、この作品は昨年秋、日本における3度目の開幕を迎えるはずだった。しかしコロナ禍の影響は避けられず、あえなく延期に。

しかし、この作品がロンドンでの上演を経て、いよいよ22年の1月~2月、日本での開幕を果たす! これは必見だ。ウイルスとの闘いに勝利できるという手応えを誰もが感じ、我慢の日々に終止符が打たれようとしているこの時期に、これほどふさわしい作品があるだろうか?

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主演のアダム・クーパーも「これ以上の作品はないよ」と太鼓判を押す。それはこの夏、長い延期期間の後にロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で公演したクーパー自身が手にした確信だった。

「ロンドンの劇場で幕を開けたとき、僕たちと同じようにお客様も劇場に戻ってこられたことをどれだけ喜んでいるか、肌でビシビシと感じることができた。個人的な意見だけど、『SINGIN’ IN THE RAIN』ほど、見て幸福感に満たされる作品はほかにないよ! だからこそ、いまの時期、我慢を強いられていた時間から解放されるというときに上演するのに最適だと思うんだ。それにこの作品は、時代の変わり目を舞台にしている。映画界がサイレント映画からトーキーへ、新しい時代へと変化する瞬間を描いているから『最悪の時代は去った、これからまた新たなステージに入った』ということを祝えるいまの状況とリンクするところもあると思う。劇場に来てこの作品が発する喜びを体感しているお客様と、演じる喜びに溢れた僕たち俳優が完全に一体になっている感覚は格別だった。『また人生を楽しんでいいんだ!』という実感を共有できる素晴らしさを、初日から千秋楽まで毎公演、全身で噛みしめていたよ」

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舞台はトーキー映画が出現した直後のハリウッド。クーパーが演じるドン・ロックウッドはサイレント映画界の大スターだ。ここでは映画製作の現場で巻き起こる騒動をコミカルに描きながら、心躍るソング&ダンス、ドンと女優の卵、キャシーとのロマンスで観客のハートを虜にする。映画版はジーン・ケリーの代表作としてあまりにも有名だが、クーパーはミュージカル版ならではの魅力も感じてほしいと語る。

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「映画は本当に、素晴らしいとしか言いようがないと思っている。ただ、あれは1950年代初頭の作品だからね。このミュージカルは振付にしてもスタイルにしても、21世紀の観客のためにアップデートされているんだ。ジーン・ケリーについて言えば、彼はものすごく魅力的だよ。だって彼は自分自身も映画スターだったわけだし、そりゃドン・ロックウッドそのものだったんだから勝てっこない(笑)。でも今回の舞台では、映画のスタイルをいまの時代に合うよう刷新するとともに、登場人物同士の関係性についてもっと強調して、掴みやすくなっているところがいいと思うんだ。たとえば、最初はうまくいきそうもないドンとキャシーが、だんだんと恋愛関係になっていく様子。相手役リナとの愛憎関係、コズモとの公私にわたる信頼関係。ドンはコズモに頼りっきりで彼なしじゃいられない、コズモの存在がドンの自信を支えてくれているようなところがあると思うんだよ(笑)。そういう関係性をうまい具合に可視化できたと思う。すでに完成されたものの魅力をさらに引き出したところが、映画との大きな違いだ。それにもちろん、観客席と直接、感情的に繫がれるところも魅力だよ」

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そしてもちろん、タイトル曲の名場面だ。14トンもの水が舞台上にどしゃ降りになるとともに、舞台下の部分からも湧き出て大きな水たまりを作る。そのなかでずぶ濡れになったクーパーが、盛大に水しぶきをあげながら歌い踊るシーンは圧巻!

「ドンを演じながらあのシーンを歌い踊るということは、パフォーマーとして何よりいちばんの楽しみなんだ。ドン自身、恋がうまくいって生きる喜びを爆発させるシーンだけど、僕自身も喜びを爆発させている(笑)。もちろん衣装は重くなるし体力的にも技術的にも大変なんだけれど、あのナンバーをやることに飽きるなんてあり得ないよ。1幕の終わりにくるナンバーだし、まるで水にも振付がついているような印象を与えるのが素晴らしい。水を飛ばされてキャーキャー嬉しそうなお客様の反応も毎公演すごいし、毎回違いがあるから楽しくて仕方がないんだ」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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