コラム:若林ゆり 舞台.com - 第102回

2021年11月30日更新

若林ゆり 舞台.com
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2012年の初演以来、何度もドン役を演じてきたクーパーだが、ドンについても新たな発見があったという。

「それというのも、今回はかつてないくらい、長い稽古期間を過ごすことができたからなんだ。今回、キャシーを演じるシャーロット・グーチ(「TOP HAT」で来日経験あり)の演技から触発されて改めて発見したのが、ドンの中に潜む“脆さ”だった。ドンはボードビル出身で、スタントマンの経験を経てサイレント映画の大スターに登り詰めたけど、映画界においてはシリアスな演技派俳優と認められているわけじゃないからね。『なりたかった自分になれていない』と感じているし、作品ごとに自信のなさをはねのけて『自分にはこれができる』と証明する必要があるんだ。そこにドンの弱さがあると思うし、それは今回、突き詰めることができた部分だと思っている」

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意外なことに、ドンの“脆さ”は、クーパー自身も非常に共感できる部分だったという。

「面白いことに、ドンと僕はかなりかけ離れた人間だと思うと同時に、すごく似たところもあるなと感じているんだ。僕自身もバレエから始まって、異ジャンルのダンスにミュージカル、振付、演出、プロデュース作品など、どんどん新しいことに挑戦してきたので、つねに『自分にできるってことを証明しなければ』と感じてきた。だからその部分はとても似ているし、弱さも自覚しているからすごくシンパシーを覚えるよ。決定的に違うのは、彼が映画界の大スターだってこと。僕は超有名人でもなければ街を歩いたらみんなに大騒ぎされるなんてこともないからね。その方がプライバシーを保てるからありがたい。でも、みんなからちやほやされる大スターのドンは、演じていてとても楽しい役だと思っているよ(笑)」

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バレエ・ダンサーとしてイギリスのロイヤル・バレエ団に入って頂点を極めた後、活躍の場を広げてきたクーパー。その経験のひとつひとつが自分を成長させてくれた、と感じている。

「バレエ団に入って5、6年目くらいに『自分にはほかにももっとできることがあるんじゃないか?』と思い始めた。そこがきっかけだったね。それからマシュー・ボーンに『白鳥の湖』の仕事をオファーされて、それをやることで違う世界の扉がどんどん開かれた感じだ。もともとタップダンスはバレエを始める前からやっていたし、歌もやって、それからバレエをやって、ジャズや他のダンスもやってという感じだったので、いろいろな引き出しは備わっていた。だからジャンルの幅を広げるというのは運命だったんじゃないかな。ミュージカルも最初から自信満々だったわけではないけど、『ガイズ&ドールズ』でミュージカル界における地位を確立できたと感じている。なにしろ演じた役は全然踊らないキャラクターだったんだ(笑)。だから演技と歌に頼るしかない。ダンスなしで観客に受け入れられたというのは、自分にとって大きな経験だったと思う。しかもパトリック・スウェイジみたいな大スターと共演できて、出会いに感謝しているよ」

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映画「リトル・ダンサー」のラストを飾る“成長したビリー・エリオット”役でクーパーを認識した人も多いと思うが「映画はちゃんと経験したことがないので、いつかやってみたい」ことだそう。「いまの仕事をこれからもできるだけ長く続けていきたい」と力強く語る彼は、「SINGIN’ IN THE RAIN」で観客からのエネルギーを受けたせいか、ますます若返ったように見える。

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「あははは、ありがとう。そうだね、少なくともこの10年は、それ以前より若さを保てているように感じるから、この作品に秘密があるのかも(笑)。コロナ禍で舞台に出られない時間というのは、僕にとってそれは難しい時間だった。最初のうちは、いままでなかなか持てなかった家族と一緒の時間ができて嬉しいと思っていたんだ。けれど数カ月も経つと、どんどんどんどん辛くなってきた。僕は舞台人だから、舞台が人生そのものだ。その状況を乗り越えられたのは、家族の支えがあったからこそ。それにコロナ禍さえ去れば『SINGIN’ IN THE RAIN』ができるというのは、トンネルの先の光だった。この作品に主演するのはこれが最後になると思うけれど、これからもパフォーマーとして、演出家・振付家として新しい作品を作り続けられたら幸いだよ。日本のお客様は長い間、僕のキャリアをずーっと応援してくださっているという思いがある。だから日本へ行くのが待ちきれない思いだよ。これからも日本のみなさんに喜んでもらえる仕事をしていけたら最高だ」

「SINGIN’ IN THE RAIN〜雨に唄えば〜」は2022年1月22日~2月13日、東京・東急シアター・オーブで、2月18日〜21日、大阪・オリックス劇場で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://singinintherain.jp/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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