コラム:編集部コラム やっぱりアニメはヽ(´▽`)ノ日本が一番 - 第11回
2013年5月16日更新
第11回:桜の次は、雨…新海誠監督の「言の葉の庭」でしっとり潤い
毎回お題に沿って印象に残った映画を投票してもらう映画.comの「オシ10」企画。今春に「桜が印象的な映画」として投票を受け付けたところ、1位になったのは新海誠監督の「秒速5センチメートル」でした(※詳細はこちら)。「秒速5センチメートル」は“桜の花びらが舞い散る速度”を意味し、確かに桜が印象的なのは一目瞭然で、ご覧になった方には納得の結果かなと思います。
5月31日から公開となる新海監督の新作「言の葉の庭」は、そんな「秒速5センチメートル」の桜に続いて、新緑、あるいは雨が印象的な作品として記憶に残るものになるかもしれません。
「言の葉の庭」は、繊細なドラマや映像美で人気の新海監督が、現代の東京を舞台にした恋物語。主人公の少年タカオは、靴職人を目指す高校生で、雨が降ると午前中の授業をさぼり、公園(新宿御苑)の日本庭園で靴のスケッチを描いていたところ、ある雨の日、いつもの庭園で謎めいた年上の女性ユキノと出会う。2人はそれ以来、特に約束するわけでもなく、雨の日になると同じ場所で会い、心を通わせていく。「歩き方を忘れてしまった」と心情を吐露するユキノのために、タカオはもっと歩きたくなるような靴を作ろうと決意するが、やがてユキノがいつもひとりで公園にいた理由が明らかになり……。
これまでも惹かれあう男女の、時間や物理的な距離によって生じる心の変化を描いてきた新海監督。独特な言葉選びによって紡ぎだされる詩的な独白や風景描写は今作でも健在で、冒頭のタカオのモノローグや、距離の縮まったタカオとユキノの声が重なる場面などは、過去作を彷彿(ほうふつ)とさせて、新海作品ファンにはうれしいところだと思います。万葉集から着想を得たという今作ですが、新海監督は以前からずっと万葉集に関心をもっていたとのこと。「言葉」がひとつの魅力になっている新海作品のルーツをひとつ見つけたような気もします。
いわゆる「セカイ系」とも言われた「ほしのこえ」からスタートした新海作品も、徐々に登場人物の生活感や周囲の人々も描かれるようになり、今回は初めて現代の東京が舞台になりました。タカオやユキノの部屋や生活の細かな描写も見せつつ、一方で、日本庭園では定評のある自然描写の美しさがさく裂。新たな表現手法として葉の緑や青が人物にも投影させられ、匂い立つような雨、夕立、夏の突然のゲリラ豪雨など、シーンにあわせたさまざまな雨の描写も、空気に含まれた湿り気まで伝わってきそうで、見ているだけでしっとり潤った気分に。全体的に映像の密度は濃いけれど柔らかく、タカオが靴職人を目指しているという物語の進行上、ユキノの足がたびたび映るところには、見る人によってはフェティシズムすら感じるかもしれません。
劇場公開と同時にDVDとBlu-rayが発売されますが(上映劇場にて先行発売。一般店発売は6月21日)、作品内容と完全にリンクする梅雨の季節に公開なので、雨で屋外レジャーが楽しめない折に、ぜひ映画館でと思います。