ココマルシアターが1周年! 総支配人が語る“しくじり”、そして“夢への執念”

2018年10月20日 12:00


インタビューに応じた総支配人・樋口義男氏
インタビューに応じた総支配人・樋口義男氏

[映画.com ニュース] 「映画ビジネスが、こんなに難しいとは……」。そう苦笑しながら、東京・吉祥寺のミニシアター「ココロヲ・動かす・映画館○」(通称ココマルシアター)の総支配人・樋口義男氏は席に着いた。その“しくじり”により何かと話題を集めたココマルシアターが、10月21日に開館1周年を迎える。痛恨の失敗の背景にあったのは、どんな問題だったのか。そしていま、何を思うのか。樋口氏に話を聞いた。

惜しまれつつ閉館した吉祥寺バウスシアターの意志を継ぎ、立ち上がったココマルシアター。1階部分が通常の映画館で、2階は「出会える場」をコンセプトにしたカフェ、そして3階にはイベントスペースが設けられており、吉祥寺に“新たなミニシアター系文化”を発信し続けている。

17年4月15日にプレオープンした同館。しかし船出は順風満帆とはいかず、そもそも内装工事が大幅に遅れていたため、プレオープンは1日で中止へと追い込まれた。その後10回以上、開館延期を繰り返し、クラウドファンディングの出資者からは非難の声が相次いだ。同年10月21日、ようやく本オープンにこぎつけたが、万難を排して臨んだはずの初回上映で悲劇が起きる。「マイ・ビューティフル・ガーデン」映写中に機材トラブルが発生し、上映中止となってしまったのだ。

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ゲームCGを制作する「デジタルワークスエンターテインメント」の経営者でもある樋口氏が、映画館を設立するに至った動機は、ひとえに幼いころから感動し続けてきた映画への“愛”であり、挫折しながらも夢を追ったウォルト・ディズニーへの“あこがれ”だ。8年ほど前からアップリンクで配給のノウハウを学び、試行錯誤しながら作品を買い付け始めた。「異業種からの一見さん」と白い目で見られもしたが、地道かつ熱心な営業活動で信用を得ていき、そのユーモアあふれる人柄が気に入られるようにもなった。

樋口氏「アップリンクの授業で『ミニシアターを盛り上げるには』と話し合った際に、私は『ソフトウェア(作品)に依存することなく、ハードウェア(映画館そのもの)を工夫するべき』と提案しました。例えばディズニーランドは、多くの来場者は乗り物だけではなく、楽しい気持ちになれる“空間”を求めてやってきます。私が『映画の合間にプラネタリウム』と言うと、ある女性――『ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る』の八木景子監督ですが――に、『樋口くん、それは邪道だよ』と言われてしまいました。そこで『邪道かどうか試したい』と思ったんです。そのためには自分の映画館を持つ必要がありました」

開館する場所は、青春の思い出が深い吉祥寺に決めた。温かみあふれる劇場を目指して指揮をとり、コンセプトや内装に工夫を凝らしていった。理想はあった。しかし見通しが甘かった。

樋口氏「興行法や消防法などが、ここまで複雑に絡み合っているのか。設備全部をチェックして、一括で指摘されるのではないんですよ。『ここがダメ。また来ます』と帰っていき、後日また来てもらうと『先日のここ、大丈夫。今度はここがダメ』。そのため時間がかかり、延期を繰り返し、その度にお客さんからクレームを受けました」

そして激動のプレオープン当日。連日徹夜で準備に駆け回ったが、内装はまるきり間に合わず、とても営業できる状態ではなかった。「配給会社など各方面に、大変申し訳ないことをしました。当日の朝、一緒に準備に尽力してくれたスタッフは私が『おはよう』と話しかけても、しーん……。雰囲気最悪。『何だこのおっさん、ふざけんなよ』という感じで、犯罪者を見るようなものすごい目つきでした。次の日、スタッフたちから『辞めます』と。引き止めましたが、そうなってしまいますよね」。

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「絶対にリベンジする」と準備を続け、悲願の本オープンを迎える。一同は歓喜にわいたが、またしても悪夢のようなアクシデントが襲い掛かった。「何度もリハーサルをしていましたが、あんなトラブルは1度もなかったんです。よりにもよって初回に映写が止まるとは、自分の運命を疑いました。青ざめました。支援してくださった方々やファンのみなさんが『よく頑張ったね』とねぎらってくれていたのに。そういったトラブルがあったので、その後、配給会社さんから作品を借りられないことが続きました」。

しかし“捨てる神あれば拾う神あり”だ。樋口氏は「運営を続け、日々の仕事ぶりから信用を取り戻すしかない。そう行動するなか、ある興行主さんが連絡をくれたんです。私が初めて劇場営業に行った某映画館でお会いしてくださった方で、うちを手伝っていただけることになった。教えてもらううちに、徐々にラインナップがそれなりになってきました。やはり、自分ひとりの力ではできません。周囲の方々と調和していかないと、映画ビジネスは成り立たない」と、額をぬぐいながら語る。

ひとりで突っ走ってしまう“しくじり”から学んだことは、「周囲と協力することの大切さ」。痛手はあったが、初心に返り、再び前を向くことができた。いまは観客が楽しめる施策を考案する日々に、喜びを感じている。「かつてのゲーム業界では『携帯電話のゲームはすぐ飽きられる』とされていましたが、チャレンジの末に爆発的なヒット作が生み出されていった。劇場運営においても、揶揄されながらも、やり続けなければいけないと思っています。携帯ゲームと絡めたプレゼントイベントを実施した際には、『ミニシアターに初めて来た』というゲームファンも多くいました。まったく違うところから集客をし、映画ファンを増やすことができる。そう強く感じた瞬間でした」。

ゲーム業界から映画館運営に乗り出し、大胆な発想でミニシアターに新風を吹き込もうと奮闘する樋口氏。上映中の映画「宝物の抱きかた」が1カ月間すべて満席という“記録”を打ち立てるなど、徐々に努力が実りつつある。「とにかく前に進むしかない。その性格だから、まだやれているのかもしれません」という彼の言葉には、失敗の苦難や立ちはだかる壁を乗り越え続け、決して歩みを止めない“夢への執念”が、混じりけもなく煌いていたように思う。

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