とら男

劇場公開日:

とら男

解説

刑事歴30数年の元刑事が本人役として主演を務め、かつて自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る、セミドキュメンタリータッチの異色ミステリー。

1992年に起きた金沢女性スイミングコーチ殺人事件。担当刑事のとら男は犯人の目星をつけながらも逮捕に至ることができず、未解決事件のまま2007年に時効が成立した。15年後、警察を退職したとら男は事件のことが忘れられないまま孤独に暮らしていた。ある日、とら男は東京から植物調査に来た女子大生・かや子と偶然出会う。とら男の話に興味を持った彼女は、当時の事件について調査をスタートさせる。現実とフィクションの二重構造によって、闇に葬られた事件の謎と真実を世間に問うていく。

とら男役を元・石川県警特捜刑事の西村虎男、かや子役を「海辺の映画館 キネマの玉手箱」の加藤才紀子がそれぞれ演じる。監督は「堕ちる」の村山和也。

2021年製作/98分/日本
配給:「とら男」製作委員会
劇場公開日:2022年8月6日

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(C)「とら男」製作委員会

映画レビュー

4.5映画(フィクション)が現実(ノンフィクション)を動かす

2023年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

難しい

村山和也監督作品は初見。

この作品は最初、映画評論家の松崎健夫さんが2022年の一本としてこの作品を事あるごとに紹介していて興味を持ったからだった。
その時点で近場の劇場では上映が終了していて、観れないことを悔しく感じたのを覚えてる。その後、配信でようやく観れる機会に恵まれたので観賞した。

観終わって思ったのが、事件を風化させない想いと諦めない執念を遺そうというメッセージ性だった。
この作品で実際の未解決事件を取り扱うけれど、事件の詳細なディティールを明かして観客に推理させるものじゃなく、あくまでその事件を解決出来ないことを悔やんでるとら男さんと、その事件を風化させないセミドキュメンタリーであろうとしてるってスタンスが感じられた。

セミドキュメンタリーって手法がノンフィクション(実際)の刑事や事件と、演技(フィクション)をしている役者やドラマを曖昧にしていて、クリント・イーストウッドの『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』『アメリカン・スナイパー』『15時17分、パリ行き』を観ている時の気持ちを思い出した。
個人的にはプール側の職員以外の聞き込みを行ってるシーンでの人々が、まるでドキュメンタリーを見ているような、演技っぽくない素の感じが出ているのも好みだった。

カメラワークもドキュメンタリータッチな撮り方とドラマチックな撮り方が混在することで、フィクションとノンフィクションを反復横跳びしているような、観客にも曖昧にさせるようなそんな印象を受けたし、ドラマチックな撮り方のカットは日本なのにまるで海外で撮影したかのように全体の画が美しく、撮影監督の鈴木イヴゲニさんの手腕を感じた。
犯行の再現シーンは逆光や被害者を直接的に映さないことで生々しさがかなり抑えられてたし、この撮影監督の画をもっと観たかった、惜しい人を亡くしたと感じた。

西村虎男さんは実際の事件を解決出来なかったって無念の思いもあるだろうけど、演技未経験なのが信じられないほどの人生経験を積み重ねてきたからこその顔の皺や眼光が描写以上に内面を物語ってるように感じた。

かや子役の加藤才紀子さんの演技も光っていて、ひと目見た時は普通の大学生っぽい印象だったのにいつしかただの相方じゃない存在になってたし、"調べても意味が無い"”時効だからしょうがない””倫理的に繊細””担当を外れたから何も出来なかった”と諦めさせるような事を言われても頑として聞かず、例え去るとしても"何か"を遺して想いを繋ぐ、諦めてしまったとら男さんに対する推進剤のような役割を果たしてたと思う。

監督が遺族への制作許可を取りに行って理解を得られたわけじゃない(明確な約束は得られず、そっとして欲しいと言われた)ってのが実際の事件の難しいところではあるけれど、公開時には石川テレビや北陸中日新聞でこの未解決事件を再び報道して日の目を浴びたり、地元雑誌の北國アクタスでは、(犯人と思われる)登場人物のモデルとなった人物に取材し、映画は未見ながらインタビューで「映画の犯人、俺かもしれない」というコメントや「今も供養している」とコメントを表に出たってのを知って(映画評論家の松崎健夫さんが紹介していて)とても驚いた。
映画って言うフィクションが現実(ノンフィクション)を動かすって言う稀有な体験だし、稀有な作品だと思う。

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神社エール

4.0ドラマ+ドキュメンタリー+本人主演=とにかく新感覚

2022年9月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 1992年9月30日、殺害推定時刻19時45分。遺体が発見されたのは金沢市三十刈。その頃医療関係の仕事をしていた私kossyは、隣町くの医院にて院長と1時間以上話し込んでいた。現場近くにいたので、いつ自分のところに事情聴取が来るかとヒヤヒヤしていた。結果・・・全く来なかった。まぁ、建物内にいたから何の目撃も出来ませんでしたがね・・・でも、近くで殺人事件が起こっていただなんて信じられないほどでした。

 映画は、事実を基にした新しいスタイルであるドラマドキュメンタリー(そんな言葉ある?)。とにかく本人役で出演している西村虎男さんの眼孔の深さだとか、70歳くらいの彼の皺から滲み出る経験値。金沢弁丸出しのひと言ひと言に重みがあった。また、警察用語の「帳場」だとか、調査方針などの詳細は興味深かった。

 東京の女子大生・梶かや子が生きた化石メタセコイアに興味を持ち、卒論のテーマに選び、研究のため金沢を訪れる。あるおでん屋でとら男と出会い、未解決事件に興味を持つ・・・といったドラマ仕立て。そこで西村虎男の実家に帳場を立て、市内の人たちにインタビューを始めるのだ。いわば時効警察?

 最初宿泊していたのがホテルシャンテ。それってラブホでは?などと、懐かしくもあり、そこから金沢へと向かうだが、メタセコイア並木道があるのは金沢市太陽が丘。『冬のソナタ』の有名スポットそっくりになるので、秋にはソレ目的で訪れる人も多い。何だか金沢観光映画のようでもあるけど、観光スポットは特に出てこなかった。スーパーのひまわりチェーンが結構雰囲気良かったなぁ。

 犯人の目星はついている!などと、真相に迫るような描写もありましたが、結局は警察組織の矛盾もあり、担当を外されたとら男が嘆くように呟く。その点で、実際の元刑事(?)の言葉で「真犯人は自責の念にかられながら一生を終えるがよい」と言ったことも印象に残る。犯人はまだのうのうと生きている!殺人罪の時効は迎えたが、刑事の執念、そして虚しさを感じざるを得ない。そんな映画でした。

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kossy

5.0映画史に残る試み

2022年9月12日
Androidアプリから投稿

2022年劇場鑑賞209本目。
クリント・イーストウッド監督の「15時17分、パリ行き」は事件に遭遇した人たちが本人役を演じて当時の事件を再現する、という実験的な作品でした。しかし、これはあくまで自分たちが経験したことをなぞるだけなので素人でもそれなりの演技ができていたと思います。
しかし、この「とら男」という映画は金沢スイミングスクールコーチ殺人事件という実際の未解決事件をその時捜査していた元刑事を東京から来た女子大生と再捜査する、という「設定」で主演にした、前代未聞の映画です。
自分が生粋の金沢生まれ金沢育ちということで事件が単純に気になったことと、演技素人の刑事がどんな演技するのか興味本位で観に行きました。
いやぁ、すごいですね、とら男さん。台詞回しもちゃんと棒読みではないですし、ちゃんと表情の演技もばっちりです。特に女子大生と会った最初は優しい目をしていたのに、初めて事件の事について再始動するぞ、という時急に目つきが変わる所とかプロ顔負けだと思いました。

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ガゾーサ

4.030年前の未解決殺人事件を追う映画に当時の担当刑事が主演し、当時近所に住んでいた少年が監督した異端作...  "調べても意味が無い"に抗い続ける映画

2022年8月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 今から30年前に発生し、2007年に公訴時効が成立した実在の未解決事件である金沢・女性スイミングコーチ殺人事件を題材に、なんと非俳優の当時の担当刑事が主演し、事件現状近くで幼少期を過ごした監督が撮り上げたセミドキュメンタリーという異端作…。
 その根底に警察組織の縦割り社会と無謬性への強い抗議があるため、警察内部での物語とは成り得ず、一人の女子大生の卒論研究という体裁を取ってはいますが、それゆえに単なる内部告発ではなく、周縁に忌避されて忘れ去られた事物に敢えて踏み込むことへの倫理を問う作品にもなっていると感じました。
 一人の誠実で愚直とも言える熱意を持った元警察官の生き様が彼の険しい表情に現れており、それが映像ディレクター出身の監督の示した画角で有無を言わせぬ圧力になっていたように思います。
 事件のルポとしては些か中途半端だったかもしれませんが、間違いなく執念は感じられる作品でした。

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O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)