淵に立つのレビュー・感想・評価
全105件中、1~20件目を表示
家族という名の迷宮からの脱出
世界共通かは知らないが、家族というのは仲良く助け合う、愛と慈しみに溢れた状態が理想とされている。自分自身の経験からも、家族は呪われた呪縛のようでもあるが、同時に心が安らいだり支えてくれたりするものだと思ってきた。
が、『淵に立つ』が提示するのは、そんな常識が通用しない家族の姿だ。家族同士が憎み合ったり崩壊したりする話も世の中にゴマンとあるが、そのどれとも似ていない。なぜなら、そもそも家族はこうあるべきという概念が、この映画にはサッパリ感じられないのだ。
家族という形態に向けた不信感のようなものは、深田監督の多くの作品に共通しているが、常識的な倫理観をハナから受け付けないこの映画は、とても「自由」だし刺激的だ。
普通に共感しづらい物語やキャラクターを、みごとに演じてみせた役者陣も素晴らしいし、ちゃんと自分のビジョンを貫き通した深田監督の作家性にも拍手をおくりたい。
対立する概念が混然とよどむ淵に私たちは立っている
説明過多になりがちな日本の商業映画のなかにあって、台詞や表情の控え目なニュアンスで、過去の出来事や人間関係の情報を小出しにする深田晃司監督(脚本も兼ねる)の姿勢が好ましい。観客のリテラシーへの信頼が伝わるからだ。
罪の贖い。過去からの復讐。過ちと罰。宗教観にもかかわる深遠なテーマを、淡々と提示していく。わかりやすい答えを出そうとはしない。宗教だけに限定される話ではなく、“人の業”を考えさせる切実な内容だ。
浅野忠信の浮き世離れした存在感がはまっているのは、近作の「岸辺の旅」などと同様。彼がまとう服の色(白黒から赤へ)の象徴性も、シンプルだが効果的だ。
映像表現の点では、ゆっくりのズームインと音響の繊細な制御が連動した印象的なショットがいくつか。
生と死、加害者と被害者、罪と罰、破滅と再生。一見対立しそうなものたちが混然とよどむ淵に、いまも私たちが立っていることを教えてくれる。
告白と秘密
深田晃司監督作品。何たる傑作。なぜ今までみてなかったのか。
夫と妻と娘のどこにでもいるような家族。夫と妻の仲が冷え切っているのもよくあることだが、それなりにうまくはやっている。ピアノの旋律のように。しかし夫の昔ながらの友人らしき八坂がきてから一転、美しい旋律にノイズが混じるように、崩れる。その崩れ方がどんどん嫌な方向にいってしまうのがつらい。でも間違いなく傑作だ。
物語の構造が完璧で美しい。
本作は「どのように罪を赦せるか」がひとつのテーマになっている。このようなキリスト教的テーマがあることは、作中の母娘の信仰の描写からも窺える。さらにこのテーマを語る上で、「告白」は重要な要素だろう。そしてその対になる「秘密」の概念を夫妻の対置で語っているのだ。
妻の章江は「告白」の人だ。彼女に対峙する人は告白を余儀なくされる。八坂は章江に自らの過去である殺人を犯して収監されたことを告白するし、八坂の息子の孝司もまた父との関係を告白する。この告白は、八坂の場合、不倫に転じて後に娘への暴力へと発展してしまうし、孝司の場合は、罪のフラッシュバックと関係性の破綻に繋がってしまう。告白は赦しにはならないのだ。
かといって夫に属する「秘密」もまた罪なのだ。夫は八坂との関係を妻に秘密にする。孝治の出自についても秘密にしようとする。しかしその秘密は告白によって、秘密のままではなくなり、誰かを救うことにはならない。
このように「告白」も「秘密」も赦しにはならない。夫と妻が対峙し、本音を語るとき、双方が秘密を告白しようとも離婚という破綻につながってしまうのだから悲壮だ。
八坂に暴力を振るわれ、障害をもって生き延びてしまった娘、という名の皆の原罪。彼らは罪から解放されることなく、背負って生きなければならないのがあまりに悲痛だ。
八坂は物語で二度と現れない。関係なく罰を受けた娘の障害が治ることもされない。夫婦関係も良好にならない。孝司も赦せない。あるのは母娘の投身自殺だけであり、横たわることしかできない。
4人が横たわるとき、かつての家族の写真とリフレインされている。あの写真は家族であることを告白すると共に〈声〉を消され秘密を抱えたイメージだ。
彼らがこれからも家族であるために、それには告白と秘密の調律が必要だろう。そして4人が美しい旋律を奏でることを祈ることしかできない。そこに赦しがなくても。
蟻地獄に嵌っていく恐怖
紛れもない名作。
"普通"の人たちがそれでも前に進もうとして、自ら不幸に突き進んでいく恐怖。そっちにだけは転んで欲しくないその方向に、物語はどこまでも転び続ける。
進行は淡々としているが無駄がなく、感情描写も端的かつ的確。観ているだけで息が詰まっていく。
視聴後、しばらく茫然自失、動けませんでした。
浅野忠信の演技が……
ある男が刑務所を出所後 友人の家族と同居を始めた。彼は真摯に自分の罪と向き合う誠実な人間と思われたが ふと見せたもう一人の人格……。
この男が主人公の家族と生活を共にし始めたという設定も相まって いやぁ〜〜…怖いのなんの…。
洋画にもよくありがちな設定だけど 浅野忠信の演技と言い 顔といい 正に適役だったと思う。この役を他の人がやると誰が適役かな?と考えたら 極楽とんぼ加藤浩次が雰囲気ピッタリかな…と思ってしまった。古舘寛治も適役でとてもよかった。彼の他の出演作品も追いかけてみたくなった。
因果はめぐる
浅野忠信扮する八坂草太郎は、出所後 知り合いの鉄工所で住み込みで働きながら家族の中に入り込んだ。八坂は、娘のオルガンを教えたり奥さんのプロテスタント信仰に入り込んだして友人家族の信頼感を得ていたが、殺人を犯した事を告白したものの友人の妻と浮気したり急に態度が横柄になり娘に重傷を負わせ八坂は消えた。
因果はめぐると言うか、悪い事は出来ないと言うか不思議な縁があるものだね。余りいい気持ちで観られるものではなかったな。夫婦間の秘密は程度問題だね。
秘密が交差する負の連鎖
はじまりから不気味さマックスで
物語が進むにつれて得体の知れなさ
が増していく。
浅野忠信のすごみとストーリーの
重さがマッチしてよい。
事実を知ったときののみこめない
感情がリアリティがある。
秘密にしているからこじれていく。
時すでに遅し。
どこで間違ったのだろう。
かといって秘密を明かしたら
解決するものでもない。
なら知らないほうが幸せか。
長さにビビりながら見てみた本気のしるし劇場版が、 地方局の深夜ドラ...
長さにビビりながら見てみた本気のしるし劇場版が、
地方局の深夜ドラマ発という事情もあってか低予算が見える絵作りながらそれを忘れさせる傑作で、
全く興味がなかったふか深田監督の本作も試しに見てみた。
結果、さすが海外でも評価されているだけのことはあり、説明を省いたスジの流れに引き込まれた。
確かに現実社会で出くわす物事や相手のリアクションがこちらの想像と異なっていて面喰らうことや、
結局何が原因で何が起きたのかわからないことも、珍しいことでは無い。
(映画やドラマだと伏線回収がもてはやされるし、自分も大好物なんですがね)
役者も浅野忠信も筒井真理子(後半、ワザと体型崩した?)はもちろん全員が適切な存在感。
結論として、深田監督の作品を追いかけてみることになりました。
起こる出来事は結構きつい内容なのに、 どこかこじんまりとしていて...
起こる出来事は結構きつい内容なのに、
どこかこじんまりとしていて地味な映画。
シーンのひとつひとつもまさに頭と尻尾はくれてやるぐらいの感じで、
もっと後から入ってもよかったのでは?と思える冒頭部分に、
もうこの辺で切って次に行ってもいいのでは?と思える結部分が多用されている。
もちろん故意の手法ではあるのだろうけれど、
どうにもこの映画においてはもっと長く精神を傷めろみたいな悪意のようにしか感じない。
何も感じない人からすれば、ただの間延びした感じにイライラするだけだろう。
ストーリー的には何があったかは綿密には語られないが、
おおよそこういう事なんだろうというのが中盤ぐらいで大体解ってしまうし、
だからこそまだ何かあるのかなと思っていたら何もなく終わっていった。
語られない物事を綿密に描写する必要はないと思うが、
もうひとつやふたつ何か絡まった事情があれば良かったかもしれない。
結局一人の人物の自業自得が全てなので、あまり感情移入も出来なかった。
筒井真理子さん
全体的に暗い、静か、怖い。
邦画が好きで色々観ているけれど、また救いのない映画を観てしまった。
どう考えてもハッピーエンドにはならなかった。
筒井真理子さんの変わりよう、事件前の色っぽい姿から、介護疲れを全面に出したおばさん体型。女優さんって凄い。太っても憂いのある顔立ち、雰囲気が素敵。
それぞれに俳優さんが他に代わりの人はいないんじゃないかと思えました。
古館さんは地元ローカルCMでは随分前から有名な方です。
たいがくんがまだ初々しい感じ。かわいい。
『ゆれる』にも近いような気もします。
余韻か、結末からの逃避か
余韻か、結末からの逃避か。
前者なら高評価だろうが、私は後者と見た。
タイプキャストを微妙に避ける役者の好演(太賀と筒井が儲け役)と痛切な物語だからこそ、作り手にはその勇気を求める。
年テン中位。
えぐいなあ
主演級の方々の演技は見事。特に8年後のアキエのキャラクター描写はすごかった。
ただ、話に救いが無さすぎる。
善と悪の淵、正気と狂気の淵、建前と本音の淵、
捉えようによってぼくらは常に何かの境界線にいるようなもので、
だからこそ自分の選択であるとか、境遇であるとか
そういう過ぎてしまった事の積み重ねとしての”今”を大切にしようとは思った。
ただもう1回言うけど、はじめから終わりまで話が暗すぎるって。
もうちょっと救いを提示しないと。
これだと悲観的なメッセージしか表現できてないんじゃないかな。
セリフをそぎ落とした、カットの間もいい
一人娘をもつ平穏な家族の中に、ムショ帰りのひとりの男が住み始めて、痛ましい傷跡を残して去っていき、その後の家族の成り行きを描く。
多くを語らないセリフ、映像の間、画角いずれも意図を感じられて、引き込まれる。
浅野忠信、筒井真理子といった俳優の演技も卓越しているけれど、その演技も含めて、不気味なひとつの世界観に統一されているところが監督の手腕を感じる。
映る家族
家族を描く日本映画は沢山ある
この映画は前半と後半で全く同じだが、全く違う家族が描かれる。
前半で映る写真を撮る3人の家族と1人の男は、ラストで全く違うものにみえる。
淵に立つ崖っぷちの家族はこれからも変わり続けるのである。
映画を見終わった後も話は続いていく、映る物の面白さや怖さ、それが自分の人生にも関連しているように感じさせる映画だと感じた。
シーツのシーンはどのホラー映画よりも怖さが残る。
全105件中、1~20件目を表示