劇場公開日 2015年4月10日

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「バードマン ライジング」バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5バードマン ライジング

2015年9月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

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20年振りとなるシリーズ最新第4弾!
ヒーローを退いていたバードマン。襲いかかる危機、苦悩や葛藤を乗り越え、再び羽ばたく事が出来るか…!?
「バードマン ライジング」、乞うご期待!

…って冗談はさておき(笑)、
本年度アカデミー賞作品賞受賞作。
かつてスーパーヒーロー映画で一斉風靡したものの、今は落ちぶれた俳優が、舞台で再起を図ろうとするが…。

先日「6才のボクが、大人になるまで。」も見、どちらがオスカーを受賞すべきだったかマイ・ジャッジはまた後にするとして、まず感想。

よくこの作品がオスカーを獲ったなぁ、と。
ハリウッド批判、舞台の皮肉、こうはなりたくない俳優の顛末…。実名もちらほら。
アカデミー賞というのは、言ってみれば、保守的な内輪誉め。
良く描けば良く描くほど好意的に受け入れられ、そうじゃないものは冷遇されるケースが多い。
この「バードマン」は同業者から見れば、胸にチクチク、冷や汗タラリのオンパレードなのに、こんなに評価されたという事は、誰もが本音はそう思っているからなのだろう。
公に声を出して言ったら、ハリウッドで仕事が無くなってしまう。
満面の“偽善”笑顔のチキン連中の変わりに、メキシコ人監督が代弁。
ただ、ハリウッド業界人とこのメキシコ人監督の感性はちょっと違う気がした。
確かに外国人の立場から見たハリウッドのヘンな所、可笑しい所をブラックな笑いをこめて描いているが、死に物狂いの俳優のあがきを、愛情こめて活写している。
どんな駄作でも、俳優は真剣なんだよ…と、言ってるような、言ってないような。

舞台裏狂騒曲。
また返り咲く為にどうしてもこの舞台を成功させたい一心の主演俳優。
その焦燥を嘲笑うかのように、恋人は妊娠を告げるわ、共演女優は面倒臭いわ、プロデューサーはうるさいわ、共演俳優はワガママで娘とイチャつくわ、評論家のババアは偉そうにムカつくわ…。
とある訳でパンツ一枚で街中を歩く事になったのに、落ち目の役者が遂に迷走したかとメディアであれこれ面白可笑しく騒ぎ立て…。
あぁ~~~ッ!!と大声上げたくなる。
一番の悩みのタネは、もう一人の自分、バードマンが話しかけてくる。
映画人にとって昔の作品とずっと比べられるほどイヤなものはないが(特に宮崎駿は気の毒)、昔の“影”がずっとまとわりつくのも悪夢。
バードマンは自分を翻弄させようとしているのか、それとも自分の心の底の本音なのか。
意味深な象徴。

エゴ、悲哀、狂気…。
「博士と彼女のセオリー」のエディ・レッドメインも素晴らしかったが、主演男優賞はやはりマイケル・キートンに獲って欲しかった。
自身もスーパーヒーローであったから体現出来る、納得と説得力のある入魂の演技。
天才型だけど扱い難い、本当に居そうなエドワード・ノートンのはっちゃけ演技。
エマ・ストーンも若手実力派の本領発揮。ただ可愛いだけじゃない!
それにしても、“コウモリ男”“緑の巨人”“クモ男の恋人”…このキャスティングはただの偶然か、狙ったのか。
ナオミ・ワッツも出番は少ないながら見せ場があり、これまでの出演作で一番のトラブルメーカーだったザック・ガリフィアナキスが一番まともに見える!(笑)

名カメラマン、エマニュエル・ルベツキーによる全編長回しのような映像は圧巻。
そう見違えさせる巧みな編集も秀逸。
主人公の心情とリンクするドラム音楽も耳に響く。

現実と幻想が時折交錯する不思議な世界観。
冒頭とラスト辺りの動物の死骸のシーンは何の意図か分からなかったりしたものの、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが初の非シリアス作品でユニークな手腕を存分に見せ付ける。

スターじゃなく、役者でいたい。
生存と競争激しいハリウッドで、誰もが思ってる事で、分からなくもない。
殊更、今スーパーヒーローを演じているスターはそう思っているのだろうが、すると何だか複雑…。
彼らの姿にワクワクし、憧れているファンは数え切れないくらい多い。
スーパーヒーローだろうと演技力を発揮出来る役柄だろうと、その演者の一部で財産なのだから。

もう一つおまけに…
先日、スピルバーグがスーパーヒーロー映画の近い終焉を語ったが、それは間違いなく来るだろう。
これからのハリウッドのスーパーヒーロー映画の更なる量産には驚きつつも、“今の”ハリウッドを純粋に楽しみたい。

さて、長くなってしまったが、最後にオスカー・マイジャッジ。
「バードマン」も大変ユニークな作品であったが、やはりオスカーは「6才のボクが、大人になるまで。」が受賞すべきだったと思う。
10年、20年と経った時、このユニークな作品か、唯一無二の作品か、果たしてどちらが心に残り続けているか。

近大