劇場公開日 2012年4月7日

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「なんで今さらだが、観れば新鮮に感じる」アーティスト マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5なんで今さらだが、観れば新鮮に感じる

2012年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

モノクロ&サイレント、そして擬似的だがスタンダード・サイズによるラブロマンスものだ。
1927年のハリウッドの映画産業が舞台で、ラスト近くの音楽では高域の歪みをサラウンドスピーカーから洩らすという凝りようだ。

なんで今さらモノクロ&サイレントなのだと思わないでもなかったが、こうして観てみると、台詞が聞こえない分、行間を読もうとして、いつもに増して映画に集中する。

1時間40分余りの上映時間、音無しでもストーリーも主人公の心情も理解でき飽きたりはしない。

ジャン・デュジャルダンはスクリーンで存在感があり、表情も豊かでいかにもサイレント時代のトップ俳優という容貌だ。
ベレニス・ベジョはどんどん綺麗になっていく。チャーム・ポイントにしたホクロはたしかに効いている。
犬のアギーの演技もよく、スパイスの効いた笑いを取る。
執事のクリフトンもいい。忠義心があって、老人なのに意外に力持ちだ。

こうして観ると、何でもかんでもストレートに見せてしまいたがる昨今の映画作りに疑問を感じる。もっと行間を読ませる工夫をしてほしいものだ。行間を読まなくなってしまった観客に媚びて、映画本来の面白さを作り手が置き去りにしてしまっている。

音声、色彩、視覚効果というのはあくまで補助であって映画の主幹ではない。本来、これらがなくても面白い映画を作らなければならないはずだ。そこに音声、色彩、視覚効果がプラスされて、リアリティを生む。
本作に映画会社の建物を輪切りにしたセットのシーンがある。階段を行き交うスタッフで映画産業の活気を表現し、そのなかを輝きながら階段を駆け上がるペピーと、気のない足取りで階段を降りるジョージを対比してみせる。このセットだけで映画産業の時代の変遷を1枚の画にした工夫が見える。
そこにはもはや字幕さえ不要だ。
やたらに台詞や語りが多くて状況説明過多なドラマだの、高度なVFXによる映像ばかりで話がちっとも面白くない活劇だのは、もういい加減うんざりだ。

なんで今さらモノクロ&サイレントなのだとケチをつけたところで、この作品が新鮮に感じることは確かだ。

ただ、これでもかと繰り返された予告篇の映像と、これみよがしの音楽にはいささか食傷気味ではあった。
また、「アカデミー賞獲りましたー」みたいなポスターも品がない。最初の飾り気のないポスターのほうが風格がある。
何事もやり過ぎはよくない。逆効果だ。

マスター@だんだん