劇場公開日 2011年10月29日

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ウィンターズ・ボーン : 映画評論・批評

2011年10月25日更新

2011年10月29日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

アメリカの苛酷極まりない貧困と格差、そして有り得べき未来のビジョン

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<アメリカの夢の崩壊>という形容すら甘やかに響くほど、アメリカの苛酷極まりない貧困と格差の現実に真率に向き合った秀作だ。全篇、ほとんど光が射さない鉛色の淀んだ空と森、荒涼たる景観が支配する中西部ミズーリ州の山岳地帯が舞台である。

17歳のヒロイン、リー(ジェニファー・ローレンス)は、逮捕されたドラッグ・ディーラーの父親が自宅と土地を保釈金の担保にして失踪し、廃人同様となった母親を抱え、幼い兄弟を世話している。1週間で家を没収されるために、リーの父親探しが始まるが、それは彼女にとって酸鼻な地獄めぐりであり、真の自立を問われるイニシエーションでもある。

次第に、父親は、この麻薬に汚染された地域共同体の掟を破ったことが明かされる。この集落では男たちの存在はあまりに希薄で、母系社会のように女同士の紐帯が強固であり、禁忌に触れたリーを容赦なくリンチするのも女たちだ。通過儀礼の終わりでリーが遭遇する目をおおいたくなるような残酷な試練も、彼女たちが準備したものなのである。

当初、経済的に行き詰まり苦境にあえぐアメリカのミニマルな写し絵にも見えた映画は、徐々に神話的な様相を帯びてくる。なかでも、まだ表情にあどけなさを残すジェニファー・ローレンスが、満身創痍で必死に家族を守ろうとする<小さな母親>を演じて感動的である。彼女の鋭い眼差しに宿るタフさ、ふてぶてしさに、女流監督デブラ・グラニクは、アメリカの有り得べき未来のビジョンを託しているのかもしれない。

高崎俊夫

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