モンドヴィーノ

劇場公開日:

解説

自身ソムリエとしてワインに携わった経験を持つジョナサン・ノシター監督による、ワインにまつわる人間たちを描くドキュメンタリー。ワイン・コンサルタントのミシェル・ロランをはじめ、ワイン業界の様々な人材が登場。本国フランスで物議をかもし、大ヒットとなった。

2004年製作/136分/フランス・アメリカ合作
原題:Mondovino
配給:シネカノン、クロックワークス
劇場公開日:2005年10月29日

ストーリー

ブドウの樹の声を聞き、お天道様の様子を見ながらやがて迎える収穫と仕込み。土地風土(テロワール)に根ざした昔ながらのワイン造りに、今異変が起こっている。多くのワイナリーが採算ぎりぎりで経営している中、“売れるワインの作り方を教える”救世主として現われたのが、ワイン・コンサルタントのミシェル・ロランだ。南仏ラングドック地方で高級ワインの「ドマ・ガサック」を作って成功したエメ・ギベールは言う「ワインは死んだ」と。「偉大なワインを造るのは詩人の仕事だ。それが今じゃ醸造家にとって変わられた。ミシェル・ロランのようにね」。そのロランとはコインの裏表のような関係になる人物が、カリスマワイン評論家ロバート・パーカーだ。世界中のワインを100点満点法でスコアリングし、その結果が世界のワインビジネスに与える影響は、計り知れない。ワイナリーの人々はパーカーから良い点数をもらおうと、ミシェル・ロランをコンサルタントに雇う。ロランなら、色が濃く、凝縮味にあふれ、タンニンが柔らかくスムースといったパーカー好みのワインをいとも簡単に造ってしまうからだ。ミシェル・ロランとロバート・パーカーのコンビが、“テロワールを覆い隠すグローバルテイスト”のワインを世界中にまん延させている、という批判に対して、パーカーは答える。「パーカーの遺産といえるものがあるとすれば、カーストのような階級制度を、試飲という民主的な方法で打ち壊したこと。革命的さ」。また、アメリカの巨大資本をバックに、世界中で付加価値の高いワインを造ろうとするモンダヴィ一族。フランスのブルゴーニュ地方で代々続くドメーヌの、新しい世代の葛藤。対立するフェレンツェの貴族が、1つのエステートをめぐって繰り広げた買収劇の顛末。ミシェル・ロランによって世界的な認知を得たアルゼンチンのワイナリーの喜び。物語は3つの大陸を往来しつつ、ダイナミックに展開してゆく。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第57回 カンヌ国際映画祭(2004年)

出品

コンペティション部門
出品作品 ジョナサン・ノシター
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映画レビュー

5.0テロリストならぬ土地の農夫=「テロワリスト」の勃興と復権

2022年7月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ヴィラージュの小さなシャトーで、ほそぼそと村のためにワインを作っていた農夫・ドメーヌたち。

「フランスとアメリカとイタリアの業界三羽ガラスが画策するワイン・グローバル・マーケティングの暴風に晒されて、すべてのワインがナパ化」、
うーんなるほど。

巨大資本は聞き馴染みのない田舎の小さな醸造所をしらみつぶしに探して回り、素朴な醸造所に製法からラベルのデザインからすべてを指導・レクチャー。
あれは”隠れ宿“を暴いて回り、稀少価値を宣伝文句にしてさらに売りさばく戦略なのだ。

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昔、NHKの朝ドラで、信州諏訪の味噌蔵の若女将の話があった。
「かりん」だ。
地元なので面白く観ていたが、ライバル会社が速醸みそで大儲けをする様子を尻目に、地道に貯蔵味噌にこだわった細川直美のお話だった。

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欧米でも状況は一緒らしいね、
そうやって《時間がない現代人のために》、
・原料から製品にあっと言う間。
・寝かせるワインではなくすぐに飲める速醸ワイン。
・注文すれば即時配達が求められて、元締めとブドウ農家はスーパーマーケットの酒売場に大ロットで納入をするわけだ。

どうりで、あの仕切り屋ロランが盛んに「酸素の微泡を吹き込め」と言っていたのは”ワインの新酒を無理やり酸化させて年代物風の味にする“ためだったのだ。

見どころは多い、
宣伝のためだからとパーカーの採点にすり寄る業界と、
祖国イタリアの誇りを見失った富豪の公爵家の、プライドもへったくれもない割り切り方に、あれは心底悲しくなる。

そしてフランスワインを育てたのは自分たちだと自負するイギリス人が、クリスティーズのワイン部門責任者として、アメリカ人ロバート・パーカーをチクリと皮肉って、パーカーを見下げる言葉のなんとも辛辣なこと!

ナチスやムッソリーニに忖度したワイン業界へのインタビューも、(ロートシルドの妻の強制収容所での死を含めて)、固唾を呑まずにいられない。
取材をする監督の迫り方はなかなかのものだ。

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僕はワイナリーに勤めていたので、以来たくさんのワインを楽しんできたし、そのワインを産み出した風土や作り手への興味はずっと持ってきたつもりだ。

ワインを取り巻く巨大市場を扱うドキュメント映画はいくつも存在しているが、土地の人間の困惑とジレンマを大切に汲み取ろうとした本作は出色だと思う。

ワインはお百姓が作った農産物なのだ。
お百姓は下請けではない。
お百姓の顔をスクリーンは丹念にたどる。

あのクソ頑固なおやじユベールと、おやじそっくりな偏屈娘が醸したワイン、飲んでみたいではないか。
でも、手に入らないのであれば、それを受け入れて我慢をすべきなのも我々であるべきなのではないか?

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エンディング、
黄金色のブドウ畑と青い海が目にしみる。
サルディーニャ島の農夫バティスタ・コルンブが、狂奔するワイン業界に向かって静かに教え諭すあの言葉、
やはりあれを記しておかなければなぁ

【プロローグから】
『ブドウ畑を続けていくのはとても難しい
金持ちならうまくいくというわけじゃない
貧乏人だって立派にやっていけるよ
この辺は昔 どこも狭い土地で誰もが畑を耕してた
みんなブドウ畑だったんだ』

『今の人は怠け者になったし消費生活というものに呑み込まれてしまった
自分のアイデンティティを見失ってしまい 自分の故郷がどこか どこへ行くのかもわからず傷つけあっている
動物と同じレベルに落ちてしまった』

『人間は威厳を失ったよ』

【エピローグから】
『我々には胸を張って生きてきた誇りがある
千年の歴史がある
サルディーニャは古くから栄えた文化がある
我々は誇りを持って生きてきたのに
なぜ今 誇りが持てなくなった?』

『なぜなら現代の人間は進歩という幽霊に惑わされているからだ
幽霊から人間を守らなければ
自然を守らなければ
そして他人を苦しめないようにしなければ』

『私達はこの土地で静かに暮らしてきた
島にはまだ十分に土地はあるよ』

・・哲人のこの言葉に、妻の美しい微笑みが西日に照らされて、夫に寄り添って首肯する。
お前さんたちもここに来て土を耕そうよと、彼バティスタは、本作の登場人物たちを、そして人間たちすべてを誘っている。

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きりん

3.0お口クチュクチュ、モンダヴィ

2021年1月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 年商5億ドルのモンダヴィ社。品質を高めるための味見は当然!「クチュクチュ、ぺっ!」と吐き出す映像を見てたら、「お口クチュクチュ、モンダヴィ」と歌いたくなった・・・

 序盤はちょっとしたサスペンス仕立て。「モンダヴィ事件とは何なのですか?」とインタビュワーが次々と人に尋ねる様子でどんどん引きこまれていく。フランスのアニアーヌ地方において、アメリカのモンダヴィ社がワイナリーを子会社化しようとしたこと。村長が中心に大企業参入を阻止した事実を愉快そうに語られていき、ワインビジネス界におけるファシストだと皮肉ってるところは面白かったです。とにかく、なんでもかんでもグローバリゼーションなんてやってはいけないんですね。そうやって考えると、ホリエモンもIT界のファシストなんだなぁ~と、頭の中に3畳の独居房映像が思い浮かぶ・・・

 このモンドヴィ事件を第一のテーマとして進み、次は1980年代から登場したロバート・パーカーが中心。ワイン評論家の登場だ。彼のつける点数のおかげで、業者の方針も左右され、売れるか売れないかも決まってしまうほど影響力のあるもの。「美味しんぼ」に出てくる父ちゃんみたいなものです。

 日本においてもボジョレー・ヌーボーの話題や、自宅にワインセラーを作ったセレブの登場、赤ワインの健康ブームなどもバブル経済期あたりからワインブームが起こったように思う。だけど、このドキュメンタリー映画を観ると、同じ畑で採れたブドウでも場所によって味が違うんだとわかるし、ワインの利き酒なんてかなり適当なものじゃないかと思ってしまいます。しかもアニアーヌの村のワインは世界に向けての出荷はされてないんだし、現地で飲むことしかできないシロモノなのです。

 やっぱりワインは楽しく味わうもの。吾郎ちゃんが演じた「ソムリエ」なんて、ウンチク豊富だったのでフランス料理店で飲みたくなったものです。このワインにはモンティーユ父娘の確執があるとか、フレスコバルディは700年の歴史があるけど大資本に負けちゃったとか、ヨーロッパをイメージしながら酔っ払ってみたい・・・

 男がパンツ一丁でブドウを踏み潰しているシーンもあったのですが、あの、はみ出してるんですけど・・・

【2006年2月映画館にて】

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kossy