さすらいの航海

劇場公開日:

解説

第2次大戦前夜、ドイツからユダヤ人を乗せた客船が第2の故郷をもとめて旅する姿を描く実話の映画化。製作はロバート・フライヤー、監督は「新・動く標的」のスチュアート・ローゼンバーグ、脚本はスティーブ・シェイガンとデイヴィッド・バトラー、原作はゴードン・トマスとマックス・モーガン・ウィッツのノンフィクション「絶望の航海」(早川書房刊)、撮影はビリー・ウィリアムス、音楽はラロ・シフリンが各々担当。出演はフェイ・ダナウェイ、オスカー・ヴェルナー、マックス・フォン・シドー、マルコム・マクドウェル、リン・フレデリック、リー・グラント、キャサリン・ロス、オーソン・ウェルズ、ベン・ギャザラ、ジェームズ・メイソン、ホセ・フェラー、フェルナンド・レイ、マリア・シェル、サム・ワナメーカーなど。

1976年製作/イギリス
原題:Voyage of the Damned
配給:日本ヘラルド映画
劇場公開日:1977年8月27日

ストーリー

1939年5月13日。ハンブルクよりドイツ客船SSセントルイス号が出港した。乗客はナチ・ドイツから逃れようとする937名のユダヤ人。彼らの胸には、脱出できる喜びと再び故国にもどれない悲しみとが交錯する。乗客の顔ぶれもさまざまだ。元弁護士カール(サム・ワナメーカー)と妻リリアン(リー・グラント)そして彼らの娘アンナ(リン・フレデリック)、ハバナから仕送りしてくれる娘の元へ行くハウザー夫人(マリア・シェル)、ドイツ名家出身のデニス(F・ダナウェイ)とベルリン大学教授の夫エーゴン(オスカー・ヴェルナー)等々。そんな乗客を複雑なおもいで静かに見守る船長はシュレーダー(マックス・フォン・シドー)だ。船旅は快調だったが、やはり暗い影はぬぐいきれなかった。そしてその頃、目的地ハバナでは、このユダヤ人達をめぐり、政治的かけひきが進行していた。キューバ大統領ブルー(フェルナンド・レイ)は、高まる反ユダヤ感情に上陸不許可の断を下そうとしていたし、そうなっては困るセントルイス号本社では、入国管理を一手に握る移民長官マヌエル(ホセ・フェラー)に根廻しをしている。ユダヤ人救済機関代表のモリス(ベン・ギャザラ)も、国務長官レモス(ジェームズ・メイソン)に協力を仰ぎつつも、乗客達の未来は暗かった。同じころ、大実業家ホセ(オーソン・ウェルズ)も乗客達を待つ男より個人的に彼らの上陸をたのまれている。5月27日、船はハバナ港に入港するが、上陸許可は出ない。乗客の不安はつのっていった。もし、ドイツに戻れば、彼らの行く先は強制収容所だ。恐怖にかられカールは自殺する。今回の航海は、ユダヤ人が全世界から嫌われているというナチの宣伝政策だったのだ。そんなある夜、娼婦ミーラ(キャサリン・ロス)は、馴染みの客の力を借りて船をたずねた。実はミーラこそハウザーの娘だったのだ。6月1日、ブルー大統領は船に出港命令を下した。乗客達が最終目的地としていたアメリカも受け入れてくれない。モリスは受け入れてくれる国を求めて奔走したが、どの国も難民で良い返事は得られなかった。船長付きスチュワートのマックス(M・マクドウェル)は、船がハンブルグに戻っていることを、乗客に知らせた。彼も実はユダヤ人だったのだ。そしてこの日、彼と愛し合うアンナは2人して自殺する。やり場のない乗客の怒りはやがて爆発した。彼らの苦悩をいたいほど理解している船長。船はイギリスのサセックス沖にさしかかろうとしていた。もし船を出火させ、イギリス海岸に無理矢理上陸させれば……、そんな思いの船長の元へ1通の電報が届いた。「オランダ、フランス、イギリスが入国を許可した。モリス」。かくて、乗客達はナチよりのがれることが出来たが、9月1日、ヒットラーはポーランド侵攻を命じ、第2次大戦の幕が切って落された--。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第1回 日本アカデミー賞(1978年)

ノミネート

外国作品賞  

第34回 ゴールデングローブ賞(1977年)

受賞

最優秀助演女優賞 キャサリン・ロス

ノミネート

最優秀作品賞(ドラマ)  
最優秀助演男優賞 オスカー・ウェルナー
最優秀助演女優賞 リー・グラント
最優秀脚本賞 デビッド・バトラー
最優秀作曲賞 ラロ・シフリン
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映画レビュー

4.0人としての良心に光明

2023年4月20日
Androidアプリから投稿

最初から分かっていたのでしょうね。ドイツ側としては。セントルイス号が(目的地のキューバだけでなく)各国で入港を拒否されるであろうことは。
本作の冒頭でも、セントルイス号の航海が、人道的なものであることを仮装していること、この航海が宣伝相の発案であることが語られています。
結局は「ユダヤ民族を受け入れる国は、世界のどこにもない。」というプロパガンダの一環だったと言うことでしょう。

人間は、やはり陸(おか)で生活する生き物であってみれば、海の上の船内での「漂流生活」が、いかに不自由で不安なものであるかは、推察するに余りがあります。
ちょうど、シュレーダー船長の机の上で飼われていた籠の小鳥のように。

それだからこそ一層、彼の英断は光るものと思われました。評論子には。
(シュレーダー船長の計画にしろ、万が一、億が一にも故意が疑われれば、帰国後の彼自身が国家反逆罪に問われかねない「危ない橋」であったことは明らかです。)

言い換えれば、ナチスというウイルスに冒されてしまった「国としてのドイツ」ではなく、ドイツ人であるシュレーダー船長という「人としてのドイツ」の良心に一縷の光明を見つけることができたのは、評論子だけではなかったことと思います。
そのことが、忌まわしいセントルイス号のこの航海について、一縷の光明だったのではないかと思いました。評論子は。

もちろん、佳作であったとことに、多言は要しないと思います。

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talkie

4.0海上難民

2022年9月16日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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kossy

5.0私達の優柔不断、ヒューマニズムの大切さの覚悟の無さが、21世紀のさすらいの航海をうみだすのだ

2020年6月9日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

第二次世界大戦の前夜、強大な経済力と軍事力を作り上げたナチスドイツにどこの国も表立って楯突こうとはしない
ユダヤ人達の運命がどうなろうと知った事ではない
気の毒とは思うが、ナチスドイツと事を構えたくはない
ユダヤ人達の為に戦争になってしまう危険は犯せない
キューバも、アメリカも、ベルギーも、イギリスもどの国も自国の方が大切なのだ
結局、さすらいの航海は解決する
しかしラストシーンのテロップで語られる結末はどうだ
結局、戦争は起こってしまうのだ
それを避ける為にさすらいの航海を引き起こし、一応解決させたものの、実のところ振り出しに戻り、なにも解決してなかったのだ

80年も昔の、日本とは遠い国の、ユダヤ人達の可哀想な物語?

そうだろうか?
チベットやウイグルの人々、香港の人々のことを私たち日本人も世界の人々も傍観している現状は本作と何も変わらない
さすらいの航海は今この瞬間
21世紀のそれも日本に近いところで現在進行形なのだ

中国の経済力、軍事力と事を構えることを恐れて逃げ回っているのだ
国内には、セントルイス号の乗組員になっているナチス情報部員のような人間もいて、中国への抗議をさせないようにしているメディアだってある

21世紀のナチスたる中国との対決が戦争にいたることを恐れるあまり、世界はヒューマニズムを忘れているのではないか?
それは中国の全体主義=21世紀のナチスにつけ込まれていることを見ないふりをしていることと同じだ
自己欺瞞なのだ
本作はそれを教えてくれる
この悲劇を私たちは繰り返そうとしているのだ
日本人もそれに手を貸しているのだ

コロナウイルス禍の中でも、さすらいの航海は実際にあった
2月ダイヤモンドプリンセス号という豪華客船が、各国の入港を断られた末に横浜に入港した
まるで本作のハバナ港での騒動のように、下船させるさせないで大揉めに揉めた末、検査と治療を進めて、最終的には日本は全員下船させたのだ
厄介払いせず責任をもって対応したのだ
かなりもたつきはしたが、ヒューマニズムを日本人は全うしたのだ
誇って良いと思う

コロナウイルスには立ち向かったのに、中国の軍事力には恐れて、日本は何も出来ないのだろうか
私達は他人事として傍観するのか
そもそもコロナウイルスだって、中国は隠していたのだ

私達の優柔不断、ヒューマニズムの大切さの覚悟の無さが、21世紀のさすらいの航海をうみだすのだ

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あき240

4.0第二次世界大戦悲話

2019年6月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ユダヤ人受難の秘話ではあるが、国家間の思惑で翻弄される一般人の話でもある。演出にもう少し旨みがあれば佳作になったのに惜しい。でも、キャサリン・ロスの健気さに泣かされるのとフェイの凛とした存在感とで点は甘くしてあります。マックス・フォン・シドーは流石。

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もーさん
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