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劇場公開日:2017年4月1日

解説・あらすじ

巨匠・黒澤明が構想10年・製作費26億円をかけて完成させたライフワーク的作品で、シェイクスピアの悲劇「リア王」をベースに毛利元就の「3本の矢」の故事などを取り入れながら、裏切りと憎しみの中で殺し合う人々の姿を壮大なスケールで活写した戦国時代劇。70歳を迎えた猛将・一文字秀虎は、家督を3人の息子に譲ることを決意する。息子たちの団結を信じきって自らは隠居を望む弱気な父に対し、3男の三郎は異を唱えるが、怒った父に追放されてしまう。しかし三郎の予想通り、兄の太郎と次郎は秀虎に反旗を翻し、血で血を洗う骨肉の争いが始まる。ワダ・エミが衣装を担当しアカデミー衣装デザイン賞を受賞。公開から30年を経た2015年に4Kデジタル修復版としてよみがえり、第28回東京国際映画祭「Japan Classics」部門で上映された後、17年4月より劇場公開。

1985年製作/162分/日本・フランス合作
配給:KADOKAWA
劇場公開日:2017年4月1日

その他の公開日:1985年6月1日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

スタッフ・キャスト

監督
黒澤明
脚本
黒澤明
小国英雄
井手雅人
エグゼクティブプロデューサー
古川勝巳
プロデューサー
セルジュ・シルベルマン
原正人
プロダクションコーディネーター
黒澤久雄
演出補佐
本多猪四郎
撮影
斎藤孝雄
上田正治
撮影協力
中井朝一
美術
村木与四郎
村木忍
照明
佐野武治
録音
矢野口文雄
吉田庄太郎
整音
安藤精八
効果
三縄一郎
衣装デザイナー
ワダエミ
編集
黒澤明
音楽
武満徹
指揮
岩城宏之
助監督
岡田文亮
ゼネラルプロダクションマネージャー
ウーリッヒ・ピカール
プロダクションマネージャー
野上照代
飯泉征吉
井関惺
アシスタントプロダクションコーディネーター
ベルナルド・コーン
狂言指導
野村万作
能作法指導
本田光洋
横笛演奏指導
鯉沼廣行
馬術指導
渡辺隆
殺陣
久世竜
久世浩
ホースチームマネージャー
宮本浩司
テクニカルアドバイザー
松尾民夫
題字
今井凌雪
スチール
原田大三郎
佐藤芳夫
視覚効果
中野稔
光学撮影
小野寺浩
宮重道久
全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第9回 日本アカデミー賞(1986年)

受賞

音楽賞 武満徹

ノミネート

助演男優賞 植木等

第58回 アカデミー賞(1986年)

受賞

衣装デザイン賞 ワダ・エミ

ノミネート

監督賞 黒澤明
撮影賞 斎藤孝雄 上田正治 中井朝一
美術賞  

第43回 ゴールデングローブ賞(1986年)

ノミネート

最優秀外国語映画賞  
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(C)1985 KADOKAWA/STUDIO CANAL

映画レビュー

5.0 欲に溺れる人間の行く末と教訓劇

2025年9月24日
スマートフォンから投稿

男の機嫌はいい

順風満帆の人生だった。
ここから物語は始まる。

自ら築いた地位を息子達に譲るが
欲にまみれた次世代の思惑と終焉
シェイクスピアの「リア王」
土台はその戯曲にある。

第三者の立場

この映画で面白く感じたのは
「道化」ピエロの役である。
一番目立つのは秀虎の御付き
狂阿弥役のピーターがいる。
彼は派手に立ち回り親方にも意見を云う
親方の秀虎は時に戒め、時に受け入れる
そんなシーンが何度かある。
もうひとり、道化とまでは行かないが
三男の義理父・藤巻信弘役の植木等がいる。
隣国の領主藤巻は、強く出しゃばらず
優しい言葉の中に的確な意志を入れてくる。
真意は娘婿とその父を立てること、守ること。
そこに徹底している姿は見ていて気持ちがいい。

そして、次男の妻 楓の方・原田美枝子
この人の裏の顔には憎しみが潜んでいる。
人を操り撹乱させるのは、あの映画
「蜘蛛の巣城」の山田五十鈴と重なるが
やはり迫力は先輩の方が上と感じた。

シェイクスピアの戯曲は心の深部に触れる。

この映画、色々な見方があって良いと思う。
主役、子供達、ここに書いた第三者的な人物、
憎む者達、壮大なセット、衣装、構図の意図、
第三者・第四者・第五者たちの心情と死に様、
ラスト・シーンの彼は何を思っていたのか、
全てが虚無の出来事なのか…などなど、
たくさんある。

屋内での戯曲風の演出
オープンセットの演出
舞台劇としての鑑賞
黒澤明監督の見せ方
映画「乱」の創造

面白いと思う。

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星組

4.0 画の迫力にのめりこむ。…けれど、脚本にキレがない。

2025年9月20日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

興奮

驚く

『マクベス』の翻案として、未だに追従を許さない『蜘蛛巣城』。
 それに比べると、『乱』では台詞回しが『リア王』そのままでこなれていない。
 シェイクスピアは、掛詞や逆説的な台詞を駆使し、当時の世相・哲学を圧倒的な会話の量で畳み込む。だから、一見、『乱』も哲学的なことを言っているようだけれど…。

それでも、画の迫力はすごい。

『アラビアのロレンス(アカバへの奇襲)』を彷彿とさせる、騎馬隊の躍動感。
 アカバへの奇襲でも、ラクダから落ちた人が踏みつぶされないかと演者も鑑賞者である私もハラハラしたが、
 この映画でも、落馬した人の中に、馬に踏みつぶされる、蹴られる等で大怪我した人がいないのかと言う映像が目白押し。演じられたのは、スタントマンか、大部屋俳優か、エキストラか。よく引き受けたな。

城炎上。その中で演じられる仲代さん。
 『魔界転生』のクライマックスも迫力だが、この映画では飛んでくる火矢。『蜘蛛巣城』でも、演じる三船さんめがけて、本当に矢を放ったと聞くが、今度は火矢。なんたる役者の豪胆さ。仲代さんは、三船さんみたいに、怒りに任せて散弾銃を持って監督を襲撃したりしなかったんだろうか?

城炎上。台詞なし。音楽だけが流れる7分間。滅びへのレクイエム。演技だけで魅せてくれる。仲代さんの無念さ・狂気。
一発の銃声から、その映像で繰り広げられる音の乱射。わずなかな台詞。合戦のすさまじさ。

そのような、迫力ある画の反面、森の緑を背景にした、各兵士の色の美しさ。
 大殿・太郎・次郎・三郎、綾部・藤巻…。その兵。眼福。

色とりどりの花が咲き乱れる長閑で天国のような風景に、狂った大殿とその傍らから離れない道化師。妙味。

かたや、一面の鼠色と白い岩。荒涼としつつも地熱を帯びた舞台。
 地獄か、そこで会うのは仏か死神か。

とにかく、画に惹きつけられ、魅入ってしまう。

けれど、脚本にキレがない。
 『マクベス』の肝要なエッセンスを残して、後は、能の様式美をふんだんに取り入れて、日本の物語に昇華させた『蜘蛛巣城』に比べ、『乱』は『リア王』の台本をそのまま訳したか?と思ってしまう部分が散見される。

その一つ・狂阿彌。
 シェイクスピアに生きたエリザベス1世を始めとするヨーロッパの王家・貴族に使えていた宮廷道化師。シェイクスピアの劇によく登場する、役や物語の裏設定や本音を語って見せて、劇に重層的な広がりを見せる役目。深刻な劇のコメディーリリーフであり、バカげた展開の中で、正気を語る役。舞台で繰り広げられる主筋を、外から見ている観客の心の声ーにこちゃん動画のコメントのようなーそんな台詞を投げ込む役。
 ピーターさんは善戦。さすが上方舞の名取。若き野村氏の所作に比べるとふらついてはいるが、それでも狂言的な所作も魅入ってしまう。
 けれど、日本人に宮廷道化師はなじむのか?台詞があまりにもシェイクスピア的で、『リア王』の台本と比べたくなる。舞台なら、時に観客の方を向いて、主筋と観客をつなぐ役目もするし、緊迫した場面でのちょっとした息抜きにもなるが、この映画では、大殿のお世話係として、物語にどっぷりつかってしまうから、本当の意味での、道化師の役目となっていない。

そして、白けたのが、ラストシーンでの台詞。
 今回の上映についていた講師の話では、監督は「天の視点」を描きたかったと聞く。だからか、宗教的な”神”の代弁とでもいうべき台詞がそのまま何のひねりもなく語られる。
 エリザベス1世の頃はプロテスタント系と聞くがベースはキリスト教。唯一神を信奉し、神がすべての運命を決定する世界。ソドムとゴモラを消滅させた神。ノアの箱舟のエピソードの紙。『乱』ではその神を仏教に変えているが、そもそもの宗教の存在意義が違う。そこを精査せず、そのままスライドさせているだけ。台詞も練ることなく、ここもあまりにシェイクスピア的な言い回しなので、『リア王』の台本と比べたくなる。

能の世界観も中途半端。監修はつけているが。
 『蜘蛛巣城』における鷲津の妻・妖婆に匹敵するのは、楓の方。原田さん善戦しているが、山田さんが能面のような表情ですり足でスーッと動く、浪速さんの存在感に対して、原田さんは生々しくて動きが派手。その分、駆け引きの裏に人間らしい恨みが見え隠れして怨念が漂ってくるが、鷲津の妻や妖婆のような不気味さが無くなる。わざと演出を変えたのだろうか。
 そうすると、能の世界観はどこに?大殿の所作と、鶴丸の所作だけ?演者ではなく、もっと大きな舞台装置や兵たちのフォーメーション?

それでも、大殿と楓の方、狂阿彌、藤巻、鉄はまだその人格・生き様がその人らしかった。

他はどんな人物なのかぼんやり。
 太郎が楓の方の尻に敷かれている様、次郎の背伸びは見て取れるが、それ以外に人物像が全く見えない。物語のカギを握る人々だけに、物語に面白みが欠ける。三郎に至っては、藤巻が三郎のどこにほれ込んだのか理解不能なくらいに人物像が見えない。大殿に恐れずに反論するところ?大殿に直射日光が当たらないように木陰を作ってあげるところ?それだけで、追放された三郎を娘婿として迎え入れるのか?

そして最大の残念さは中盤のクライマックス後がやたらに長い。予告を見た時点では、これがクライマックスかと思ってしまった。
 川を渡っていく兵たちの躍動感、兵のフォーメーション、城が焼け落ちる様と画的には見どころがあるが、物語に緊迫感がない。
 武将や楓の方の謀議が長い。『蜘蛛巣城』で三木暗殺を幽霊姿で表現した圧縮した演出と演技に比べるともたつく。物語に勢いが無くなる。
 この映画の大殿は監督がご自身を投影されたものという話も読んだ。だから、大殿が地獄を彷徨っているような描写が必要に続くのか。こちらが本当に描きたかったところなのだろうか。
 『蜘蛛巣城』では、マクベス夫人の狂気を、たったワンシーンで表現した。山田さんの演技が光る。
 対して、『乱』でだって、大殿の狂気を、楓の方の無念と恨みを、ワンシーンで表現しきるだけの技量をもった方が演じているのにと、もったいなく思う。

つい、『蜘蛛巣城』のように、シェイクスピアのエッセンスを咀嚼して昇華した映画を期待してしまい、この映画への満足度が低くなる。

(講演会付き上映会にて鑑賞)

コメントする 1件)
共感した! 4件)
とみいじょん

4.5 風は吹いている

2025年8月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

興奮

知的

一大戦国絵巻スペクタル巨編といった感じでしょうか(なんのこつちゃ)黒澤作品の中でも最もお金がかかった壮大なスケール感です 愛と憎しみの群像劇ではあるが 戦国時代にはこのような肉親の間での戦いや殺しあいが実際にあったわけだよね
原田美枝子さん演じるかえで姫が最後に斬られるわけだけどやはり恨みは消えてはいなかったことがわかり恐ろしかった 殺したいほど憎んでいながら征服した側の家の正室となりそこで暮らしているわけで今の時代では考えられない
騎馬武者の数 火縄銃 甲冑など装備が一段とすごい ラストの戦闘のシーンはリアル
あとやはり黒澤監督の作品は風が吹いていた

コメントする (0件)
共感した! 1件)
Dr.レクター

5.0 神は愚かな人間を助けられない存在。

2025年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、DVD/BD、その他、試写会、映画館

泣ける

知的

驚く

黒澤監督は人間界を見下ろして神は悲しんでいる、それを描きたかったとおっしゃった。人間の罪は人が自ら贖う必要がある。神が助けたら人間は神の操り人形になってしまい強く成長することができないから、ということだ。秀虎は過去に城主を裏切りその家族を惨殺してのし上がってきた。その報いを受けるというのが『乱』の物語の本質だったのに、ほとんどの日本人がそれを読み取れずに作品を批判的に見た。リア王を知り、旧約聖書を読んだ事のある海外の観客はそこを理解したから『乱』のすばらしさに拍手を送った。完成から40年が過ぎた今こそ、日本人に観直してほしい映画だ。

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共感した! 1件)
姿三十郎