沢木耕太郎 : ウィキペディア(Wikipedia)
沢木 耕太郎(さわき こうたろう、1947年11月29日 - )は、日本のノンフィクション作家・エッセイスト・小説家・写真家。
人物
東京都大田区生まれ。東京都立南高等学校(当時)を経て、横浜国立大学経済学部卒業。大学時代のゼミの指導教官は、後に神奈川県知事となる長洲一二だった1999年6月27日付け日本経済新聞(文化欄)。
大学卒業後は富士銀行(当時)に入行するも、初出社の日に退社した。出社途中に信号待ちをしているときに退社を決めたという『路上の視野』所収のエッセイにこの記述がある。その後、ゼミの指導教官だった長洲から「何か書いてみないか」と誘われたのをきっかけに文筆活動を始める。
ルポライターとして1970年(昭和45年)、『防人のブルース』『地の漂流者たち』所収でデビューし、1979年(昭和54年)には演説中に刺殺された日本社会党委員長の浅沼稲次郎と、その犯人である少年の交錯を描いた『テロルの決算』で第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。以後、スポーツや旅などを題材にした多数のノンフィクション作品、小説、エッセーなどを発表している。
名前
「沢木耕太郎」はペンネームである。雑誌の取材を受け、「あなたの本名はあらゆる文献を見てもどこにも掲載されていない。なぜなのか」と問われた沢木は、「ペンネームを使う以上、わざわざ本名を名乗るのなら使う必要がない」と答えている「ノンフィクション作家の第一人者 沢木耕太郎の謎に満ちた"私生活"」『噂の眞相』 1996年3月号。実父の没後にその句集を出版した際にも、苗字をつけず「二郎」とファーストネームだけの名義を用いた。
エピソード
- 沢木はアメリカで起こった「ニュー・ジャーナリズム」の影響を受けているが、小説『一瞬の夏』この作品は、「クレイになれなかった男」(『敗れざる者たち』所収)の続編ともいえる(1981年)では、プロボクサーのカシアス内藤が2度目の東洋チャンピオンに挑戦する姿を、取材者であり同行者である「私」を絡めて克明に描き、自ら「私ノンフィクション」と呼ぶ方法論に挑んだ。
- テレビ番組『NHKスペシャル』には、自ら取材・構成を担当したうえで出演したことがある。
- 毎年12月24日の深夜に、FMラジオ局J-WAVEの番組『MIDNIGHT EXPRESS~天涯へ』にDJとして出演している。
- 乗っていたセスナ機がブラジルのジャングルで墜落し、九死に一生を得た体験をもつ詳細は『イルカと墜落』に収録。
- ノンフィクション作品集 『人の砂漠』では、所収作品のうち「鏡の調書」がドラマ化(NHK、1995年)されたほか、短編4編が学生らによって映画化された2010年(平成22年)、東京藝術大学大学院の学生らによる。
受賞歴
- 1979年 『テロルの決算』で第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞
- 1982年 『一瞬の夏』で第1回新田次郎文学賞を受賞
- 1985年 『バーボン・ストリート』で第1回講談社エッセイ賞を受賞
- 1993年 『深夜特急 第三便』で第2回JTB紀行文学賞を受賞
- 2003年 これまでの作家活動で第51回菊池寛賞を受賞
- 2006年 『凍』で第28回講談社ノンフィクション賞を受賞
- 2013年 『キャパの十字架』で第17回司馬遼太郎賞を受賞
- 2022年 『天路の旅人』で第74回読売文学賞を受賞
作品
- 『若き実力者たち 現代を疾走する12人』(文藝春秋) 1973年、のち文庫・改版
- 『敗れざる者たち』(文藝春秋) 1976年、のち文庫・改版
- 『人の砂漠』(新潮社) 1977年、のち文庫 - テレビドラマ化・映画化作品
- 『テロルの決算』(文藝春秋) 1978年、のち文庫・改版
- 『地の漂流者たち』(文春文庫) 1979年
- 『一瞬の夏』(新潮社) 1981年、のち文庫
- 『路上の視野』(文藝春秋) 1982年
- のち3分冊で文庫化『紙のライオン』『ペーパーナイフ』『地図を燃やす』 1987年
- 『バーボン・ストリート』(新潮社) 1984年、のち文庫
- 『深夜特急 第一便 黄金宮殿』(新潮社) 1986年、のち全6分冊で文庫化 - テレビドラマ化作品
- 『深夜特急 第二便 ペルシャの風』(新潮社) 1986年、のち文庫
- 『深夜特急 第三便 飛光よ、飛光よ』(新潮社) 1992年、のち文庫、各・改版2020年
- 『馬車は走る』(文藝春秋) 1986年、のち文庫
- 『王の闇』(文藝春秋) 1989年、のち文庫
- 『チェーン・スモーキング』(新潮社) 1990年、のち文庫
- 『彼らの流儀』(朝日新聞社) 1991年、のち新潮文庫
- 『象が空を 1982 - 1992』(文藝春秋) 1993年
- のち3分冊で文庫化『夕陽が眼にしみる』『不思議の果実』『勉強はそれからだ』 2000年
- 『檀』(新潮社) 1995年、のち文庫
- 『オリンピア~ナチスの森で』(集英社) 1998年、のち文庫、新潮文庫
- 『血の味』(新潮社) 2000年、のち文庫 - 純文学書き下ろし特別作品、初の長編小説
- 『世界は「使われなかった人生」であふれてる』(暮しの手帖社) 2001年、のち幻冬舎文庫
- 『イルカと墜落』(文藝春秋) 2002年、のち文庫
- 『シネマと書店とスタジアム』(新潮社) 2002年、のち文庫
- 「沢木耕太郎ノンフィクション」全9巻(文藝春秋) 2002年 - 2004年
- 『激しく倒れよ』
- 『有名であれ無名であれ』
- 『時の廃墟』
- 『オン・ザ・ボーダー』
- 『かつて白い海で戦った』
- 『男と女』
- 『1960』
- 『ミッドナイト・エクスプレス』
- 『酒杯を乾して』
- 『一号線を北上せよ』(講談社) 2003年、のち文庫
- 『無名』(幻冬舎) 2003年、のち文庫
- 『杯 WORLD CUP』(朝日新聞社) 2004年、のち新潮文庫
- 『冠 OLYMPIC GAMES』(朝日新聞社) 2004年、のち文庫
- 『冠(コロナ)〈廃墟の光〉 オリンピア1996』(新潮文庫) 2021年
- 『凍』(新潮社) 2005年、のち文庫
- 『危機の宰相』(魁星出版) 2006年、のち文春文庫
- 『「愛」という言葉を口にできなかった二人のために』(幻冬舎) 2007年、のち文庫
- 『246』(スイッチ・パブリッシング) 2007年、のち新潮文庫
- 『旅する力 - 深夜特急ノート』(新潮社) 2008年、のち文庫
- 『あなたがいる場所』(新潮社) 2011年、のち文庫
- 『ポーカー・フェース』(新潮社) 2011年、のち文庫
- 『キャパの十字架』(文藝春秋) 2013年、のち文庫
- 『流星ひとつ』(新潮社) 2013年、のち文庫 - 女優藤圭子を描く
- 『旅の窓』(幻冬舎) 2013年、のち文庫
- 『波の音が消えるまで』上・下(新潮社) 2014年、のち三分冊で文庫化 - 小説
- 『キャパへの追走』(文藝春秋) 2015年、のち文庫
- 『銀の街から』(朝日新聞出版) 2015年、のち文庫
- 『銀の森へ』(朝日新聞出版) 2015年、のち文庫
- 『春に散る』上・下(朝日新聞出版) 2017年、のち文庫 - 小説、映画化作品
- 『銀河を渡る 全エッセイ』(新潮社) 2018年
- のち2分冊で文庫化『キャラヴァンは進む』『いのちの記憶』 2025年
- 『作家との遭遇 全作家論』(新潮社) 2018年、のち文庫 - 19名の作家論
- 『旅のつばくろ』(新潮社) 2020年 - 国内旅エッセイ、JR東日本の車内誌「トランヴェール」に連載
- 『飛び立つ季節 - 旅のつばくろ』(新潮社) 2022年 - 『旅のつばくろ』の続編
- 『天路の旅人』(新潮社) 2022年 - 西川一三の評伝
- 『夢ノ町本通り』(新潮社) 2023年
- 朝日新聞の土曜別刷にて自身初の時代小説「暦のしずく」連載開始(2022年10月1日〜)
編集・共著
- 『目撃者 - 近藤紘一全軌跡 1971~1981』(文藝春秋) 1981年、のち文庫 1991年
- 『右か、左か 心に残る物語 - 日本文学秀作選』(文春文庫) 2010年
- 『山本周五郎名品館』全4巻(文春文庫) 2018年
- 『貧乏だけど贅沢』(文藝春秋) 1999年、のち文庫 2012年 - 10名との対談集
- 『月の少年』(浅野隆広絵、講談社) 2012年
- 『わるいことがしたい!』(ミスミヨシコ絵、講談社) 2012年
- 『いろはいろいろ』(和田誠絵、講談社) 2013年
- 『ホーキのララ』(貴納大輔絵、講談社) 2013年、各・児童出版
- 『沢木耕太郎 セッションズ』全4巻(岩波書店) 2020年
翻訳
- 『キャパ その青春』(リチャード・ウィーラン、文藝春秋) 1988年
- 『キャパ その死』(リチャード・ウィーラン、文藝春秋) 1988年
- 『キャパ その青春』、『キャパ その戦い』、『キャパ その死』(文春文庫) 2004年
- 『ロバート・キャパ写真集 フォトグラフス』(訳・解説、文藝春秋) 1988年
- 『カラ 孤独なハヤブサの物語』(J・F・ガーゾーン、新潮社) 1995年、のち文庫
- 『殺人者たちの午後』(トニー・パーカー、飛鳥新社) 2009年
写真集
- 『天涯』全3巻(スイッチパブリッシング) 1997年 - 2003年、のち全6冊で集英社文庫 2006年
- 『カシアス』(写真家内藤利朗との共著、スイッチ・パブリッシング) 2005年
放送メディアへの出演
テレビ番組
- NHKスペシャル(NHK総合)
- 沢木耕太郎 スポーツ・ドキュメント100メートル 〜極限への疾走〜
- 沢木耕太郎 スポーツ・ドキュメント奪還〜ジョージ・フォアマン 45歳の挑戦〜
- 沢木耕太郎 アマゾン思索紀行〜隔絶された人々 イゾラド〜
- 沢木耕太郎 推理ドキュメント 運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む〜
- ETVカルチャースペシャル フォトドキュメント 天涯へ 旅人 沢木耕太郎の世界(NHK教育)
- ETVスペシャル 沢木耕太郎 アマゾン思索紀行 〜森の奥 森の声〜シドニーポスエロとの対話〜(NHK教育)
- ゴロウ・デラックス(2019年3月29日、TBS)最終回の特別ゲストとして
- NHKクローズアップ現代 沢木耕太郎 自由を広げ、生きる(2023年1月10日 NHK総合)
ラジオ番組
- MIDNIGHT EXPRESS〜天涯へ(1997年から毎年12月25日(24日深夜)、J-WAVE)
- FMヨコハマ Sound Travelogue~沢木耕太郎、日本を旅する~(2016年4月~、FMヨコハマ)
映画
- 華 いのち 中川幸夫(2014年)- ドキュメンタリー映画
関連項目
- 円谷幸吉 - 敗れざる者たち
- 榎本喜八 - 敗れざる者たち
- 難波昭二郎 - 敗れざる者たち
- イシノヒカル - 敗れざる者たち
- カシアス内藤 - 敗れざる者たち、一瞬の夏
- E&Jカシアス・ボクシングジム
- 浅沼稲次郎 - テロルの決算
- エディ・タウンゼント - 一瞬の夏
- 輪島功一 - 敗れざる者たち、王の闇
- ジョー・フレージャー - 王の闇
- 檀一雄 - 「檀」と、『風浪の旅』山と渓谷社(「現代の旅」シリーズ) 1974
- レニ・リーフェンシュタール -「オリンピア〜ナチスの森で」
- ゲルダ・タロー - 評伝「ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯」に解説
- 山野井泰史 - 凍
- 藤圭子 - 流星ひとつ
- 此経啓助
- 黒田征太郎
- ボビー (1973年の映画)
- 磯崎新 - 沢木と親交があり、『深夜特急』にも登場する沢木耕太郎 『深夜特急 4 シルクロード』 新潮社文庫。
- 宮脇愛子 - 沢木と親交があり、『深夜特急』にも登場する。
- 調査情報
- 松田毅一 - 清泉女子大学教授時代に、非常勤講師として横浜国立大学でスペイン語の講義をおこない、沢木も授業を受けている沢木耕太郎、『旅する力 深夜特急ノート』新潮社。。
- 小田実 - 体験記『何でも見てやろう』
- 井上靖 - 『アレキサンダーの道 アジア古代遺跡の旅』(平山郁夫 画) 文藝春秋 1976.4 のち文庫
- 竹中労 - 東南アジアレポート
- エリアス・カネッティ - 『マラケシュの声 - ある旅のあとの断想』 岩田行一訳、1973、新装版2004
外部リンク
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