三宅唱監督&リティ・パン監督が語り合う 人の手触り、失われていくものを捉える“共通項”【第38回東京国際映画祭】
2025年11月1日 17:10

開催中の第38回東京国際映画祭と国際交流基金の共催企画「交流ラウンジ」が11月1日、LEXUS MEETS(東京ミッドタウン日比谷1F)で行われ、最新作「旅と日々」が第78回ロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞を受賞した三宅唱監督と、ロカルノ映画祭審査委員長を務めるリティ・パン監督によるセッションが実現。それぞれの作品に感じる魅力や、お互いの映画に込められた共通項について語り合った。
今年で6年目を迎えた交流ラウンジは、東京に集う映画人同士の交流の場となるべく企画されたもの。三宅監督の「旅と日々」は、つげ義春の短編漫画2作を原作に、行き詰まった脚本家の李(シム・ウンギョン)がひとり北国に旅立ち、旅先での出会いをきっかけに人生と向き合っていく姿を描くドラマ。ロカルノ国際映画祭で、日本映画では18年ぶりとなる最高賞の金豹賞を受賞しただけでなく、ヤング審査員賞特別賞ダブル受賞する快挙を果たした。

パン監督がロカルノ以来の再会を喜ぶと、三宅監督は「映画祭では、審査員として出されたコメント以上のことは聞けていない。オフィシャルではない言葉、パーソナルな言葉を聞けたらうれしい」と期待。受賞理由は「機密事項です」と笑ったパン監督は、「審査というのは簡単ではないものなので、私は審査員という立場はあまり好きではありません。でも今回は簡単に進みました。満場一致でした」とニッコリ。

パン監督は「旅と日々」に「圧倒された。力強い作品」と続け、「この映画では、人間の孤独を語っている。人間同士が求め合う姿や、自己探求もある。平凡なことが起きているように見えて、人間にとって重要な時間を過ごしている気がしました。観客が自分たちのことを考える機会になるような作品が、僕は好きなんです。また映画の中で職業が語られている映画も好き。今回の映画では、脚本家の仕事が描かれていました」と愛すべき理由を吐露。「それぞれの登場人物が光り輝いているようで、神の恩寵が降りてくるような瞬間がある。カメラをまわして、その光り輝く瞬間をキャッチするのが監督の仕事。編集、照明、演技、間。すばらしいものが凝縮されている」と賛辞を送ると、三宅監督は「僕だけ幸せな時間」と目尻を下げて会場も大笑い。「仕事をする人間というのは、僕も作る時だけではなく、映画を鑑賞する時に共通して見ているポイント。すごくうれしい言葉でした」と感激しきりだった。

一方、パン監督によるコンペティション作品「私たちは森の果実」は、カンボジア北東部の人里離れた山岳地帯で、先祖代々の伝統を守った暮らしを続けている先住民ブノン族の人々を数年間にわたって撮影したドキュメンタリー。三宅監督は「自分の亡くなった祖父の手を思い出した」と映画を通して、個人的な思い出を引き出されたという。「祖父は北海道の農家で長年、メロンを作っていて。時には炭鉱で働き、土や木、果物を触った手をしていて、ものすごく大きくてゴツゴツしている」と過ごしてきた歴史が手に刻まれていたと説明しつつ、「『撮らなきゃな』とぼんやりしているうちに、彼は亡くなってしまった」と告白。「僕は撮り損ねたんです。『私たちは森の果実』にはたくさんの手が映ります。その手を見ながら祖父の手を思い出したし、撮り逃したことも思い出した。とても印象深い映画になった」と語る。
じっくりと三宅監督の話に耳を傾けていたパン監督は、「三宅監督と私には、共通項があるんだと思う」としみじみ。「三宅監督の映画はフィクションですが、人々がどのように共に生きているか、どういう瞬間を生きているか。仕草や暮らしなど、ディテールをとても大切にして描いている」と持論を述べながら、自身も“手”というディテールを大切にしていると明かす。「クメール・ルージュの政権時、私はカンボジアにいました。私はとても華奢な、繊細な手をしていましたが、そのために死にかけました。クメール・ルージュの標的となるのは、ブルジョワ的な、野良仕事をしていない人たち。手を見れば、歴史がわかりますから」と実感を込めていた。

「私たちは森の果実」では、少数民族の姿を追いかけたパン監督。彼らの生活を「資本主義や産業が破壊しようとしている」と現状に触れ、「少数民族である、彼らの仕事の仕草。その仕草は、資本主義に対する戦いであり、自分たちの文化やアイデンティティを守るための戦い。三宅監督の作品と同じように、彼らの仕草をクローズアップで捉えました」と手仕事の重要性を作品に込めたとのこと。

三宅監督は「僕らはデジタルで作業をしていますが、手作業のようにして映像を扱っている。監督の作品からは、そういった手触りを感じる」と敬意を表すなど、それぞれがお互いの作品への愛をあふれさせたこの日。パン監督からの質問も止まらず、「三宅監督の作品は、すごく人間を観察している。どのように社会が変わっていき、それに人間が対応しているのかを描いている。どういうところから、アイデアが浮かぶのか?」と投げかけた。すると三宅監督は、つげ義春の原作が土台であると前置きしつつ、三宅監督は「映画を撮る時には、俳優と仕事をします。この時代を一緒に生きている人間。今撮らなければ、失われていくものになる。彼らも当然人間ですから、10年後には、2025年の彼ら、彼女らは撮ることができない。今しかできないものに立ち会っている。そういう感覚がベースにある」と“今”を映画に注いでいると話す。

会場からの質問に応える場面もあったが、次回作の構想について話が及ぶと、スマートフォンが普及している現代では尺が短い作品を求められる風潮もあると、葛藤を口にしたパン監督。「批判しているわけではなく、それが現代のフォーマットかもしれない。でも私と唱がやろうとしているのは、そのフォーマットじゃないよね」と笑顔を見合わせながら、「ちゃんと尺のある映画を撮ろうと努力している。だからこそ映画が出来上がったら、皆さんには映画館で観てほしいと思う」と希望し、「次の作品は、スーパー8(フィルム)で撮りたいと思っていて。その気概も、ミニのフォーマットに対する反抗でもある」とニヤリ。三宅監督は「パン監督の映画には、いつも新しいチャレンジがある。作品一つ一つにまったく違う手触り、新しい実験がある。8ミリで撮るとお聞きして、また楽しみにしています」と胸を弾ませていた。
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