妻夫木聡、沖縄への想いと映画愛――亡き祖母を思い、大粒の涙があふれる【「宝島」東京キャラバン】
2025年10月3日 10:30

第160回直木賞を受賞した真藤順丈氏の小説を映画化した「宝島」の東京キャラバン(公開後舞台挨拶)が10月2日、東京・新宿バルト9で行われ、主演の妻夫木聡、大友啓史監督、原作者の真藤順丈氏が登壇した。
アメリカ統治下の沖縄を舞台に、自由を求めて駆け抜けた若者たちの葛藤と青春を描いた本作。9月19日に全国公開を迎えると「物量、力量、熱量の三拍子が揃う傑作」「圧倒的スケールと画面越しに伝わってくる熱量に燃え尽きた191分」「英雄オンを探す3人(グスク、ヤマコ、レイ)の生き様を通して、沖縄の抱えて来た痛みや苦しみがより深く心に突き刺さった」「日本人として観ておくべき一作」と公開直後から熱い感想やメッセージが押し寄せている。
主演の妻夫木、大友監督は6月から3カ月以上に及ぶ全国キャラバンを実施。各地で本作へのたぎる想いを伝え続け、東京キャラバンでついに30都市到達(10月2日時点/初日舞台挨拶は含まず)を迎えた。

映画公開から2週間が経ち、全国各地で鑑賞者からの熱い感想やメッセージ、戦後の沖縄を正面から描く“挑戦”に対する様々な議論がSNSを中心に巻き起こっている。物語の舞台・沖縄の地では連日満員、通常の約10倍の動員を記録する劇場もあり、ほとんどの劇場で2週連続土日動員ランキング1位を達成するなど異例の大反響となっている。この報告に妻夫木も「僕は沖縄出身ではないから、とてもプレッシャーはありました。ただ誰よりも沖縄の方々の、先人の方々の想いを背負ってきた覚悟はあったので…」と安堵の表情を見せ、主演作「涙そうそう」から続く沖縄への強い想い入れと深い愛を熱弁した。
「今まで見たことのない沖縄を映像にしてくれて感謝の気持ちです。今もあちこちで戦争は起きていますが、この映画が伝えたいのは『生きる力』なのではと思いました。子どもたちにも伝えていきたいし、『平和に向かっていく心を育てる映画』だと思いました」「『なんくるないさ』の重み、どうしようもないことを、下を向いて歩いてるだけじゃなくて、上を向いてなんくるないさ、なんとかしなくちゃという気持ちのこもった言葉であることを、映画が伝えてくれているように思いました」など現地から寄せられた感想コメントが紹介されると、場内は温かい拍手に包まれた。

妻夫木も「こうして、沖縄の人たちに届いているのが本当に嬉しい」と喜びを語り、大友監督は公開後に再び沖縄を訪れたことを明かし、「この映画が何を届けようとして僕らは始めたのか、どういう覚悟をもってこの作品を作ってきたかという気持ちを再確認してきました」と述懐。改めて「沖縄という土地には沖縄ならではの時間が流れていて、その中で歴史を見るとそうした時間が突然遮断されるような出来事が沢山あった。僕らはそうしたことを伝えたいと思ってこの映画を作ったんです」と、映画『宝島』に込めたメッセージを伝えた。
その後、トークは映画公開後に数多く寄せられた感想や疑問について、妻夫木ら一同が答えていく展開に。まず初めに触れられたのは、191分という“上映時間”について。真藤氏は、「どんな小説でもそうですが、『宝島』でも賛否両論はあった。物語に込めた熱量に没入して称賛していただける声もあったし、非難する声もあった。けれど、それが健全な在り方として嬉しかったし、作り手としては、“黙殺”されてしまうことが一番悲しいので。映画になっても色々な議論が行われていることは良いことだと思っています」と発売当時の反響に触れつつ、映画の反響にも喜びの心境を吐露。


そんな真藤氏が向き合い続けたエネルギーに深く共鳴したという大友監督。「沖縄で感じた豊かな時間や歴史の厚み、そこで生きていた方々の想いの厚みを表現するには、表面的なものは作れない」という大友監督だが、映画の編集段階では尺の長さやテロップの有無についてなど、何度も議論を重ねたと明かす。
「アメリカ統治下の沖縄」という題材について話が及んだ。小説執筆にあたり、徹底的な取材や時代考証に多くの時間を費やしたという真藤氏は、「当初グスクという人物は、東京から沖縄に渡ってきたキャラクターにしようかという構想もあった」と裏話を交えつつ、「でも書けなかったんです。その視点ではとてもこの話は書けないからグスクは現地に生きる人物にしました。沖縄出身ではない自分が沖縄の人になりきれるのか、沖縄の歴史を生きた人々にどれだけ近づけるかというのはすごく大変だった」と当時の苦労について振り返る。そんななか、大友監督と出会い感銘を受けたという真藤氏は、「大友監督が、“映画”でやりたいって言ってくれたことがすごくチャレンジングだと感じたし、監督が目指した“追体験”というのは僕が執筆時に大切していたことにも通じているところがあったので、ぜひお任せしたいと思った」と明かした。

一方の妻夫木は、撮影を通して沖縄をはじめ世界の歴史への理解を深めたことに触れる。「この映画をきっかけに、初めて知る事実も多かった」と告白。「過去にあったことを過去で終わらせてはいけないなと本当に思いました。僕たちは過去を知ることで痛みを知ることができる。痛みを知ることでこの先『同じ過ちを繰り返してはいけない』と未来に繋げることができる。教科書を見てなんとなく分かってる気になったらダメなんだと思う」と強調。そのうえで「また僕たちは武器を持ってしまうかもしれない。でも武器を持っちゃったらまた戦争が始まってしまうかもしれない。その中で失った命は取り戻せないわけで、そういう時代は二度と来てほしくないと思った」と続けると、「自分も子どもがいますし…」と想いがあふれると、壇上で大粒の涙を流す。声を震わせながらも「そんな未来は作りたくない、絶対に」と力強く訴えかける妻夫木の姿に、自然と拍手が巻き起こっていた。
イベントの後半には、妻夫木がグスクを演じるにあたり“原点”となった佐喜眞美術館の館長・佐喜眞道夫氏から手紙が届くサプライズも。以下、その内容を全文掲載する。

代読するMCに真剣に顔を向け、またもあふれる涙をこらえて一つ一つの言葉を噛みしめた妻夫木。すべてを聞き終えた妻夫木は、再び言葉を詰まらせながら「佐喜眞美術館で拝見した『沖縄戦の図』というのは、『宝島』と向き合ううえで、僕にとっての支えだった。もはや、自分が生きるうえでの一生の“核”のような存在になったと思う。今後訪れた時も、『妻夫木、ちゃんと生きているのか』って言われると思うんです。そのたびにきっと、色んなことを思い出すんじゃないかなと思います」と感慨深げに語った。

最後に、「僕は、映画を通して沖縄に触れて死生観が変わりました」と静かに語りかけた妻夫木。コロナ禍に祖母が亡くなったことを明かし、「何もできなかった自分が本当に悔しかった」と涙が止まらない。「それでも、『宝島』を通して死生観が変わって、『おばあちゃんはおじいちゃんに会いに行ったんだな』、『どうしようもなく会いたかったんだな』と思ったら、『また会おうね』と思えるようになったんです。僕は『宝島』でいっぱい宝が見つかった。だから、皆さんもいっぱい宝を見つけてほしい。これまでにいただいた感想の中で、『今すぐ帰って子どもを抱きしめたい』という言葉がありました。僕自身も同じ気持ちになったし、それが僕にとって映画を作る意味だし、俳優をやっている意味だとも思っています」と観客に語り掛けていた。
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