世界的映画遺産“小宮登美次郎コレクション”の未公開16作品、国立映画アーカイブで上映【見どころを解説】
2025年9月29日 10:00

10月27日は、国際記念日の「世界視聴覚遺産の日」。毎年、この日を祝して世界各地では、映画・映像の重要性を訴える特別イベントが開催されている。
国立映画アーカイブでは、世界的な映画遺産として知られる小宮登美次郎コレクションから、これまで未公開だった16作品を上映する特別イベント「発掘された映画たち―小宮登美次郎コレクション PART 2」を10月4日に開催。
今回の開催にあたり、国立映画アーカイブ主任研究員・冨田美香氏よりコメントが到着した。
コメントは、下記の通り。
1990年に東京国立近代美術館フィルムセンター(現:国立映画アーカイブ)に寄贈された小宮登美次郎(1897-1975)さんのコレクションは、1908年から1928年頃までに製作された無声映画で、公開当時の燃えやすい可燃性フィルム148本でした。その9割がイタリア、フランス、ドイツなどのヨーロッパ映画で、8割が、1990年の調査で現存を確認できなかった、つまり小宮コレクションにしかフィルムが存在しないと思われる作品だったんです。
さらに現存作でも、映画史上とても重要なジャン・エプステインの「アッシャー家の末裔」(1928)など、小宮コレクションのフィルムが公開当時の染色版で最もオリジナルに近いプリントと言われたんですね。このコレクションを、1992年にイタリアのポルデノーネ無声映画祭で初めて海外上映した時には、フィルムセンターに特別賞が授与されたほど、世界的な発見だったのです。
コレクションを遺された小宮登美次郎さんは、浅草の宝蔵門の手前にあった料亭「宇治の里」の三代目のご主人でした。関東大震災や戦火を乗り越えて、「宇治の里」の経営に生涯尽力された方ですが、映画が日本に渡来した年に浅草に生まれ、地元が東京一の映画興行街となっていく中で、映画に魅了された方なんですね。
1931年にはもう、自身のコレクションで「床しき影の會」という自主上映会の活動をしています。戦争中は、コレクションを保管していた神田の高架下付近の貸倉庫から、重要な作品を戸隠山に牛車で運んだそうで、奇跡的に神田の倉庫も焼失せず、フィルムが生き残ったんですね。
小宮コレクションのお披露目は、1991年11月から翌年2月にかけて、フィルムセンターの上映企画「発掘された映画たち―小宮登美次郎コレクション」で62作品余を紹介しました。
当時私は学生で、映画の発掘、復元、という言葉に、新しい概念というかロマンというか、清新な意思のようなものを感じながら通ったことを、よく覚えています。もちろん初めて見る映画がほとんどで、初期映画の演出の特徴や、キャラクターや表現の面白さに加えて、染色や調色、彩色などがとにかく美しく、また、フィルムの乳剤面の傷みで実験映画のような映像が続くことにも、衝撃を受けました。
パンフレットには、コレクションの調査が、フィルムの縮みや粉化や乳剤面の溶解などで画を確認できなかったり、フィルム缶の題名と中身が違っていたり、タイトルやクレジットが無かったり、作品のまとまりもわからないバラバラの状態だったりで、大変困難だったことが書かれており、さらに、可燃性フィルムを修復して不燃性のフィルムに複製するという、当時国内で引き受ける現像所がほとんどなかった不燃化作業についても書かれていたんです。読みながら、専門家たちのもの凄い大変な労力の積み重ねがあって、作品が甦ったんだ、という有難さにも感動したんですよね。


その調査を主にされたのが、後に早稲田大学教授になられた小松弘さんで、今回の上映も、2016年秋に小松さんから、小宮コレクションにはまだまだ未上映の作品があり、イタリア・ボローニャの復元映画祭「チネマ・リトロバート」で特集上映をしたい、と伺ったことがきっかけです。
「ええっ?!あの凄い大特集をしたのに、まだまだ上映出来る作品があるんですか?!」って驚きましたね。
翌年度末からボローニャに向けて準備を始め、コロナ禍の2021年に「映像の迷宮:小宮登美次郎コレクション」特集として55本を上映しました。そのうち42本は、国内未上映のプリントで、元フィルムの傷みで映像を判別しにくいプリントや、作品を特定できなかったプリント、断片集も多く含んでいます。小宮コレクションはイタリア映画が多く、このボローニャでの上映で、作品の同定調査も進みました。

そのうえで今回、30有余年を経て、小宮コレクションのお披露目上映第二弾にしようと決めました。ただし、無声映画を初めて見る方にも、このコレクションの魅力を味わいながら映画鑑賞を楽しんでいただけるようにしたい。そのためには作品を厳選して2時間程の2つのプログラムにまとめたい。
そこで、国内未上映の80本余のプリント、総上映時間14時間強を対象に、絞り込み作業と作品の同定調査を行い、タイトルもクレジットも欠けているフィルムが多いので、これまでの調査の裏付けもしました。コレクション寄贈時の書類を今回調べて改めて驚嘆したことは、148本のフィルム調査を1989年4月に開始して6月には報告にまとめていた、ということです。作品を特定できないフィルムももちろんありましたが、今のようにインターネットで国内外のデータベースを検索したり資料を閲覧することもできない、明治・大正期の映画雑誌も復刻されていない時代に、2、3カ月で行った調査結果の精度が凄いんです。
最終的に上映プログラムは、世界初上映の8本と、ボローニャで上映した8本にしました。とはいえ、上映プリントにはまだ、シーンの順序がまちがってつながれている可能性や、別作品が混じっている可能性も若干残っており、欠落シーンなど含め、直前まで調査を続けることになりそうです。詳細は上映当日の配布資料にまとめますが、必要な場合はプリントのつなぎも修正する予定です。

当日は全作品35mmフィルムで、柳下美恵さんによるピアノ伴奏付きで上映します。明治・大正期の日本でもとても人気のあった“薄馬鹿大将”ことマルセル・ファーブルの喜劇や、命知らずのアクションを展開するハリー・ピール監督&トラウトマン主演の探偵活劇、フランス映画のパイオニアの監督フェルディナン・ゼッカとルネ・ルプランス、イタリアの名匠アウグスト・ジェニーナ、監督としても活躍した二枚目俳優のフェボ・マリなど、今まで見ることができなかった映画史上の監督の作品やスターが、スクリーン上に生き生きと甦ります。
ほぼ忘却の彼方へ追いやられていたマッチョなスターのマリオ・グァイタの強靭な肉体に、目を奪われる人も多いでしょう。
知られざる無声映画の魅惑の世界に触れ、私たちの歴史や文化、記憶を伝える大切な映画・映像の保存を考える機会としても、ご鑑賞いただければ有難いです。

ユネスコ「世界視聴覚遺産の日」記念特別イベント 発掘された映画たち―小宮登美次郎コレクション PART 2
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