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「宝島」あらすじ・概要・評論まとめ ~戦後沖縄の「声なき声」に耳を傾ける長大な抒情詩~【おすすめの注目映画】

2025年9月18日 09:00

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「宝島」
「宝島」
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!

本記事では、「宝島」(2025年9月19日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。


画像2(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
【「宝島」あらすじ・概要】

戦後の沖縄を舞台に時代に抗う若者たちの姿を描き、第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説「宝島」を映画化。妻夫木聡が主演を務め、広瀬すず窪田正孝永山瑛太ら豪華キャストが共演。「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督がメガホンをとった。

1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民らに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。そんな戦果アギヤーとして、いつか「でっかい戦果」をあげることを夢見るグスク、ヤマコ、レイの幼なじみの若者3人と、彼らにとって英雄的存在であるリーダー格のオン。しかしある夜の襲撃で“予定外の戦果”を手に入れたオンは、そのまま消息を絶ってしまう。残された3人はオンの影を追いながら生き、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、それぞれの道を歩んでいくが、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境で、思い通りにならない現実にやり場のない怒りを募らせていく。そして、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す。
親友であるオンの痕跡を追う主人公グスクを妻夫木聡が演じ、恋人だったオンの帰りを信じて待ち続けるヤマコ役を広瀬すず、オンの弟であり消えた兄の影を追い求めてヤクザになるレイ役を窪田正孝が担当。そんな彼らの英雄的存在であるオン役を永山瑛太が務めた。

【「宝島」評論】
●戦後沖縄の「声なき声」に耳を傾ける長大な抒情詩(執筆:尾﨑一男)
画像3(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

映画「るろうに剣心」5部作(2012~2021)がもたらした剣戟バトルの刷新は、谷垣健治を中心とするアクションチームと、なにより同シリーズを演出した監督・大友啓史の鋭意な創造性によるところが大きい。だが、そんな氏が真藤順丈の直木賞受賞同名小説を映画化すると聞いたとき、さすがに負うテーマの重積に身のすくむ思いがした。戦後27年間に及ぶアメリカ統治下の沖縄。その沈黙と怒りの歴史に、フィクションとはいえ真正面から挑むことになるのだから。

しかし実際に出来上がった作品は、自分が想定していた「社会派叙事詩」であるより、劇中の若者たちの「青春抒情詩」としての成立を実感させる。義賊“戦果アギヤー”の中心人物・オン(永山瑛太)が忽然と姿を消したことから、彼の行方を追うグスク(妻夫木聡)やヤマコ(広瀬すず)、そしてレイ(窪田正孝)たち主要キャラの人生は分岐し、やがて沖縄最大の民衆蜂起「コザ騒動」で結合していく。そうしたミステリー群像劇の放熱量に圧倒されるうち、我々は自然と沖縄現代史の只中に立たされるのだ。本作がテーマ主義重視なら、むしろ観客を遠ざけたのではないか? そこで大友は脚本を一度白紙に戻し、歴史叙述ではなく感情のドラマに賭けたのだ。誰もがその場に立てば、グスクやヤマコのように行動するはず、という共感性に魂を込めたのである。

画像4(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

特に印象的なのは、監督が取材で語った「声なき声」に対する意識だ。彼が現地で耳にした方言「なんくるないさ」の本義、すなわち「自分たちが受けた屈辱に比べれば、なんてことはない」という諦念の背後には、米軍の強権による、沖縄の人々の押し殺された怒りがある。本土の人間は、その痛みにどれほど無関心だったのか。映画はその沈黙を、観客の深層に直接叩きつける。そこには抑圧された者の叫びを届けるという、大友のドキュメンタリー出身者ならではのジャーナリズム精神が、この映画化をエンタメ大作へと昇華させている点で心を動かされる。

さらに特記すべきは、リアリティを追求する姿勢だろう。本作は600カットという、「ゴジラ-1.0」(2023)に比肩するVFXを駆使しながらも、観客にそれを見ているという意識を与えない。俳優が触れられる環境を重視し、あくまで人間の肉体と感情を基に置き、視覚効果を最小の補助とする。そこには「感情はCGでは創造できない」という監督の確信が込められている。冒頭の嘉手納基地でのチェイスやコザ騒動の群衆シーンも、生身の役者が息づいているからこその説得力だ。グリーンバックに閉じ込められた演技では、この熱量は得られない。

とはいえ、3時間11分に及ぶランニングタイムが、挑戦的かつリスキーなのは否めない。だが5時間以上かけて伊ファシズム闘争史を描いた「1900年」(1976)に心酔したという大友の言葉を借りれば、時代と文化を伝えるには悠然とした時間が不可欠であり、観客の集中力を理由に上映時間を短く刈ることの是非を本作は問いただす。長尺を(共同配給の)ソニー・ピクチャーズにたしなめられたと監督は笑って誇張したが、歴史を生きた者の感情を追体験するための時間が、ここには存在する。

画像5(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

自分は世代的にも精神レベルにおいても、国際海洋博を舞台背景にした「ゴジラ対メカゴジラ」(1974)あたりに沖縄返還の匂いを覚えるのがせいぜいだった。しかし、これからはこの「宝島」がそれを強く紐づける。同作は沖縄の近現代史をスクリーンに刻んだだけでなく、キャラクターたちの生きざまを媒介にして「声なき声」を現代へと響かせる。人の感情を中心に据えたこの長大な抒情詩は、今も基地問題に揺れる沖縄のことを、そして日本全体が捉えるべき歴史的な責任を、我々に再確認させるのだ。

執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)

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映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter:@dolly_ozaki


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