「黒川の女たち」あらすじ・概要・評論まとめ ~性接待の犠牲となり多くの命を救った女性たちに敬意を 男性、若い世代にこそ見てほしい~【おすすめの注目映画】
2025年7月17日 08:30

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、「黒川の女たち」(2025年7月12日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

戦時下の満州で黒川開拓団の女性たちに起きた「接待」という名の性暴力の実態に迫ったドキュメンタリー。
1930~40年代に日本政府の国策のもと実施された満蒙開拓により、日本各地から中国・満州の地に渡った満蒙開拓団。日本の敗戦が濃厚になるなか、1945年8月にソ連軍が満州に侵攻し、開拓団の人々は過酷な状況に追い込まれた。岐阜県から渡った黒川開拓団の人々は生きて日本に帰るため、数えで18歳以上の15人の女性を性の相手として差し出すことで、敵であるソ連軍に助けを求めた。帰国後、女性たちを待ち受けていたのは差別と偏見の目だった。心身ともに傷を負った彼女たちの声はかき消され、この事実は長年にわたり伏せられることになる。しかし戦争から約70年が経った2013年、黒川の女性たちは手を携え、幾重にも重なる加害の事実を公の場で語りはじめた。
そんな女性たちのオーラルストーリーを、「ハマのドン」の松原文枝監督が丁寧に紡ぎ出す。俳優の大竹しのぶが語りを担当。

「犠牲になってほしいと頼まれた」「あれは強姦だった」「体育館のような場所に布団が並べられ、仕切りもなかった」「『お母さん、お母さん』と呼びながら隣と手をつないで耐えた」「泣いても叫んでも誰も助けてくれなかった」と、想像するだけで目を閉じ、耳をふさぎたくなるようなことが、終戦後の数カ月、旧満州の黒川開拓団の若い女性たちに強いられた。
この映画についての紹介記事が映画.comを含むネットニュースで紹介された5月、女性向け匿名掲示板サービス「ガールズちゃんねる」では2000件以上のコメントが寄せられた。映画公開後は新たなトピックも立っている。フォロワー数や声の大きさ、知名度が重視され、政治的に利用もされるSNSとは異なり、匿名の掲示板は、発言に責任を伴わない突発的な感情のはけ口や落書きのようなものかもしれない。でも、この「黒川の女性たち」が多くの日本の女性たちの関心を集め、何かを言いたいというきっかけを与えたことは間違いない。

今、女性が声を上げることによって、男性は“責められている”と感じ、戦中は女性以上に多くの若い男性が命を落とし、誰もが犠牲を払うのが当たり前だったと主張したり、また若い世代は、今の時代を生きるのでさえ大変だから、とにかく残酷なものは見たくない、そもそも大人たちの昔の話は興味がないとスルーしてしまう傾向もあるだろう。しかし、この映画には陰惨な映像はなく、体験の真実を話すのは、上の立場から物を言う政治家でも教育者でもなく、困っている姿を街で見かけたら声をかけて手伝いをしたくなるような、または自分の家族や親戚にもいそうな高齢のおばあちゃんたちだ。
拒否することができず、犠牲となった彼女たちのおかげで、数百人の命が助かった。しかし、終戦後帰国してから彼女たちは称えられるどころか、ひどい差別に遭ったのだ。今、日本で平和を享受している私たちは、そのような体験をした彼女たちの叫びを無視することはできないはずだ。

そして、本作は決して男性を裁く作品ではなく、過去のあやまちを見つめ、現在と未来への期待を込めるものだ。映画に登場する女性は、終戦後結婚し子どもにも恵まれた。息子は母の体験も踏まえ「黒川開拓団で起きたことは日本の縮図」「反省ないまま終わり、誰も戦争の総括をしなかった」と語る。現在の遺族会の会長を務める戦後世代の男性は、事実を伝えるための碑文を建て、自身は体験していない満州での出来事について、犠牲となった女性たちの話を丁寧に聞いて寄り添い、謝罪を続けている。また、犠牲になった女性から直接話を聞き、女子高で教鞭をとる男性教師は、若者が歴史を学ぶことの意義、戦争における加害と被害の両面を教えている。
犠牲となった女性たちは、トラウマに苦しみ、長年口を閉ざすことを余儀なくされていたが、老境に入り「歴史に残さなければいけない」「正々堂々と生きたい」と名前と顔を出しカメラの前で告白する。それがなによりの心からの願いだろう。今年は戦後80年、悲劇を繰り返さないためには、今を生きる私たちが何を考え、どう行動すべきか――勇気あるおばあちゃんたちが人生をかけて平和の重要性を伝える、この夏必見の映画だ。
執筆者紹介

松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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