「中山教頭の人生テスト」あらすじ・概要・評論まとめ ~雑音だらけの学校で教頭先生が見つけたこと~【おすすめの注目映画】
2025年6月26日 09:30

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、「中山教頭の人生テスト」(2025年6月20日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

渋川清彦が主演を務め、校長先生を目指しながらもどこか頼りない小学校の教頭先生が、個性豊かな児童や教師、保護者たち、そして自身の家族との関わりの中で成長していく姿を描いたヒューマンドラマ。
山梨県の小学校で教頭を務める中山晴彦。教員歴30年のベテランである晴彦は、真面目で柔和な性格ながら頼りない一面もある人物だ。4年前に妻を亡くして以来、中学生の娘と2人で暮らしながら校長昇進を目指してはいるが、日々の忙しさに忙殺されて勉強は進まない。ある日、5年1組の臨時担任を任された彼は、児童や保護者、同僚、家族との関わりを通じてさまざまな問題に直面する。そして子どもたちと真剣に向き合う中で、晴彦の人生は少しずつ変化していく。

佐向大監督最新作の主人公は、目の上には校長というたんこぶ、その上にはお節介な大先輩、周りには言いたい放題の教師と児童たちに囲まれた教頭先生である。娘と二人暮らしの彼は典型的な中間管理職。コンプライアンスを楯に過剰反応される昨今、言いたいことは山ほどあるが、そこはぐぐっと堪えて、些末な雑務から臨時担任までオールラウンドに対応しなければならない。
渋川清彦が演じるこの教頭、上昇思考がないわけでない。高校生の娘を最高学府に行かせて独り立ちさせるまであと数年、もうひと踏ん張りせねばならない。学校では小まめにメモを取り、夜な夜な自室の勉強机に向かうと校長試験の問答集とにらめっこ。だが身が入らない。うーん、困った。

この映画を観て得も言えない余韻が残った。その理由を考えてみると、数限りない雑務に追われる教頭が、その都度向き合う取捨選択にあるのではないかと行き当たる。
その選択で良かったのか、悪かったのか。その行為は正しかったのか、誤りだったのか。自分が耳にしたことは真実なのか、嘘なのか。相手が口にしていることは、単なる自己主張なのか、誰かを慮っての偽りなのか。ルールを正しく把握しているわけではないが、決まり事は必要だ。では、それは規範としての効果を生むのか、それとも意味をなさないのか。
黙って聞いていれば誰もが勝手なことばかり。それでも自分を押し出すことなく誰の声にも耳を傾ける。できることはやる。大先輩のアドバイスにも従うし、娘の苦言にもじっと我慢する。もちろん雑用だって引き受ける。でもなぁ…。
劇中、二回のスローモーション描写がある。ひとつは、教頭が校庭を横切ってある生徒の前に歩いて行くシーン。もうひとつは、左から右へと走る車を横移動で撮った場面だ。このとき、映像を追いかけるように劇伴が流れる。そして無音描写が効く場面がいくつかある。映画という表現が呼吸であるとするならば、それは思わず息を止める瞬間である。

「映画という表現は音楽に似ている」―これは黒澤明の言葉だ。
橋本忍さんによると、「音楽は感覚を伝えるだけで、説明はできない。映画も同様で、説明しなきゃ分からないことを説明しても観客には分からない。脚本も同じだ」ということになる。(「複眼の映像:私と黒澤明」文春文庫より要約)
佐向監督は「今回は分かりやすく、いい映画を目指したが、出来上がってみればいつもとそれほど変わらないような気もして…」と著者にメールをくれた。その通り、言葉にできないからこそ生まれた映像は極めて映画的な表現として結実している。
その象徴として作品を根底で支えているのは教頭の“顔”だ。監督の意を汲んだ渋川清彦が、終始変わらぬ表情で、2025年の“江分利満氏”ともいえる中山教頭を体現している。雑音だらけの学校で、いつも持ち歩いていた大切なものを失くしたときに彼が見つけたことは…。人生テストはまだまだ続く。
執筆者紹介

髙橋直樹 (たかはし・なおき)
1962年生まれ。大阪芸大卒。
映画.com編集顧問、ティー・ベーシック代表。
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