【「かくかくしかじか」評論】「描け!」という言葉と情熱を捧げる大切さが心に響き深い余韻を残す
2025年5月11日 08:00

山田洋次監督、吉永小百合主演による「母」3部作の3作目「こんにちは、母さん」(2023)で父と娘の役で共演した大泉洋と永野芽郁が、今度は先生と教え子の役でがっぷり四つに組んだ。「海月姫」「東京タラレバ娘」などのヒット作を生み出してきた人気漫画家・東村アキコ氏の自伝的作品が原作である。
第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した同名漫画を、「地獄の花園」(2021)で永野とタッグを組んだ関和亮監督のメガホンで実写映画化。漫画家を目指す少女・林明子を永野、スパルタ指導の絵画教師・日高健三を大泉が演じ、宮崎、石川、東京を舞台に、2人の9年間にわたる軌跡が描かれる。シリアスな役からコメディまで自在に演じてきた大泉と永野が丁々発止の掛け合いで名コンビぶりを見せ、東村氏の人生を変えた恩師とのかけがえのない日々を、関監督が絶妙なテンポ感でよみがえらせた。「描け!」という恩師の言葉が見る者の心にも響き、笑いと共に自然と切ない涙があふれ、深い余韻を残す。
東村氏がずっと描けなかったというほど思い入れの深い実話であることから、自ら脚本も手掛け、製作にも名を連ねている。映画のために東村氏は漫画の連載を休み、ロケハンから撮影まですべてに参加。さらに、劇中の絵やデッサンもすべて自身で美術監修し、映画の世界を説得力のあるものにしている。永野と大泉のキャスティングも東村氏の希望が実現した。
日高の熱血な指導のあまり、実は漫画家になりたいことを伝えられなかった明子の切ない想い。漫画を描くことが“好き”というだけで、ぐうたらなあまり望む未来に向かえずにいた青春時代から、とにかく“絵”を描き続けろと真っ直ぐに言い続けてくれた恩師の言葉の意味を知った時、感謝を直接伝えられなかった後悔の念がスクリーンからひしひしと伝わってくる。しかし、漫画と絵画というお互いの望みは違っても、描かずにはいられない、描くことでしか自分を表現できないという生き方が、2人を強く結びつけていたことがわかる。
2024年には、空虚な毎日を送っていた男子高校生が情熱だけを武器に美術の世界に本気で挑む姿を描いた秀作「ブルーピリオド」(山口つばさ氏の人気漫画が原作)が公開され、スマッシュヒットを記録。ひたむきに漫画づくりを続ける2人の少女の姿を描いたアニメ映画「ルックバック」(藤本タツキ氏の人気漫画が原作)もすでに名作との評価を得ている。“描く”という物語を映像で表現し、描き手の想いを伝えることはなかなか難しいが、生きるためにひとつのことに情熱を捧げる大切さを「かくかくしかじか」も気付かせてくれる。そして、作品となったその想いは、必ず大切な人に届くはずなのだと。
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
執筆者紹介
和田隆 (わだ・たかし)
1974年生まれ。映画業界紙の記者、編集長などを経て取締役に就任。キネマ旬報などに寄稿。2014年より映画.comで国内映画ランキング、新規事業などを担当。映画もプロデュース。
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