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【「TATAMI」評論】一本の映画であることを遙かに凌駕した、命がけの仕事

2025年3月2日 15:00

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画像1(C)2023 Judo Production LLC. All Rights Reserved

この映画に最初に接した際、そのビジュアルと邦題に強く惹きつけられました。頭をスカーフ(ヒジャブ)で覆った女性のモノクロ写真と「TATAMI」というタイトル。

よく見ると、女性は白い道着を纏って黒帯を巻いているのが分かります。TATAMIは「柔道場の畳」のことでした。外国映画でありながら、日本の柔道がテーマです。

この女性は、イランの女子柔道代表選手です。ジョージア(グルジア)で行われた世界大会に出場し、金メダルを祖国に持ち帰ろうと奮闘しています。彼女が柔道を始めるきっかけにもなった偉大な先輩が、コーチとして大会に帯同しています。

モノクロの映像で描かれる柔道の試合は、非常に陰影に満ちていて美しく、しかも懐かしい記憶を呼び起こします。私は、レニ・リーフェンシュタールの「民族の祭典」とか、デビッド・リンチの「エレファント・マン」を思い出しながら鑑賞していました。

ところが、美しいモノクロ画面とはうらはらに、主人公は白星も黒星も許されない窮地に追い込まれます。国家権力から「大会を棄権せよ」という理不尽な命令が突きつけられるのです。

つまり、彼女がこのまま勝ち進むと、イスラエルの選手と対戦することになる。イラン当局は、自国の代表が政治的な仇敵イスラエルの選手と対戦することを嫌って、棄権を命令したと。

この辺りのメンタリティーは、理解するのが難しいですね。恐らく、勝利ならば問題ないでしょう。しかし、敗北する可能性があるのなら、いっそ戦いを放棄する方が無難という哲学は、何が根底にあるのでしょう。宗教的な教義なのか、単なる国の面子なのか。とにかく、スポーツマン精神に反するものであることは間違いない。

この、試合を棄権せよという命令に対し、選手とコーチの間で決断が一枚岩にならないところが、この映画の最大の見どころです。強権を発動する当局に対し、反旗を翻す選手。一方、コーチは中間管理職のように板挟みになります。強硬な当局の非道極まりない工作の数々が、見る者の感情を刺激して止みません。

起承転結の「転」の部分、終盤のひとひねりで主人公がスイッチする展開には驚きました。この映画がイランでは上映できない理由も十二分に分かりました。

イラン、イスラエル、そして柔道。大変レアな組み合わせですが、柔道の母国である我々日本人にとっては、非常に共感度が高い一本であることは間違いありません。そして、この映画に携わったイラン人全員が、イランから亡命しているという重たい事実も胸に刺さります。

かの国では、「国家に背いたら、国に居場所がなくなる」という現実は、柔道の選手も、映画のスタッフも同じなんですね。もの凄い覚悟を背負ってチャレンジしている人たちがいる。一本の映画であることを遙かに凌駕した、命がけの仕事を見た思いです。

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