【「セプテンバー5」評論】人権か報道の使命か。歴史的悲劇を新たな角度から検証し観客の倫理観を突く
2025年2月16日 14:30
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1972年に、すでに物心がついた年頃になっていた方には、ミュンヘン・オリンピックを襲った、悪夢のようなテロ事件は鮮烈な記憶があるに違いない。パレスチナ武装組織がイスラエル選手団の宿舎で11人を人質にとり、最終的に人質全員が亡くなる顛末がテレビで生中継されるという、前代未聞の事態であったのだから。わたしもまだほんの子供ながら、バルコニーに顔を出したマスクを被ったテロリストの異様な姿だけは、強烈に脳裏に焼き付いている。
本作は、そんなかつてない報道を敢行したTVクルーの視点からすべてを描いた物語だ。観客は事件報道の舞台裏に放り込まれ、ノンストップの放送を続ける彼らがどんな混乱に陥り、どんな決断を迫られたのかを体験することになる。
ティム・フェールバウム監督は綿密なリサーチをもとに事件を再構築し、当時使われていた機材を用いて報道センターを再現して、アーカイブ映像とフィクションを織り交ぜた迫真の現場を生み出した。時計の針が刻一刻と進むなかで、瞬時に判断しなければならない責任者(ピーター・サースガード)とディレクター(ジョン・マガロ)のプレッシャー。いちいちドイツ語通訳(レオニー・ベネシュ)に頼らなければならないクルーたちのもどかしさと焦燥。このあたりは、アカデミー賞脚本賞にノミネートされたのも頷けるディテールの巧さが滲み出る。余談ながら、あるスタッフが現場に大事な女性通訳にうっかり「お茶汲み」を頼み、他のスタッフに叱責された後、逆に彼女にコーヒーを運んでくる、という一幕にも、現場の時代感が表れていた。
もっとも、大きなポイントは彼らがスポーツ番組のクルーだったことである。果たしてニュース班であったなら、やり方は異なっていたのかいないのか、それは誰にもわからない。だが彼らは、「アメリカにいるニュース班に任せろ」という本社の要請に抵抗し、カメラをできるだけ現場に近づけ、一部始終をライブで放送したことにより、犯人側に警察の手の内を明かしてしまったことで人質救出作戦中止の事態を招く。さらに第二の失態は、裏を取らずに「人質解放成功」と発表してしまったことだ。
しかし我々は今日、彼らの姿勢を一方的に批判することができるのだろうか。もし同じ立場に追い込まれたなら、メディアの倫理を考える報道班がどれだけいるだろう。
やがてすべてが終わりスタッフが去った後、暗いスタジオに残された、壁に貼られた人質の選手たちの顔が、観客に重い問いかけをもたらす。
実際にはおよそ20時間続いた出来事を、畳み掛けるような緊張の95分にまとめた監督の手腕と、俳優たちのみごとなアンサンブルに圧倒される。
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