トランプが大統領選に勝った本当の理由とは?「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」【コラム/細野真宏の試写室日記】
2025年1月18日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末2025年1月17日(金)から「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」が公開されます。
これはトランプが1月20日に大統領に就任するので、そのタイミングを狙ってもいますし、これから本格化するアカデミー賞を筆頭とする賞レースも関係しています。
アカデミー賞の前哨戦であるゴールデングローブ賞において、トランプを演じたセバスチャン・スタンが主演男優賞、鍵を握る超大物弁護士を演じたジェレミー・ストロングが助演男優賞にノミネートされているのです。
アメリカでは大統領選佳境の2024年11月10日から公開されました。
ただ、トランプが公開を阻止しようと動いたりして、(選挙の結果からわかるように)アメリカではトランプの支持者が多い状況もあり、トランプ支持者はもちろんのこと、反トランプな人たちにも広がりを見せずに興行収入の面では残念な結果になっています。
この経緯を知っていたので、本作は「わかりやすい反トランプ映画なのだろう」と思って見てみました。
ところが、かつて大統領選挙に関連して大きなムーブメントを巻き起こしたマイケル・ムーア監督の「華氏911」(2004年)などとは大きく異なり、特に偏りは見えず、淡々と事実をドキュメンタリーのように描き続けていたのです!
ただ、ドナルド・トランプという人物を良くも悪くも丁寧に描いているため、「過失などは存在しない」というスタンスのトランプ本人にとってはマイナスな作品に感じるのでしょう。
本作は、何者でもなかったトランプが、今や誰もが知っている巨大なトランプタワーを建てる時代を描いているのですが、私は「トランプは若かりし頃も意外としっかりしていたんだな」とプラスの評価をしました。若かりし頃はダメなお坊ちゃんだろうと思っていたので。
要は、若かりし頃のトランプは、現在のトランプと大差がないのです。
これは、まさに本作で描かれているように、トランプがアメリカで最強の大物弁護士ロイ・コーンと出会い、運が良くロイ・コーンの弟子になったことに「解」があります。
本作のタイトル「The Apprentice(アプレンティス)」は「弟子」という意味なのです。
「マイナスなニュースはすべてフェイクニュース!」といったトランプの日常的な言動は、私は見るに耐えないのですが、これらの言動をするに至った背景が驚くほど明確に見えてくるのです!
つまり、邦題のサブタイトル「ドナルド・トランプの創り方」というのが1番的確に内容を表していると言えます。
これから私たちは4年間、この人物が強大な権限を持つ社会で生きていかなければならず、その原点を本作で確認しておけば今後の状況を俯瞰することもできるのです。
例えば、ロシアとウクライナの戦闘についてトランプは「私が大統領になれば大統領就任から24時間以内に終わらせる」と主張し続けてきました。
ところが、案の定、大統領就任直前になって言い逃れできなくなり既に「6か月はほしい」とトーンダウンして先延ばしをしています。
(日本も含め)アメリカ大統領選挙は、接戦と予想されていたのに蓋を開けると明確なトランプ勝利でした。
これの本質的な理由は、「論理」よりも「雰囲気」が優先されたことにあります。
トランプが属する共和党員は言うまでもなく、民主党員も「急激な物価高」に怒っているのです。
そして、実は政治にそこまでの力はないのですが、「急激な物価高は政治の失策だ」という雰囲気ができあがってしまっています。
さらに、「何だかんだとトランプが大統領だった時には急激な物価高が起こらず経済は安定していた」「トランプ大統領であれば今の物価高を止めてくれる」という雰囲気が大勢を占めることになったのです。
このような状況だとトランプ流のビッグマウスが最大限に効果を発揮してくれるわけです。
つまり、かなりトランプは運が良いのですが、この先どこまで運に恵まれるか、そして、様々な矛盾に多くの人が気付き「論理」が「雰囲気」に勝つことができるのか。
これからのニュースは、まさにエンターテインメントで、このリアルタイムで起こるエンターテインメントを読み解く鍵が本作にあるのです!
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