【亀山千広氏が語り尽くす、「室井慎次」2部作誕生秘話Vol.2】フジテレビ社長室で亀山千広氏を睨めつけていた室井慎次
2024年12月4日 12:00
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日本映画界で数々の伝説を打ち立ててきた「踊る大捜査線」シリーズが、実に12年ぶりに再始動し、柳葉敏郎扮する人気キャラクターの室井慎次が主人公を務める2部作「室井慎次 敗れざる者」「室井慎次 生き続ける者」として製作されることが発表されたのが、今春。それ以降、「生き続ける者」が公開された現在をもってしても、長きにわたりシリーズを支え続けてきたファンのざわめきが止まない。
映画.comでは、シリーズの生みの親ともいえるプロデューサーの亀山千広氏に緊急インタビューを敢行。全3回でお届けするが、初回は文字通り「製作秘話」を包み隠さず明かしてくれた亀山氏が、今回は社長業がありながらプロデューサーに復帰するにいたった経緯などを話してくれた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)
映画.comが12年前に亀山氏を取材した約3カ月前、亀山氏はフジテレビの常務取締役に就任している。翌13年6月には、フジテレビ代表取締役社長に就任。その後、17年に社長を退任しBSフジ社長に就く。この時期、映画製作や「踊る大捜査線」どころではない…というのは想像に難くないが、亀山氏本人はどのような心持ちだったのだろうか。
亀山:全てが変わりました。僕は編成やドラマ畑しか経験してこなかったわけです。営業を経験していないから、スポンサーのところへ行って番組を説明したこともない。テレビの根幹でもある報道も経験していない。だから営業の構造を理解すること、報道のあるべき姿とは何なのかを担当役員と散々話しました。やるからには負けたくないので、勉強しなくてはならないことは山ほどある。
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あの頃は映画もドラマも、一切見る時間はなかったですね。でも、社長会見では必ず他局のドラマについて聞かれるんです。書かれ方も「踊る大社長」とかね。そうじゃないでしょう…と思いながら、僕自身がそういうものを払拭していかなければダメだと思っていたので、全く何も考えていませんでした。
ただ、社長室には「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」の主要キャスト全員の寄せ書きを、自分なりに額装して飾っていました。過去の栄光にすがっているようにも見えるし、戒めだったのかもしれない。その額装の中から、室井慎次はずっと僕のことを睨みつけていたんです(笑)。お見せしますよ。ちょっと来てください。
亀山:格好良い言い方をすれば、しんどいことが山積みだったわけですが、あの寄せ書きが後ろにあることで「俺はこういうことをしてきた男だ!」と自分に自信をつけたかったんだと思います。だから結局、背負っているというか、引きずっていたんでしょうね。そういう状況だったので、何かを作るということからは隔絶された世界でした。
「踊る」がヒットしたら編成部長をやれと現場から外れ、「踊る2」が大ヒットしたら映画事業局を作れと言われ一部門ができ、フジテレビ映画というブランドも軌道に乗りました。そして「踊る THE FINAL」が終わると、常務を1年しか経験していないのに社長になる…。転機、転機に「踊る」がありました。
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君塚さんから「室井を書きたい」と言われたとき、「警視総監 室井慎次」を作る気は全くなかったんです。仮に組織のトップになったとして、達成感なんてほんのわずか。僕は半日くらいだった。帰りにレインボーブリッジを渡ってからフジテレビ社屋を見て「でかい会社だなあ」とプレッシャーに感じたものです。室井は公務員ですから、警視総監になったらなったで「でかい事件が起こらぬようつつがなく終わってくれ」「俺の在任期間中だけはうまくやってくれ」という心境になるはず。ちっとも楽しくないし、幸せでもない。
僕は4年で成果を出せずに退任するわけですが、BSフジはフジテレビと比べれば20分の1くらいの会社です。いまは筧利夫さんが演じてくださった今作の新城賢太郎の気分ですよ。新城のセリフにもありましたよね。「ここから改革する」。あのセリフは君塚さんがお書きになったものですが、きっと僕の会話をお聞きになって新城の気持ちと重ねてくれたんでしょうね。
しょうがないですよ、こういう物語を作っていくとすれば、どうしたってサラリーマンをやっている僕の姿がリンクしていく。君塚さんはフリーランス、本広監督もほぼフリーランス、スタッフだってフリーランスが多い。組織にいるのは僕だけ。投影はしないまでも、年齢的にも近いですし寄せやすい。
「踊る」を作っているときも、室井さんの言っていることを僕は理解できるから面白かった。ルールを本広監督たちがぐちゃぐちゃにする。叱りながらも、責任は取る。でも、数字が良ければ責任は取らなくて済む。ただ、彼らが好き放題やった赤字の責任は取らされるという(笑)。こういう一部始終が、全て作品に乗り移っていくんでしょうね。
会社経営もクリエイティブなことかもしれませんが、この12年間、フィクションという意味でのクリエイティブからは最も縁遠い場所にいました。だから劇映画とか見ませんでした。ドキュメンタリーばかり見ていました。
ドキュメンタリーといえば、コロナ禍の20年8月に亀山氏がプロデュースしたドキュメンタリー映画「ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)」で、筆者は久々に亀山氏をインタビューしている。「亀山千広さん、ジャズ喫茶で事件は起きていますか?」というタイトルで配信したところ、かなりの反響を得たことは記憶に新しい。
その取材で、亀山氏は「しばらく別の神経を使ってきたから、純粋にモノ作りをしたい。悔しいかな、この作品に関わったことで、ちょっと火を付けられた」と口にしている。亀山氏の中で、「室井慎次」2部作が自らの“事件”になっていった最大の導火線がどこにあったのか探りたくなった。
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亀山:今までは公開日やオンエア日が決められて、そこを目がけて作ってきたわけです。ただ、「ジャズ喫茶ベイシー」も、「室井慎次」2部作も、公開日や発表するデバイスすら自分たちで選べるんじゃないか、つまり、公開日や放送枠などが決められているわけではなかったので、1年かかろうが2年かかろうができると思っていたんです。感覚としては、小説を作っているのと同じで、編集者(亀山氏)と作家(君塚)としての作業が続いていきました。この小説を作るような1年間があったおかげで、感覚が随分戻ってきた気がします。
編集者の作業としては、作家の意図を汲んで書かれている物語を理論的に説明していかなければならない。本当は座組みを作って若いプロデューサーに「はい、作って!」と託すだけで済むのかなと思っていたんですが、どうやらそうはいかないぞ…という展開になってきた。しまいには監督に「俺がずっとそばにいるからやろうよ」と言っていた。女性に向かって「大丈夫だよ、僕がいるから」みたいなことを言って、冗談じゃないですよ(笑)。監督も「本当に現場に来るんでしょうね!」なんて念押ししてくるし、言うに事欠いて僕の最後の作品だなんて言っちゃうんですから(笑)。
僕にとっての転機は、BSフジの役員会のあとに「実は動いている。うちも出資することになると思う。社業になるけれど、僕が現場のプロデューサーをやることになると思う。定例の会議には絶対に出るけれど、遠方のロケへ行くと携帯の電波が繋がらなかったりするかもしれない。なるべく土日を挟んで行くようにするけど、いいですか?」と常勤の役員に了解を取ったときかな。監査役にも、社長が社業にもかかわらずプロデューサーをやって会社を空けることに関する理論武装をしたいのですが、どうしたらいいですか?と相談もしました。そしてスイッチが入ったのは、「分かりました。よろしくお願いします」と役員全員が納得してくれたときでしょうね。
もっと言ってしまえば、自分たちの会社も出資していますから、下手に赤字は出せない。しかも社長がプロデューサーも兼ねて趣味でやっているみたいに思われるのは、社内外に示しがつかない。そのプレッシャーも含め、全部背負うのかと思いました(笑)。
亀山:これまで、僕は一度だって室井はこうあるべきだって口にしたことはないんです。本来、プロデューサーとして主人公の青島に感情移入していくべきなんですが、作り始めたのが40代だったし、年齢的にも室井のことが理解できたんだと思います。サラリーマンは僕しかいなかったから、なんとなしに室井に関する質問は僕が必ず受けていた。青島については聞かれたことがありません。本広監督が勝手に作り込んでいっちゃうから(笑)。
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物語の構成上、体制側の室井は本来敵なんですよ。ただ、柳葉さんの情が乗り移ってきちゃったんで、表現として適切ではないかもしれないけれど、本当の悪役という意味での室井2号を用意しなければならず、筧さんが新城を見事に演じてくれた。でも新城も青島の毒牙に引っかかってこちら側に入り始めたので、さあ、真矢ミキさんの沖田の出番だと(笑)。最終的には小栗旬、小泉孝太郎、香取慎吾ら若き下士官のクーデターで締め括ろうと。
そこで室井が気づくんですが、問題があるのは所轄じゃない、本庁だと。それで組織改革審議委員会を作るわけですが、官僚というのは正義だけじゃやっていけない。国民・市民じゃなくて、相手は国家ですから。本広監督が「室井は亀山自身だ」と言うけれど、僕はあんなに厳しくないし、孤高でもない。
初めて話す話ですが、「室井慎次 敗れざる者」の冒頭で、室井が歩いてくるシーンがありますよね。これまでの室井の映像が一気に流れる。これは青島との約束を思い出させるためのものですが、僕にとっては社長を辞めるとき、任を解かれるときにわずか数メートルの廊下を歩いているときとリンクするんです。実際に色々なことを思い出した瞬間でもあったので、走馬灯のように編集してくれって監督にお願いをしました。
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あのフラッシュバックする映像をつけようと監督と話をしたのは、つまり「君はもういらない」と言われるとき、本人も薄々気づいてきているはずなんですよ。突然「えっ?」ではないはずだと。そういうことを言うから室井の分身だと言われるわけですが、あくまでも僕はサラリーマン代表というだけですよ(笑)。
今回は社長である亀山氏が現場のプロデューサーを務めるにいたった経緯を中心に展開したが、次回はいよいよ「青島俊作」について、秘蔵ネタを披露してもらう。こうご期待。
執筆者紹介
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大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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